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三章 * 常夏との別れ、そして帰還 2

 オクトナの発言に。

(食っちゃったんだろうなぁ。セリード見てねえとこで。あいつ、リオンとセリード以外に興味無さそうだもんなぁ)

 なんてことを思いながら、バノンはテントの中で唸る。

「どうしました?」

 副長のディオンの問いかけにバノンがため息を返したのでさらに彼は首を傾げる。

「オクトナなんだけどよ」

「はい、なにか?」

「お前もやっぱ怖いとか思ってんの?」

「そんなの」

 そしてディオンはきっぱり。

「怖いに決まってるでしょ」

 素直に開き直ったような怖い宣言をされてバノンは遠い目をして頷く。

「聖獣って、オレもっと神秘的なものだと思ってましたけど、オクトナを知るたびこの生き物ってなんだろうって。神秘というより漠然とした怖さがあります」

「まぁ、な」

「団長は怖くないですか?」

「怖い、といえば怖いんだけど、よく分からんっていうのが正直なとこだな」

 それを聞いたディオンは苦笑い。

「なんだよ?」

「いや、すごいですね?、普通なら怖いですよ純粋に。綺麗な姿をしてると思った直後にあの目で頭から足の先まで眺められて、ゾッとしましたよ」

「は?」

「俺たちの考えてること全部、読んでるようにしかみえなくて。オクトナは聖獣の中でも特殊な存在だからってリオンとセリード様が教えてくれましたけど、多分普通の人は理屈抜きでオクトナは怖いですよ」

「そんなもんか」

(まあ、確かにあいつは人の心を読んでるんだけどな)

 バノンはちょっとだけ納得していないのか、疑問符が滲むような言い方だったせいか、ディオンは不思議そうに彼を眺めた。

「……団長はそうでもなさそうですね?」

「ん?」

「興味ありますね、どう思ってるのか」

「ん? んー、あいつそっくりだな、と」

「え?」

「セリードにそっくりだろ」

「……セリード団長に」

「なに考えてんのか読めねぇ顔して、でも目が鋭くて人のことよく観察してる。の、わりには他人に興味ない。邪魔なやつは容赦なく排除できる冷酷さがあるだろ。似てるなぁってな」

「だからそれ、怖くないですか?」

「……あ? そうだな」

 そう言われて、初めてバノンは周囲のセリードへの評価を知ったのは彼に近いゆえに見落としていたことなのかもしれない。

「セリード隊の団員は凄いと思いますよ。あの方相手に平気で不満とか文句とか、酷いと理不尽なワガママ言って。怖くないだけなのか、余程の信頼で成り立っているのか私はわからないですけど怯えてる様子なんて一つもないですしね」

「確かにな」

「……今だから言えますけど」

「なんだよ?」

「なんでリオンがあんなに優遇されるのかって不満を漏らしてたのが少数派ですけどね、いたんですよ」

「は? どこに」

「顔に出さないだけでうちにも、ジル隊にもいたんですよ。今でもちょっとは思ってるかもしれませんしね」

「知らなかったぞ?!」

「当然です、私がその事を口に出さないように徹底して止めましたから」

 驚きを隠せないバノンを前に冷静にディオンは話を続ける。

「団長の父上のことはもちろん、リオンのことは誰よりも私が聞かされていましたから私は特に団長がリオンと親しくなったりマリオ団長との関係の変化を疑問には思いませんでしたし当然のことと割り切ってましたけど、それを知らない他の者たちにしてみれば、公爵家が全面的に援助する姿勢が見えて、セリード様が何があってもリオン優先にすることに、ぽっと出でしかも何の成果も出したことのない彼女を自分達までどうしてって、思ってたんですよ」

