三章 * ルブルデン 1
大変お待たせしました。
ようやく一幕分更新出来ます。
本日から連日一話ずつ、計五話更新します。
――副都ルブルデン、外壁付近にて―――
毎日不定期に起こる奇妙な光景に騎士団団長は頭を抱える。
マリオの騎士団がビスに出立するより数日前、三つの騎士団がその市に入った。
「これ以上どうしろっていうんだ」
四十一世世代第5騎士団団長グレイ。
「だが、王都に入った魔物に詳しい女の知識というのを試してからは確実に減っている」
四十世世代第3騎士団団長ブルーノ。
「そうね、でも、ジェスターが助言してくれたように余計な事をしていないことも影響してるわよ」
四十世世代第6騎士団団長ダイアナ。
このルブルデンでの魔物討伐は正直楽なものだった。
毎日魔物の目撃情報はあるものの、大きいものでも平均的な成人男性よりも大きいくらい、騎士なら魔導師一人のサポートさえあれば難なく討伐できた。
そしてさらに活動開始から5日ほど経って王家からもたらされた魔物に関することは、彼らの成果を確実に上げてくれた。それはもちろんアリーシャから聞いた魔物討伐の方法が書かれていたものを実践したことによる成果だった。
魔物はある特定の匂いを嫌う、もしくはその匂いで一時的に動きが鈍る。
その匂いは太陽ユリというオレンジ色のユリで甘い香りが特徴の花であること。
魔物を倒す際、頭を叩き潰すか、首を切りおとすことで完全に殺せる。
それ以外だと希に息を吹き替えすだけでなく切り落とした部分が魔物として成長し動き出すことがある。
この二つは極めて効率的に討伐を加速させた。
そしてその中に彼らはジェスターからの忠告を加えてルブルデンでの活動を行うことで更なる成果を感じていた。
―――守護隊には不必要に手を出させるな、確実な成果が出て守護隊でも討伐可能と判断したら参加させるんだ。
魔物には特別大きく狂暴なのもいるそうだ、それは正直私の若い頃でも討伐は困難なものだろう、それに出くわしたらとにかく人命優先をしてくれ。
いいか、判断を間違えるな。
一つ間違えば取り返しがつかなくなる。―――
ティルバ史上最強とも言われた元騎士団長の言葉に耳をかなさいような愚かな団長たちではなかった。
そしてその言葉を信じたことが彼らを困らせる原因にも繋がっていった。
―――巨大な黒い存在―――
暗くなるころから、明け方のうっすらと空が白みを帯びる頃までの間だけルブルデンの周りを何もせず監視するように音もなく歩き回る。
気がついたとき、誰も剣を向けられなかったし、近づくことすら出来ず立ち尽くした。
「あれをどうしろっていうんだよ」
グレイはイライラした様子を隠せず吐き捨てるように言い放つ。
「どうもこうも、手は出せない。わかっているだろ? 手を出したら終わりだ。手に負えないことは一目瞭然」
ブルーノは静かに制するように言ったが、それでも彼自身手詰まりの状態にため息しか出ない様子だ。
「魔物、増えてるわよ。なのに……討伐は上手くいってる。なんなのよこの状況。気持ち悪いったらありゃしないわ」
ダイアナは軽く頭を振って指先でトントンとテーブルを叩く。苛立ちと不安が入り交じるのだろう視線が時々不安定に揺れる。
その時。
「はあーい、なんか腐ってるわね!」
気が抜けるような明るい声に驚いて三人は振り向く。
「ティナ?!」
「やだぁ、そのシケた面やめてくれない? 胎教に悪いわぁ」
「何でお前!?」
「ティナさん?」
「ティナ! どうしたのよ?! ていうか胎教って?!」
「んふふ、私、お母さんになっちゃいますー。あのマリオがお父さんよぉ、気持ちわるいでしょお?」
