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三章 * 熱帯夜のあとは 2

本日一話更新です。

 ビズでの活動が残り数日となったこの日も変わらず徹底して復興に尽力した騎士団に市民が感謝の気持ちを込めて今まで以上に沢山の差し入れを持ってきて、マリオ筆頭に騎士団が滞在している宿は大量の果物や酒などが溢れていた。

 明日から帰り支度もすることになり忙しくなる彼らを悩ませてしまったこの状況にビスの守護隊が対応をしてくれているが、それでも続々と届くのでセリードが一言、公爵家令息らしいことを言って解決してくれた。

「今回の被害で家を失った人が多い、その人たちにまず配るといいだろうし、復興に携わった人たちは殆どボランティアだったからその人たちへの謝礼としても使えばいいだろう。それでもかなりの量があるんだからそれはうちとメルティオス家が買い取ろう、ただのものではないんだから正規の値段を払うよ、メルティオス公爵も今回の市民の動きはきっと誇りに思うだろうから喜んで買い取るだろう。公爵家としての使命をこういう形で果たせることは名誉にもなる、そして、集まったものは全てまずしい家や身寄りのないものたちにも配慮して久場ってくれればと思う」

 そんなセリードの言葉も相まって、おおよそではあるが総額で市場一日分相当ものが集まって、それを公爵家二家が買い取り配給されるという知らせでその日ビスは終日熱狂的な盛り上がりを見せた。


「いいのか、あんなこと言って」

「いいんだよ、これで活気が戻るならね。こういう市全体のお祭り騒ぎのような賑わいも必要だろう」

 バノンと二人でセリードは最後の見回りをしている。馬にゆったりと揺られながらようやく落ち着いた穏やかな気候の冬のビスをセリードは目を細めてながめる。

「ここに来る前にメルティオス公爵から頼まれていたんだ、必要なことがあれば名前を使用して資金提供なり何なりを申し出てくれと。判断は任せると言って貰ったらか助かったよ」

「へえ?」

 バノンは感心した様子で声をあげる。

「ここは市長が変わってから少し不満の声が多くなり始めていたことは聞いていた。現在ビスは国有地であり港を抱える市だから、資金に困ることはないし、港として最大規模のこのビズは豊かで賑やかで安定した土地でもある、ただ……元々環境に密着した生活習慣が根強いところだろう? 他所からきた今の市長はそれを無視する傾向があるって話が公爵に多数相談として寄せられて頭を抱えさせていた。いくら活気があっても、市民の声を蔑ろにするような市長はこの土地には合わない。一部の市民が市民局の職員のところには公爵領に戻して欲しいという嘆願書を持ってきた市民もいたらしい」

「マジかー。そりゃ面倒な」

「レオン公だって今さら国から取り返す気はないから、少しだけ関わることで上手く収めたいってことだ」

「でもよ? それだとなお公爵領に戻せって騒ぐんじゃねえの?」

「そこは公爵だ、それ以上のことはしない、だからうちの名前も使ったんだよ。そのかわりに騎士団が徹底して動いてこれからもそうなるように国に助言するだろう。今回だって国がこうして騎士団を派遣した、そのことは大きいことだろ? 騎士団三つを派遣したんだ、対応としては及第点以上には市民に受け止められるだろう」

「まぁな。いい効果は出たよ。復興中心で市民に寄り添うかたちになったし」


 セリードは満足げな顔をしている。

 バノンはそんな彼を少し珍しく思ってからかってやろうかと頭を過ったがすぐに止めた。

(あんまりしねぇ顔だな。……リオンのこともあるが、この遠征自体が有意義だったし、満足のいく結果が出たからだろうな)

 バノン自身もそう考えていたから容易にセリードの気持ちを察したのかもしれない。

 魔物討伐は国民が当然のことと思いながらなかなか成果が上がらない上に増えていく一方。そして王家からの最新の情報では一部の国でその恐怖と不安に耐えかねて国境線沿いに住む人々が噂やデマによる混乱で他国に夜逃げ同然で逃げ出し難民が激増している国まで出てきたという。

