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三章 * 暖かな冬、夜は 1

更新遅くなりました、のんびりしたお話をまとまるだけなのに、時間がかかってしまいました。


ということで、わりとのんびりした感じの幕となります。


 酒に弱いやつは弱い。

 魔導師だろうが、騎士だろうが、なんでもいいが酒は人それぞれ好みがあり、飲める量が違い、楽しみかたも違う。

 ビスのとある酒場。魔物の脅威が薄れた、活気が戻りつつあるその土地、夜の賑わいに身を投じているのは酒の飲めるやつら。


「お前、すげえ飲むなぁ。それセリードが飲んでんのと一緒だろ、結構強いだろうが」

 バノンが言った目の前にはリオンがいる。

「これ美味しいです」

 夜の酒場は、最近騎士団の人々の姿もちらほら確認でき、賑やかな声が響く。リオン、セリード、フィオラ、バノン、ジルたちはそんな賑やかな声の一端を担う形だ。

「バノンさんは」

 リオンはわざとらしい笑顔。

「酒をがぶ飲みする女は嫌いって顔してます」

 言い当てられて顔がひきつるバノンの隣でジルが意味ありげな笑みをこぼし肩を叩く。

「これの嫁が全く飲まないんだ。そして料理上手で家に帰れば上手いつまみを用意してくれている。家で飲むのが大好きなんだよ。飲む女はうるせぇ、下品ってよく言ってる」

「うーわ、偏見」

「一般論。てかそこまでヒデェこと言ってねえからな?! ジル余計なこと言うなばか」

「でも言ってるわけですね、飲む女を否定する言葉を。それを世は偏見という」

「そういうことを飲む女が言っても説得力ねぇからな」

 リオンとバノンのやり取りを彼女の両隣にいるセリードとフィオラが笑う。


「でもリオンは、見かけによらないわよね? 初めて見たときびっくりしたわよ」

「別に飲まなきゃやってられない、とかはないのよこれでも。飲めちゃうだけ。セリード様がどれくらい飲める? っていうから前に飲んで見せたら遠慮しなくていいって言ってくれたから飲むようになっただけ。なかったらなかったで甘いものに変換されるのよこの勢いは」

 それを聞いたバノンは今度は冷たい視線をセリードに向ける。

「最悪だなお前、女に酒を進めるんじゃねえよ」

「飲めない人には絶対に進めないよ。リオンの場合は飲める量の確認をしただけだしな。それにオレ飲める女好きだからね、うち母もタチアナもお婆様も飲む、ミオも結構飲むし。飲めないとこっちが飲むのに罪悪感出ないか?」

