四章 * とある魔導師との語り
大変、大変お待たせ致しました。
四章開始です。
そしてミオ様の語りなので一話のみの更新です。
◇ここまでのあらすじ。
リオンとセリードは魔物被害が急速に拡大していたビスにて独自の方法で被害を最小限に抑えることに成功。
その間、リオンとは別の方法で魔物討伐に成果を出す知識をもつ女性が王都で丁重に迎えられたり、王都近くでマリオ団長とフィオラがとんでもないものに遭遇したり。
そしてリオンたちもついに無事帰還。
ミオはのんびりとお茶の用意をする。
テーブルには彼女の好きな焼菓子。
あの男が来るときは聖女がお茶の用意をすることをフィオラもナイルも止めたりしない。それを複雑な顔で見ているのが本来はそれを仕事とする執事だ。
「ミオ様、お連れしました」
扉をノックする音と声がしてすかさず扉近くにいたフィオラが扉を開く。そこにはアクレスともう一人男がいた。
「お久しぶりでございます。まずはこのような薄汚れた騎士服での面会、心よりお詫び申し上げます」
男は深々と一礼したが、ミオはそんな彼にお構いなしでお茶の用意をしている。
「堅苦しい挨拶はなしよ、といつまで言わせるのかしら?」
ミオは面白可笑しく笑い、ちょうどよく色が出たお茶をカップに注ぐ。
アクレスが扉を閉め男と共に中に入ると男はかなり困った顔をしてアクレスの方を振り向いたがアクレスはアクレスで面白そうに顔を綻ばせている。
「ここではミオ様のお言葉が全てだけど?」
「は、しかし」
「相変わらず融通が利かないな? ミオ様がお茶の用意をしてくださった、一緒のテーブルについて。」
「ですから!! アクレス様を差し置いてそんな事は出来ませんと何度申し上げております!!」
「ビスからルブルデンに立ち寄って、帰還報告前のいそがしい時に来てもらっている私としては……せめてもの休息。午後の報告会にはあなたも出席でしょう? 今ね昼食も用意をさせているから食べて行って?」
「……ありがたく、頂戴致します」
不服そうに、それでも一礼した男をアクレスとミオは笑い、フィオラとナイルは心の中だけでこの人は相変わらずだなぁ、と笑った。
「……そう」
「ティナ副長の妊娠を早期で見極めたことは特に団長を動かすきっかけになったと思います。御本人はもちろん、リュウシャ様さえ分からなかったことをリオンが触れもせずに当てたんです。その他のことはそこにいるフィオラとの意思疎通でご存知でしょうが、とにかくリオンへの信頼は手にとるように強まって行くのが分かるほどでした」
しばらくミオは黙ったまま、手に持つカップを見つめていた。
「気になることでも?」
アクレスがその沈黙を破った。
「……だとしても、取れていないのよ」
「え?」
「マリオ団長の周りから……不穏な風が」
それは、ミオがビスに遠征する直前のマリオを見かけた時に感じたものだった。
彼から直接吹き出しているのではなく、明らかに周りで起きている不穏な風がマリオを包んでいるもので、その事はセリードとフィオラにも伝えられていた。
フィオラが先行し帰還することになったマリオたちに同行したのも、半分は聖獣に会えるかもしれない期待、半分は誰が接触してくるかを監視する目的もあった。
「以前もお伝えしましたが、ブラインの息がかかった諜報員は確認しています。ですがそれ以外はセリード様も不審人物は確認しておりませんし、ルブルデンでも接触はありませんでした、あくまでも私の目の届く所ではありますが……」
フィオラがそこまで言ってふと思い出したことがあるようだ。
「あ?」
「どうしたの?」
「もしかして、オクトナとセリード様もどうもはっきりしない負の感情を感じるって言ってたのと同じ? すごくフワッとした表現で言ってたことがありまして」
―――なんかはっきりしないんだよな。
マリオ団長でもないし、団員の誰かってわけでもなくて……。でも確実に負の感じがするんだけど消えそうな、いや、見えなくなる?……なんだろう? 分からないな。―――
「って。マリオ騎士団がビスにいる間ずっと感じてたようです。その感覚は他には感じないようで、オクトナはもしかすると間接的なものかもしれないと。そういう事例は極めて少ないようで、オクトナですら首を傾げていました。その根源に会えばはっきりするらしいですよ」
