一章 * 王宮にて 3
少し短めになってしまいました。
ずっと考えていたことだった。
王都に入ってからも、リオンの中で《過去の記憶》は今までのように不意に与えられていたし、内容も徐々に分かりやすくなっていった。魔力が使える使えないに関係なく代償の痛みを取り除く力も相変わらず使える。しかし一つ大きな変化があった。
聖獣シンと対峙した者に近づくにつれ、いつもならシンの存在がはっきりと感じたのに王都ではそれが全くといっていいほど感じられなくなっていたことは王都に入った時からの疑問であり変化だった。
ミオの力を聞かされたとき、彼女の存在が互いに影響しているかも知れないと思ったりもしたけれど、ジェスターを解放した時にミオが初めてシンの存在に気がついたこと、力を跳ね返していたことを考えるとシンにはミオの力が影響し難いことが分かっている。
実際今まで見てきた記憶からも、魔導師の力は聖獣にはあまり影響しないだろうとリオンも何となくわかっていたが、それがはっきりして、今回今この場所でさらにわかったことがある。
王家への憎しみ
クロードに対してシンが残した言葉には確かにこの王家への憎しみがあった。
そしていつもならリオンの意識を支配して膨大な量の記憶を与えられるということが起きなかった。実のところ、ジェスターのときは記憶を与えられてはいるが、いつもより少ないと感じていた。つまり、この王都に入ってリオンがジェスターを、クロードを、そして今上皇を解放しようとして、変化が起きている。
そしてリオンを不安にさせるのは、今まで一度も感じたことのないこの拒絶感。
「やります」
意を決して、リオンは真っ直ぐ上皇を見つめた。上皇は穏やかな表情で、頷いて目を閉じた。
意識を集中し、上皇を捕らえ続けた痛みを取り除きたいと願う。その願いがどのように変化しているのか分からないが、その願いはリオンに、体を軽く浮かせるような感覚を与えてそれが痛みを取り除けた感覚として体感することができる。少し時間がかかったが、いつもの感覚にホッとした瞬間だった。
『憎しみはそう簡単には消えぬ』
リオンは目を見開いて辺りを見渡し立ち上がり困惑する。その場にいる全員が、リオンのように辺りを見渡しているのだ。
「皆、聞こえてるの?」
『リオンよ』
諭すようなそんな雰囲気のある声だった。
『なぜ我々と魂を共有しながら《あの男》の子孫を救おうとする?』
「まって、なんの話し? 《シン》お願い教えて、ちゃんと教えて」
『我らの屈辱を憎悪を誰が償うというのか』
「《シン》教えて。王家があなたとどう関係しているの? 私には記憶があるけどひどくバラバラでわからないことが多すぎる」
『当然知っている。それもまた《聖域の扉》である証だリオンよ。代償を負った者を解放することで眠っているいる力が少しずつ解放される。
持っている力を使うことで《聖域の扉》としてゆっくり覚醒してゆく。
あらゆる力がお前の中で開花して行くことで過去の事実に触れることが出来る。そしてそれを繰り返しお前は我々の存在と人の有るべきところを修正し再生して行くそれが《聖域の扉》』
「聖域の、扉?」
『いずれ全てを知るだろう。
そして我々の憎悪の根元にたどり着く。その男の先祖の生み出した我々の憎悪にも。リオンよその男を解放してほしいか?』
聞きたいことが山ほどあるのに、言葉が見つからなかった。
いますべきこと、それが何なのかを考えることが精一杯でリオンは頷くだけだった。
「‥‥それが私の役目だと信じてるから」
『ならば解放する』
「《シン》教えて。どうして‥‥。私は一体、何をすればいい? 何を、知ればいいの」
『お前のことは、しかるべき時に。そしていずれまたこの血族は繰り返すかもしれぬが』
「お願い教えて。話を聞いて」
『我は決して許すわけではない。
お前の使命を邪魔しないただそれだけのことだと忘れるな。
おぼえておくがいいフォルクセスの者。我はその血を永遠に許すことはない。
いつか真実を知り得たとき子孫にどう伝承して行くのかしかと見させてもらう』
声が少しずつ遠退く。
『そしてその血が今一度同じ過ちを犯すその時、その瞬間血が絶えることをおぼえておくがいい』
『リオンよ。
いずれお前は過去の《聖域の扉》同様遥か昔の《負の始まりの時》を知るだろう』
「負の始まりの時?」
『今まだ不安定のお前を私はいつでも見守っている。いつかゆっくりと話したいものだ』
「ちょっと待って」
『我の知る美しく調和した世界の話を聞かせよう。
穢れなき時代の話を』
「待って!! 《シン》!!」
『今この瞬間我の代償を背負う者は全て解放され我は一つに戻る。
静かに時が流れるのを見守る存在に戻る』
声はさらに遠退く。
『リオンよ。
我はお前を見守ろう。
己の道を行くがいい。
案ずるな。
我らは皆お前をいつでも慈しみ共にあるのだから』
短い《過去の記憶》が流れ込む。
その場にいる人たちの様子から、瞬きほどの短い時間だったらしいとリオンはハッと息をついた。
今、知られてはならない記憶だった。
シンが見せた、シンがその目で見ていた記憶だと確信があった。
沢山の疑問とジレンマを、吹き飛ばすような過去の出来事。
このティルバの王家の成り立ちを揺るがす消し去られた歴史の一幕。
絶対に、今は話すべきではない。
リオンはその記憶を封印する。
この先自分がもっと聖獣や魔物について語れる日が来るまで、《過去の記憶》を自分なりに整理できるまで。
王家になにがあったのか?いずれ書きますが先の話になると思います。




