表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/144

一章 * 出会う人々 1

一人称の時もありますが基本は三人称で書くことになると思います。

〔~の語り〕となる場合は章の区切りや閑話で聖女の一人称を予定しています。

途中、色々調整しながら頑張ります。

  王都に来て四日も経つのに、彼女はまだ目をキラキラさせていたので保護者であるビートと妻のジェナはちょっと大袈裟な感じでわざとうなだれる。

「リオン。おおーい」

  そんな二人のことなど気にも止めずキョロキョロ余所見ばかりする彼女の頭にビートはちょっと強めに手を乗せて鷲掴みにする。

「前見ろ前!!」

「い、痛いビート」

「お前がちゃんと前見て歩いてくれたらこんなことはしない」

 

 この、ティルバ国の中枢である王都は別名《水の都》や《フォルサ》と呼ばれる。別名の一つから分かるように緑豊かで大河が流れる平坦な地形にあり、遥か昔の祖先たちが地道な努力で土地を開拓し水路を巡らせ、大陸で有数の整備の行き届いた大都となった。もう一つ《フォルサ》という別名があるがこれには謎があり、いつからなのかまた誰がつけたのかなどは判明していない。ただひとつ分かっているのは本来は『人の名前』ということだけだ。それなのにこの別名はティルバならず大陸の大半の人々が認知しているほど古くから使われている。


 王都でありそして古くから人々に別名まで親しまれているだけあって、この都は活気に溢れ絶えず人々が行き交いあらゆるものの流通も盛んに行われている。王宮のある中心部から東西南北に大きな路が真っ直ぐに伸びているそれらに沿うように道がほぼ等間隔に水路とともに張り巡らされていて、住宅地は勿論商店街なども区画によって整備され住みよいだけでなく闊歩するにもあまり不安なく進めるようになっている。

 三人はティルバでも北西に位置する隣国国境に一番近い山岳地方出身で、一番近い大きな市ですらこの王都の五分の一にも満たないような田舎だから彼女の、この活気や美しく整備された町並みやあらゆる店が目を向ける度にその目に飛び込んでくる光景に興奮してしまうのも分からなくもないが、それでもビートとジェナがつい口任せに注意してしまうのはリオンのせいだろう。


「聞いたか、昨日の騒ぎ」

「ああ、ガダルーのだろ?」

「それホントの話なのか?」

「らしいぜ、見かけたんだってよ」

「参ったな…この辺も物騒になるのか?」


 好奇心旺盛で何にでも耳を傾けて聞きたがる。子供の頃からそうだった。自分の目で確かめて見ないと気がすまないから自分から迷子になるのは日常茶飯事、そして目についた知らないものにはどんなものでも興味を持ってしまうから彼女の部屋にはガラクタを含めてとにかくいろんなものが溢れていた時期もあるほどだ。彼女も最近二十三歳を迎え少しは大人の女性としての恥じらいや節度を持ち始めたとはいえ、そうそう人の性格や習慣なんて簡単には治らない。

 だから今日も宿から外に出たとたんにあちこち目移りしてばかりでなかなか前に進まない。全然行動範囲が広がらないのは辛いよ、と二人がうんざりした雰囲気をわざと出しても確信犯でそれを無視したリオンと二人が睨みあった瞬間に聞こえてきた男たちの会話。


「まさかこの王都に入って来たりしないよな、《魔物》がさ」

 

三人でのにらみ合いはもはやコミュニケーション。半分ふざけて腕を組んだり胸をはったりしたりもご愛敬。そんな三人が一瞬にしてその悪ふざけと言ってもいい睨み合いを止めて、会話をする男たちとほどよい距離を保ちつつ息を潜めて耳を傾け歩きだす。

「でもあいつらって、人の多いとこにはあんまり来ないだろ?流石に」

「ガダルーは人が少ないってか?そりゃあ農業主体の町だけど、それなりのとこだろ」

「‥‥だよな。だから大騒ぎになってんだもんな。ルブルデンのすぐそばの町だし」

 