途端に賑やかになって、その場の空気が変わり三人は互に気づかれないようにほっと息をつく。
「なによ、楽な討伐でしょここなら。なによホントにその顔。情けないわねぇ騎士団団長が三人も揃っていて」
わざとらしい顔でティナかしかめっ面。
「こっちは大変だったのよ? ま、上手くいったけどね。だから私先に帰ってきたのよ、体のこともあるし居てもしょうがないし。ビスは万事解決ぅー。あとは市民次第。で? こっちのこと教えてよ」
「え?」
「ん?」
「解決? ばかな、だってあそこはここより」
「ひどかったわよ? でも解決したの。で、途中ここがまだ騎士団全部残ってるって聞いて寄ってもらったのよ。一人役に立ちそうなの連れてきてあげたんだから感謝してね」
そしてドタドタと派手に存在感を示してやって来る二人分の足音。
「よお、元気か?」
「マリオか!」
驚きと嬉しそうなブルーノは自然と彼に近づき手を差し出した。マリオもニヤッと笑みを浮かべて久しぶりに会う同僚と握手を交わす。
「おじゃましまーす。お疲れ様でーす」
そして、その声に三人は驚いて口を閉ざす。
「お前、どうして……」
ぼそりと、グレイが呟いた。
「知らなかった? 私もビスに行ってたのよ、騎士団だけが役目を負ってるとか思ってた?」
彼女はニヤリとほくそ笑み、意味深な目を戸惑うグレイに向けた。
「なんで、聖女付きのお前が?」
「ミオ様のお言葉に従ったまでよ。リオンに付いてたんだけどこっちで役に立ちそうだから来てあげたの」
三人の表情の変化は予想通りなのだろう、彼女、フィオラは余裕を滲ませるような表情を変えることなく落ち着いている。
「あっちは落ち着いたからね、リオンのことはセリード様達に任せて私は一足早くティナさんの護衛ついでに帰って来たわけ」
「おれとティナより役に立つ。お前らに見てもらおうと思ってな」
「なんのことだ?」
「まぁ、いいから。すぐに行くか? フィオラ。もうすぐ夕方だ、少し早いがお前がいるならもしかすると、だろ」
「はい、ぜひ」
「私も行くわよー」
「ホントに止めても無駄ですね、マリオ団長の胃痛の訳がよく分かります」
フィオラは頭を抱える。ティナは笑い、マリオが項垂れる。
「だって見たいじゃない、あんたたちは遭遇してるけど私まだ見てもないのよ聖獣」
彼女の言葉が三人の目色を変えた。そんな彼らをマリオが冷静に見比べた。
「小康状態らしいな、しかも問題もあるんだろ? 話はおれのとこにも届いている」
「あ? あぁ、そうだが、ちょっと待て、なんの話をしている?」
「黒い巨大な魔物がうろつくようになったんだろ? それに会いに行く」
「な、なんだと?! 正気か!!」
肩を強く掴んだブルーノの手をそっと下ろしてマリオは彼を真っ直ぐ見つめる。
「至って正気だ。ビスでも会っている」
「?!」
「なんですって?!」
「なんだよそれ!! マリオさん!」
「話をしたいんだよ、どうしても」
それを聞いたブルーノが一瞬呆けたが急に笑う。
「お前、頭どうした? おかしいぞ」
「だから至って正気だ。それを証明する、ついてこい、行くぞ」
淡々と、嘲笑されたにも関わらずひどく落ち着いているマリオと、そんな彼が早く外に出ないかと期待するティナ、そして。
「頭がおかしいかどうか、まず見ませんか?」
フィオラは笑顔で続けて言い放った。
「ここでどんなに議論したって答えは出ませんよ、現実見ましょうね」
スランプ脱した訳ではないのですが、三章についてはなんとか仕上がりそうです。
その先、四章が問題でして、こちらが人間関係とか色々複雑になりすぎて只今無駄をなくすために右往左往しております。
完全に迷走してますが、まだしぶとくがんばります!! 未完にはしたくないので。