フィオラのその言葉に、ミオは小さく頷いた。
「負の感情を見極める選定者が感じた不確かなものと、私の見える不穏な風が……。やはりマリオ団長の周りを少し注意する必要があるわね。それにはやはりあなたの協力が不可欠だわ」
ミオの言葉に男は一礼する。
「尽力させていただきます。どれ程お役に立てるか分かりませんが。せめて、何かしらご報告だけでも出来ますように。私のような者に居場所を作って頂いたご恩に報いるためにも」
その途端、アクレスが溜め息をついて、男はビクッと肩を跳ねらせた。
「堅苦しいな」
「あ、いや、その、しかし」
「もう少し、何とかならないかな? そんなだから父は君を手放す羽目になって」
「我が父の不祥事で、一族首を吊らずに済んだのは一重に摂政クラウス様のお陰です。そのご子息アクレス様、そして全てを知りながら私に居場所をくださったミオ様のために身を粉にせずなんの意味がありますか」
「父親の不祥事で自殺しかねない男への妥協案として国外追放を言い渡したらこれだ」
「私は一生かけて償いお仕えする所存です」
「重たいな、相変わらず」
鬱陶しいと言わんばかりに項垂れて額に手をあてがうアクレスをミオが笑う。
「頼もしいわ、キース」
「マリオ団長とやはり相性が良いのね」
「相性が良いんですかね? 振り回されてる感じでしたが」
フィオラがビスでキースがとにかくマリオとティナの夫婦喧嘩の仲裁役を周りから押し付けられていたのを思い出し苦笑い。
「どんなことでも馬馬車のように働くのがキースの生き方になってしまっているから。それも含めて彼の仕事なのでしょうね」
ミオは面白そうに笑う。
「おじ様のところではなく、マリオ団長にお願いしたのは間違いではなかったわ。キースも今ではすっかり前向きになっているし。あの頃は今より私も力も地位も安定していたわけではなかった。それでも返事一つでキースを受け入れて下さったマリオ団長には本当に感謝しているのよ。……ブラインとの接点も何かしらの理由があるようだから、あの方御本人のことは心配ないでしょう」
「と、なるとやはり団員の中にブラインの仲間が?」
「……どうかしら。それだと、セリードとオクトナがとっくに反応しているはず。それにブラインと決まったわけでもないわ」
「誰であろうと、脅されているかもしくは利用されていて気がついていない場合はどうですか?」
アクレスは言葉を選びながらゆっくりと話す。
「セリード様とミオ様の見えている物の質は同じように思います。……キースが側にいてブラインの諜報員以外の不審人物がそう簡単にマリオ団長に近づけるとは思わないのですが」
「だとすると、後者が有力そうですね」
ナイルがちょっと難しい顔をする。
「厄介ですよ、それだと。気づかずブラインに情報が漏れていることもですが、マリオ団長は四十世世代騎士団の筆頭騎士です。機密に大きく関わっています、団員も例外なく。陛下や皇太子からの勅命秘密裏の活動命令なども筒抜けになるかもしれません」
「間接的にだとしても、ミオ様や選定の力に引っかかる位だものね、相当な悪い感情だわ。…でも、それはそれで人物は絞り込める可能性もある、かな?」
首を傾げ、フィオラは唸る。
「マリオ団長と、リオンに共通する負の感情、共通する、ブライン絡みの可能性がある人物?…絡んでいないとしても、どっちにも、あんまりいい感情を持ってない、って…。ん?まさかねぇ?タイムリー過ぎる」
「なに?」
ミオの問いに、フィオラが困った顔をして、そして代わりにアクレスが答えた。
その名前の人物は後に四十世世代騎士団の複雑な関係性を良くも悪くも、壊すことになる。
「ダイアナ団長」
ミオとナイルが目を見開いた。
「あの人のジェスター様への感情は……少々厄介なまま年月を経て、歪になってしまったようですから」
本当におまたせしてしまい申し訳ありません。
なんといいますか、この四章が作者にとって大変な鬼門となりまして。
四章の人間関係が非常に重要だと先に決定してしまったので、それに合わせて三章の大幅な加筆修正が強いられることに。さらには四章のせいで五章で辻褄が合わなくなってしまう流れになりそうで。
とにかく、いまだ迷走しながらの執筆作品です。
頑張りますので気長にお待ち下さいませ。