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三章 * 熱帯夜のあとは 4

本日一話更新です。

 セリードとバノンは二人きり会話を続ける。

「そこは分かっていない。その目撃情報について父からの手紙が来たのは最近だし、あの男とのオレたちの接触時期や状況から考えると……少なくとも怪我人二人も抱えた集団がネグルマにそんなに速く到着するのは不可能だろう? その中にハルクはいない、父に顔が割れているあの男の名前が出てこなかったしな」

「そうだな……それにあいつらが追っているのは聖獣だ。あいつらは、今のところ、聖獣が魔物化することは知らなそうだしな。……知らないよな?」

 ちょっとだけ、不安そうな顔をしたバノンに対し、セリードははっきりと頷いてみせた。

「ああ、それは大丈夫だろう。ただ……芳しくはないだろう、魔物化していても、聖獣それぞれ個体特有の繋がりらしきものがあることはルシアや今回のエールのことでも間違いないとリオンが断定した、だとすればネグルマで目撃されている魔物化した聖獣ならそこに別の聖獣がいてもおかしくない。繋がりの強い聖獣がな」

「もしそうなら黒くなってねぇ本来の聖獣がいる可能性があるよな。ハルクについては情報を合わせるとそれなりの金持ちが裏に絡んでるよな? 権力者ってことも考えられる。あいつら人がいるなら大陸どこでも活動拠点だ、他所の国からの依頼ってこともあるか」

「むしろそちらの可能性が高いだろう。この国でそう言った話が一度として耳に届いたことはない。父や上皇は過去に聖獣との因果を結んで以降、聖獣に関連する国内の話はどんなことでも手に入れてきた。そんな父と上皇を素通りするような話ではないよ、その件については」

「だよなぁ。……にしても、どこの誰かは知らんが聖獣の体の一部を手に入れたがってるんだろ? 盗賊を雇ってまで探し求めてるってことは、あのハルク以外にも聖獣を狙って金稼ぎしようとしてる奴等はいそうだな」

「ああ……盗賊に依頼をするまでに至ったのは、恐らく正規の手段では手詰まりになったからだろう。そうでなければあの守銭奴で強欲な集団にわざわざ接触する危険を犯すわけがない。そう考えると……今までに相当の、聖獣捕獲や討伐、部位の採取依頼をかけているはずだ」

 二人とも、そこでわずかに沈黙した。

 同じことを考えている。


 それが原因で魔物が急激に増えている?


 そう思って、けれど口には出さない。お互いが同じように考えていることになんとなく気がついているからかもしれない。

「魔物もだけどよ、そっち、どうにかしねえとな。ロクなことにならねぇ」

「ああ、しかも、あの時」

「ん?」

「あいつらは、リオンを気にしていた。リオンの言動に驚いただけじゃないだろう」

「追いかけては来なかったんだろ? その後、俺も気にしてたけどそんな気配ねえし。ただ、王都に入ってる可能性があるな? 別にリオンの素性は隠してねえし、お前が護衛に付いてる時点で王都に住んでることくらい推測できるし」

「父には手紙を直ぐに出しているから、あいつらもそれほど派手に動くことは出来ないだろう。ただ、周囲でトラブルが付きまとう可能性はあるし、リオンの行くところならどこにでも現れる可能性も高い」

「うあぁぁ、そのせいで魔物が増えるとかマジで勘弁してくれって」

 呆れた嫌そうな顔のバノンの隣でセリードは苦笑いを浮かべる。

 ここでこの議論をしても何も進まない、とにかくこれからどうすべきか、どうリオンを守るべきか、二人はそのことについて重点を向け、再び語り合い始めた。










 一通り自分達の巡回が終わり戻る途中、馬に揺られながら二人は町並みを眺める。

「なんだかんだ言ってあっという間だったな。もうすぐここから離れるんだぜ?」

「そうだな、マリオ団長達も先に出立、明日からは一部を除いて完全に帰り支度がメインになるな」

「だな。しっかしよぉ、この時期にまさかここまで日焼けするとは思わなかったぜ」

「あはは、確かにな。防具は殆ど着けずに上半身裸で作業することが多かった、まぁ、泣き言も経験ということにしておこう」

「女どもが日焼けは天敵!! って頭と顔を布でグルグル巻きになってたのは、あれは怖い」

 二人が呑気にそんな話で笑いながら宿まで戻ると、その側の厩舎が賑やかで、顔を見合せる。

「なにしてんの」

 バノンが物凄く気が抜けるような声で言い、セリードは額に指をあてがい目を閉じる。

「さっきからずっとこうなんですけど。これ、どうにかなりませんか?」

 リオンが真顔で微動だにせず立っていて、そして感情の欠落した声でセリードに訴える。それを皆が笑っているのだ。

「なんだか、乗れって言ってるみたいなんですよ。明日から嫌でも走りっぱなしになるのにすでにその気みたいです」

 リオンの魔導師ローブの袖にあたるところに噛みついて微動だにしない馬が一頭。

 リオンとフィオラが王家から借りている二頭の馬のうち一頭、リオンがビスへの往路で乗ってきた空王号である。

「鞍の調整でリオンに来てもらったんですけど、かれこれ二十分はこのままで離してくれないんですよ。我々が離そうとすると加減なしで蹴りを入れようとしてきて、怪我したくないのでリオンに犠牲になってもらってました」