 しかしここにきてこのティルバでは二つの可能性が出てきた。

 一つは最近現れた魔物討伐に詳しい女の存在。その知識は今まで誰も知らなかったことが含まれておりかなり期待が持てるらしいということ。守護隊でもなんとかなる技術ならば画期的なことだとセリードやマリオ、ジルも期待している。決して無視できない話だ。何よりリオンもそれに期待をしている。自分の不可侵領域、討伐出来るならすべき、という気持ちはリオンにもあるからだ。


(リオンは、やっぱりすげえんだよ。戦闘力のない奴等だって、生き延びる可能性を、知恵をくれるんだからな)

 リオンの『討伐をしない』という選択肢は、衝撃的でありながらたくさんの人の命を分け隔てなく守れる可能性を秘めている。

 助けをただ怯えながら待つだけでなく生き延びる可能性を誰でも持つことができるのだとしたら、剣を持たずに命を守れるのだとしたら、この国は変わるだろうとこのビスでバノンは目で耳で、そして肌で感じ取れた。

 セリードもバノンも、剣を手に戦いに身を投じてきた者たちがいつも心のどこかに抱えていた疑問。


 ―――この古くから続けられてきたやり方は、いつ限界がくるのだろう?―――


 ということ。

 すべての魔物を討伐することは不可能なのだ。

 どんなに効果が絶大な方法があったとしても根本にいる聖獣の問題が解決しないかぎりどうにも出来ないのだ。

 それに一筋の光を当てるリオン。

「結果としては上々だ、な? 今さらだけど課題は山ほどあるけどさ、ビスが落ち着くってことはこれから他もそう出来る可能性があるってことだ。リオンもちょっとは、気持ち楽になったんじゃねえの?」

「ああ……そうだな」

 セリードの表情は穏やかだ。いつもの何を考えているのか分からない笑顔とは違う。

「リオンは……死ぬまでこの問題と向き合っていくことになると以前言っていた」

「そうなのか? ……まぁ、そうだろうな」

「それはオレたちもだ、間違いない、聖獣がいる限り永遠に続く。聖獣がいなくなればいいなんて簡単なことじゃない。……長い間この世界は聖獣がいる、それで成立している世界なんだよ。遥か昔は人間と共存すらしてきた存在だ、そして、この世界のあらゆる場所を守っている存在でもあるんだ、今さらなかったことには出来ない存在だ」

「ホントにな。リオンの話を聞けば聞くほどそう思う。それに……元はと言えば、俺ら人間が余計なことをして森や山を荒らしてるからそこを守ろうとしてるんだもんな。……《フォルサ》だっけか? 共存してたころの聖域の扉。そいつがいた頃に戻れなくてもせめて、いい状態は保ちてえよな」

「ああ、だから、オレたちはいるんだよ。リオンと……進んでいくんだ、これから何があってもな」

 そしてセリードはバノンの方を見て笑顔を見せる。

「裏切るなよ?」

「あ?」

「オレはいい、元々友達とか仲間とかそういうので縛られた関係じゃない。でもリオンは違う、お前は……リオンを裏切るなよ」

「裏切るなよってなぁ、信用ねえな? まだ俺がリオンを利用しようとしてるって思ってんのか?」

 呆れながら不快そうに顔を歪めるばのんをセリードは笑った。

「そうじゃなくて」

「なんだよ?」

「権力や金で動くやつは山ほどいる。それに上手く乗せられて、お前を利用するやつもいるかもしれないだろう? リオンに繋がるようなことがあれば、お前にその気がなくても裏切ることになる」

「あー、はいはい、気をつけるよ。どーせオレは短気だしすぐ人の話に乗るって言いたいんだろ?」

「わかってるじゃないか」

「うるせーよ。それに、お前んところはもちろんもう片方の公爵家敵に回すほどバカでもねぇよ」

 バノンは首を回してはぁ、と息をつく。

「あのレオン公爵、俺嫌いじゃないぜ? 役に立つなら協力を惜しまないってはっきり言っていたけど、あんな風に言い切れるやつって結構貴重だろ。爵位持ってても、金が勿体ない、無駄な投資はしたくない、それを、うまく誤魔化してのらりくらりかわす奴等だって山ほどいるからな。あの公爵が今まで金出さなかったのも余計な利権が絡む可能性があったからだろ?」

「……公爵ともなれば、利権を無視できないからな。父や兄を見ているせいか嫌というほど、それを身近に感じている」

 男二人、同じ立場であるゆえ、話すことはまだまだあるのである。



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