「あー、うん、しゃあねぇよな……話すに話せねえことも多いしな。隠してた部分が多かったのは否定しないさ、今も多いからな」

 苦笑いをしたバノンに、ディオンも苦笑いを返す。

「そのうえ、あれですよ。リオンとセリード様が付き合うことになった途端に」

「……ああ、あれな」

「はい、あれです」

 ふたりは苦い顔。

「フィオラ中心に一部の団員が祝いだなんだと酒場で数日、まるで結婚でもするかのような宴会ですよ、しかも当人たち抜きで。非番の我々まで引きずり出して大騒ぎするという。あれ地獄でしたからね。同じ話するくせに聞かないと力ずくで押さえつけて朝まで付き合わされる……。セリード様が全てあれにお金を出した意味がわかりません」

「なんか、すまん。オレは巻き込まれなかった……」

「リオンと比較的一緒にいましたからね。…まぁ、そういうことも含めて、今でも少し不満を抱えてるのはいるんですよ。リオンの特殊な立場を考慮してもそこまで擁護したり持ち上げたりする必要はあるのかって」

「そうか、そういうものか」

 難しい顔をしたバノンの前に、淹れたてのお茶を差し出しディオンは自分の分を注いだカップを手に、ランプの火を消す。

「そのメンバーが特に怖いって言うんですよ、オクトナのことを」

 その言葉にお茶を飲もうとしていたバノンの手が止まる。

「リオンとセリード様がいるとオクトナは饒舌じゃないですか、その時だと私も怖くないので触らせて貰ったり割りと話したりできますが、彼らはそれも無理だと言うんですよ。最近はオクトナだけでなくセリード様まで何となく怖いって」

「なるほど、な? ……なあ、ディオン」

 バノンはセリードから広める必要はない、だが信頼できる人を対象に必要ならオクトナと自分のことを話していいと言われていたことを思いだし、オクトナのこの世界での役目、セリードが人間で同じ役目を務めることになったことを話す。


 そしてディオンはすこぶる納得、と言わんばかりのスッキリとした顔をした。

「それは、相当怖いですよね、排除する気満々の人間と聖獣なんですから」

「怖いだろうなぁ」

 しみじみバノンは頷く。

「でも、納得です。そういうのを聞くとリオンの特殊な立場が尚更理解できますね。正直私も初めはそちら側でしたから」

「そっか、仕方ねえよな」

「大丈夫ですよ、今は全面的にリオンを信頼してますし。でも、やっぱり怖いって思いますよ、オクトナもセリード様も。何考えてるのか分からないところが一番」

「だよな……」

 二人がそんな話で盛り上がり、夕飯までの時間つぶしになるだろうと考えながら、聖獣の話、魔物の話にいつしか移行して真剣に話し込んでいた。


『おい』

「うおっ!!」

 バノンはびっくりして大声を出し、ディオンはそれにも驚き体を二度もビクリとさせた。

 テントの入り口をめくる音はしなかった。さらに言えばめくれば差し込むであろう西日の明るさを感じるだろう。そのどちらもなかった状態でオクトナは、小さな折り畳みのテーブルに重ねて広げていた資料を覗き込んでいた二人のすぐ後ろにいた。

「ビビらすな!」

「心臓に悪いですね……」

『香草たっぷりとオレンジソースのどっちがいい?』

「は?」

『外で揉めててな、多数決がいいだろ?』

「ん?ちょっとなにが?」

『鴨の味付け』

 二人が黙り、オクトナは首を傾げる。

『なんだ? 食ったことがないのか?』

「いや? そうじゃなくてな? なんでお前が聞くのそんなこと」

『どっちが旨いのかと。人気のある旨いほうがいいだろ? どうせなら』

「え? お前も食うの?」

『もちろん』

 あれ、聖獣って食べないんじゃなかったか?なんてことを思う二人の前で、オクトナの目は早くしろと言わんばかりの威圧丸出し。

『どっちだと聞いている』

「オレンジソース一択!」

「私もオレンジソース好きですよ」

『じゃあ香草で決まりだ』

「はぁ?!」

『すでに多数決は香草勝利。お前ら二人は聞いてみただけ』

「お、お前なぁ!! 性格悪い!!」

『心外だ、人間の反応を見てみたいだけの純粋な私の興味なのに』

「うそつけこらぁ!!」

「団長、大人げないです……」


3話構成の2話目でした。明日も更新です。

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