 魔物。


「見かけただけって言ってもよぉ。外れの畑って言ったって町の中には変わりねぇ」

「昼間で作業してたやつらも結構いたって話だ。そいつらが悲鳴が聞こえて見た方向にいて、全員が《魔物》だ、間違いないって大騒ぎになったらしい」

「今までこんなことなかったのにな。ここ数年、国中で増えてきてるなんて噂もある」

「国どころか‥‥大陸中だろ。北の方じゃ難民が流れて来てる土地も出てきたって話も商人がしてたな」


 いつからこの存在が人々を脅かすようになったのか知るものはいない。

 人々の生活を脅かす。

 常にこの世界のどこかで人々の頭を悩ます。

 この脅威は不定期に、前触れや原因がわからぬままこの大陸の何処かで突発的に爆発的に増加して広がっていく、を繰り返している。

 そして確かに今現在真しやかに噂が噂ではなく現実の事として人々の生活に影を落とし始めている存在が《魔物》。

 

 本来《魔物》は山岳地帯、湿原や砂漠といった人が住むには適さない土地や人の手が加えられていない未開の地といった場所で見かけるのがほとんどだった。人に危害を加え骨まで食らう存在でどの時代も例外なく恐怖の対象であり忌み嫌われているが、こちらからその可能性がある危険な地に踏み込みさえしなければ遭遇すること自体珍しい。実際その存在を書物で読んだりみたりするだけでその生涯を閉じるものもいるほど本来は人との接触が少ない存在であるはずだった。

 一体なにが起きているのだろう?

 男達は、そんな心の疑問を互いに聞かせ、そして聞きながら会話を続けていた。それを三人は黙って他の通行人に紛れながら盗み聞く。

 しかし突然三人の静けさを破ることが起こった。


「え、なに?」

 ジェナが思わす上ずった声をあげたが彼女だけではない。賑やかな活気を乱すそんな声は三人の周りでかなり出て、一瞬にしてざわめきとどよめきが入り交じり、人が集まってくる。

「あーあー、喧嘩だよ」

 呆れた声はビートだ。

「なんか酔っぱらってるみたい?」

 リオンもつい怪訝(けげん)そうにし、露骨に嫌そうな声で呟く。

 呂律(ろれつ)の回らぬ男と顔は赤いが意識がしっかりしている男は、くだらぬことで言い争っているうちに取っ組み合いにまで発展してしまったらしい。人だかりの中にはわざと煽る(あおる)ような歓声や口笛を吹くやつまでいて一気にその場が騒がしくなり三人はもはや関わりたくないと言わんばかりに互いに目で合図をすると歩き始めた。

「きゃあああ!!」

 人だかりを何とか抜けてさて何処へ向かう?と話し出したビートとジェナ、リオンはびくりと体を強張らせ勢いよく振り向いた。悲鳴と怒号と逃げ惑う人々の隙間から見えたもの。

「リオン! ばか!! よせ! 関わるな!」

 ビートが走り出そうとしていたリオンの腕を咄嗟(とっさ)につかもうとしたけれどそれよりも速くその手をすり抜けるようにして人混みに逆らうように彼女は全力で走っていた。

「‥‥無理よ止めるなんて」

 一瞬ポカンとしてしまったジェナ。

「あの子のお人好しは病気よ病気。止められたら苦労しないわ」

 急に開き直った彼女はそう言って笑い出す。

「笑い事じゃないぞ!! 力を使ったらどうするんだよ!? 今日は使えるんだぞ?!」

「どうするって、使うに決まってるでしょ。諦めなさいよ、それに()()()()()()()()なんだから目立つ力なんて出ないわよぉ。」

 そしてやっぱりジェナは笑った。

「ビート、大丈夫よ。決して誰も彼女の進む道を邪魔することはできないのよ私たちは保護者でしよ? 諦めなさい、あの好奇心とお人好しを止めるなんて無理無理!!」

 ケラケラと面白そうに笑う彼女のそばで、頭を抱えるビートが大きく大きくため息をついた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