 団員がそう言いながら笑っていて、たまらず吹き出すようにバノンも笑いさらに賑やかになる。

「空王号」

 するとセリードが歩みより名前を呼んだ。やっぱりたまらず笑いだし肩を震わせて馬の頬を撫でる。

「やっぱり笑うんですねぇ」

「すっかりなつかれたなぁ」

「私に合わせて走ってくれないのに?!」

「そこはまぁ、馬の都合だから。好かれてることは良いことだ。気難しい馬だから誇りに思っていいよ」

「……そういうことにしておきます」

 リオンの遠い目を笑いつつ、セリードは空王号の艶やかな鬣を撫でた。

「皇太子の元に帰れるのが分かったからなのか、それとも、リオンをまた乗せられると分かったのか。どっちかな」

「前者希望です、ええ、もちろんそうであって欲しいです」

 苦々しい顔のリオンを皆が笑う。


『走らせてやればいい』

 どこからともなくオクトナが現れると鼻をヒギヒギ鳴らしながら空王号に近づいた。

『走りたいらしいぞ。最近はずっとここにいるだけで遠出もしていない』

「そうか。リオン乗る?」

「いやー、走る気満々の馬なんて遠慮以外にありません」

「だよなぁ。……オレが乗ることを許してくれるかな?」

 セリードは頬を優しくなでる。

「走ろうか」

 その時だった。

「あ」

 あれだけ微動だにせずリオンの袖に噛みついていた空王号がパッと口を開けてローブを離し、セリードに頬を撫でられながら前足でがつがつと土を蹴り上げる。セリードは穏やかな表情で目を細める。

「いい子だ、鞍を調整してあげるからちょっと待っててくれ」

 おおっと歓声のような声が上がり、リオンは真顔で物凄い拍手。

 そして。

「いい馬だ、オレのオニキスと同じように、走ることに喜びと誇りを感じている」

 鞍を調整した空王号の、手綱を握りふわりと身軽に股がったセリードは、体重を感じたとたん再びガツガツと前足で強く地面を蹴り上げる空王号の蹄の音にほくそ笑んだ。

「ふふっ」

 リオンが小さく笑う。


「さっきのあの笑いってなんだよ?」

「なにがですか?」

「アイツが馬股がった瞬間お前笑ったろ」

「ああ、あれですね?」

 バノンは首をかしげる。リオンはヨダレだらけのローブを豪快に洗いながら、やっぱり笑う。

「いるんですよ、たまに」

「なにが」

「フィオラって、聖獣に好かれ易いんです。体質のようなものでなろうと思ってもなれるものではないんですよ」

「なんでそこでフィオラか出てくる」

「セリード様もなんですよね」

「あ?」

「しかも、フィオラとの違いは、雰囲気とか性質がとても強いから動物がひれ伏すというか。総じて聖獣に認められる、好かれる人間は動物にも好かれたり、尊敬されたりしますよ」

「……なんじゃそりゃ」

 困ったような顔をするバノンをリオンはおもしろおかしく笑う。

「威圧感、あるじゃないですか? その威圧感ってあれくらい気性の荒くて強い馬だと恐怖には捉えないで反発しないで安心して従う尊敬に変換されるんですかね? 馬って乗り手をよく見てますよね、あの人を乗せない馬っていないんじゃないかなって思いますよ。それをあの人もわかってるんですよね、空王号に乗った瞬間ニヤッて笑って満足げな顔をしてて。面白くって。あ、今すごい達成感あったなって」

「お前」

「はい?」

「そんなの見てんのか。変わってるぞ」

 呆れた顔をしたバノンのそば、やっぱり豪快にローブをすすぐリオンが笑う。

「カッコいいとか、言うべきでした?」

「それもどうかと思うけどな」


「バノンさんも」

「あ?」

「そうだと思いますよ」

「何が?」

「私の勘です、聖獣に嫌われる人ではないですよ。不思議ですよね、まるでそう決まってたかのように、今回こうしてビスに来た団長さんたちは……聖獣と縁を紡ぐ気がします」

「リオン、お前……」

「戯言だと思って聞いてください」

 雰囲気ががらりと変わり、バノンは息を飲む。


「バノンさんは特定の聖獣とは、縁を紡がないかもしれません。でも……なんでしょうね? 不思議です、感じるんですよバノンさんの気配に聖獣を。フワッとした、広い気配。……《過去の記憶》では、そういう人って、面白いんですよ。聖獣に『友達認定』されるんです」

 リオンの声は、楽しそうで。

 けれど、バノンの全身を鳥肌が覆う程の底知れぬ『何か』がリオンの全身から溢れている。

 足がすくむ程の、恐怖を一瞬で爆発させるほどの何か。

「おい」

「ジルさんは、どっちにも属さない。でも、聖獣たちからの信頼はとても得やすくて、『相談役』みたいな扱いをされるかもしれません。ジルさんなら聖獣からの相談も冷静に落ち着いて聞きそうですからね、そのうちジルさんが聖獣相手にお茶してる光景が見られるかも」

 そして突然、『何か』がスッと引いて跡形もなく消え去って、そこにはいつものリオンがいる。


「ちょっと待て!!」

「はい?」

「重要そうなことサラッと言うんじゃねぇ!」

「あはは」

 リオンは洗い終わったローブを広げた。


「よし、ヨダレ綺麗に落ちた!」

「無視すんな!!」


(……さっきのは)


 あれが()()()()()()なら。


(あれくらいじゃなきゃ……聖獣に太刀打ち出来ねぇって? なんだよ、それ)


 バノンは思考を停止させる。

 いずれ、然るべきときに、真実を知るのだろうと。今焦って問うこともないだろうと。


 お前は、一体、何者だ?


 いつか、そう問う日が必ず来る。だから今は。

 ただ、その『何か』に希望を持つだけにしようと。


なかなかこのお話を更新できず苦悩しています。


書いているうちに、修正かけだすと止まらなくなり、訳がわからなくなり (笑)。


とにかく、投げ出すことなく更新続けていきますので気長にお付き合いくださいませ。

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