「わかる、分かりますよ」

 フィオラがしみじみ頷く。

「確かにな、酔わないように気を使うこともある」

 ジルも賛同し、笑いつつも頷いていた。


「フィオラ、お前も飲むしね。ミオとよく飲んでることは知ってるよ」

「飲めない人と飲むの辛すぎるんですよね。その点我が主はお酒の好みも飲み方も非常に好ましいので遠慮なく付き合わせていただいてますよー」

「うー、嫌だ嫌だ飲んべえ女」

 バノンのしかめっ面を気にせずリオンはコップの酒を飲み干す。

「はー、美味しい」

「次何飲む? ここの美味しいわよね?」

「いまのところ外れなしよ、ハーブとかフルーツ使ってるのも多いから悩むわぁ」

「リオン、マンゴー使ったのおいしかったって言ってたよね? それにしようかな」

「美味しいよ、でも、この泡泡してるビールって苦いけど、好きかも」

「ビールが美味しいとこなら向こうにあるよ、次そこに行こうか」

「もちろんセリード様の奢りですよね?」

「女に払わせないよ」

 女二人は両手をあげて大喜び。


 それをみてジルが面白そうに笑い、バノンが呆れてため息。

「つうか、お前も毎晩酒を飲みに出歩いてるけど、寝てんのかよ?寝不足で迷惑かけたらブッ飛ばすぞ」

 バノンから恨めしそうな目を向けられたセリードだが全く影響なし。

「この程度で寝不足とかあり得ないから大丈夫だよ。それにオレは今騎士団の縛り無しだからね、余裕」

「腹立つわぁ」

 ふふん、と鼻で笑うセリード。バノンはやっぱり恨めしそうな顔を。


「何だかんだで二軒目についてくるんだな、バノン。飲んべえ女二人がいたなら来ないかと思ったが」

 ジルが飄々といい放ち、バノンが顔を手で覆って項垂れる。

「タダ飲み最高です。セリード様々。資産家様々。公爵家子息様々。ごめんなさい、飲める人と飲むのも楽しいです」

「お小遣い制はつらいですな、バノン君」

 セリードが面白そうにわざとらしくいうと、メニューを真剣に眺める女二人が驚いた顔をして反応したのでジルと共に彼は肩を震わせて笑いだす。

「バノン団長お小遣い制?!」

 リオンが身を乗り出す。

「えー、意外! 亭主関白っぽいのに!!」

 顔がひきつるほど笑いをこらえたのか、声がちょっとおかしなことになるフィオラ。

「何を言う、我が家はかかあ天下。財布の紐は嫁ががっつり縛ってオレは開けかた知りませーん」

「違うよ、奥さんにデレデレなだけ。なんでも言うこと聞いて従ってる姿は犬」

 セリードのふざけた声。

「そうだなぁ、確かにバノンはカレンが好きすぎて彼女のことになると盲目だな」

 ジルのしみじみとしたわざとらしい声。

 女二人がそりゃもう物珍しいものを見るような目をバノンに向けている。

「違うっつうの」

「あ、照れた」

「あ?!」

「スッゴク今照れてますよね?」

「うるせえ、黙れリオン」

「はぁぁ、すごい好きなんですね、奥様のこと。尻に敷かれてないと不安なくらい好きなんですか」

「違う!!」

「顔に書いてありますよ」

「帰れ、うるせえ」

「お前が帰れタダ飲み男が。同席する人間の選択権はオレが握ってるんだからな」

「すみません、勘弁してください。セリード様。タダのみさせてください」

 どっと笑いが起こった。


 いつになく、この場の明るさにリオンが乗って笑っている。

 それがフィオラは嬉しかった。


 自分が特別であることを否定している。


 それでは必ず近いうちにリオンは行き詰まると確信があった。特別だからこそ、出来ることを目の当たりにしているからこそフィオラはリオンが行き詰まることは危険が伴うと思っている。魔物の先にいるのが聖獣、人間の手の及ばぬ世界。そこに聖女ミオですら不可触なのに、リオンはその世界に繋がっていると言っても過言ではない。それを特別と言わなかったら何を特別と言うのかと思っている。

 魔物討伐の知識を持っている女性の登場でリオンがホッとしていたとセリードが話してくれたとき、フィオラも率直に同じ気持ちだった。

(自分のすべきことに集中できるものね。それに、リオンのすることではないもの、魔物討伐なんて)


 リオンの気が軽くなったのを感じる。

 それだけ、彼女はあの笑顔の下にたくさんのことを隠していたということだ。その一つが無くなっただけでもフィオラもホッとしてしまう程に気持ちは楽になる。

(よかった。リオンの道は、少しはあるきやすくなったはず)


「これ飲む?」

「美味しいなら飲みます」

「クセがあるかな」

「じゃあいらないです」

「ふは! リオンってば結構その辺はっきりしてるわよね」

 リオンと、セリードのやり取りにフィオラが吹き出して笑う。

「リオンって好き嫌いはっきりいうわよね」

「普段はこんな風に言わないわよ、最低限の社交辞令くらい私だってするし。でもセリード様の時はそれ危険なの。食べ物でもなんでも、美味しいって言うと大量に注文されちゃうからもはや恐怖を感じる時がある」

「あー、それミオ様も言うわ」

「あれは元々ワガママで好き嫌い激しい。だから同じものを頼むことが多いから最初から一気に同じものを用意するだけだからな」

「セリード、オレは酒ならなんでも飲むぞ、いつでも飲まないワインは貰ってやる、同じものでもかまわないぞ!」

「バノンお前まだセリードから貰ってるのか?」

「だってこいつ贅沢だから白の辛口しか普段飲まねえって言うんだぜ。赤は余るから政務室に持ってきて部下の休憩の一杯にしてるってんだから。いいじゃん別に」

「有名ですよね、ワインが棚にずらりと並んでるって。美味しい赤が飲みたくなったらセリード様のところに行くってミオ様もよく言ってますよ」

「あれは館だとがぶ飲み出来ないから来るだけだよ、うちと同じの揃ってるんだからあの館だって」


「……絞りたてパイン? パインってなに?」

 リオンは完全に自分の世界。ジルが面白そうに笑ってメニューを指さす。

「パイナップルの別の言い方だ」

「!! てことは、パイナップルで割ってるってことですね! すいません、この絞りたてパイン割りくださーい!」

「パイナップル好きなのか?」

「ビスで初めて食べたんです、あの甘酸っぱさが最高です」

(ああ、ホントによかった)

 フィオラが楽しげな気の軽いリオンの隣で嬉しそうに笑った。

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