天誅を下せ!
ここは山奥。そして僕は今、鎧を着た巨体のおっさんと対峙している。
彼はウォードン。金を稼いでいる冒険者に何かと理由をつけて勝負を受けさせ、金を奪う悪党だ。
その上、巨体を生かした攻撃や水の大魔法など、戦闘能力も非常に高い。
体型で見ても能力で見ても、普通に戦えば僕が負けることは明らかだった。
だが、僕には秘策がある。そのために僕は、邪魔が入らないこの山奥を選んだ。これがあれば、僕は負けない!
「いくぞ、小僧」
ウォードンが不敵な笑みを浮かべて言う。
「ああ、いつでも来い」
僕と同じく笑みを浮かべて答えた。
それを合図にしたかのように、ウォードンが僕に飛びかかってきた。
「さっさと決めてやるよ!」
彼の大きな拳が僕に迫ってくる。
僕はそれを右に飛んでかわす。
「チッ、これならどうだ!」
着地したウォードンは、僕に蹴りかかる。
僕は、後ろに仰け反りそれをかわす。
その後も僕は彼のパンチ、キックをかわしたり、受け流したりして捌ききる。
それにしても、彼の攻撃は威力も高いだろうが、とにかく早い。イノシシの突進とは比べ物にならない早い攻撃を、僕は紙一重で交わしているといった状況だ。
どうやら、僕のステータスの中で特に秀でている「回避」は、これが高いほど敵の攻撃を避けやすくなる、というものらしい。
いや、この言い方は正確ではない。僕の経験から正確に言えば、これが高いほど「身体が勝手に避けてくれる」というものだ。
これまでまともな戦闘をしたことがない僕は、昨日始めてイノシシと戦った。その結果、僕はイノシシの突進を1度も受けることはなかったのだ。
相手の攻撃が僕に迫ってくる刹那、避けようと思う僕の心より先に身体が動く。ステータスが低い僕も、この瞬間だけは身体能力が大きく上がり、相手の攻撃に合わせて適切な避け方が出来たのだ。
僕はその時、「回避」という能力は侮れないことを実感した。ありがとう回避。君のおかげで僕は今生きてるよ。
そんなことを思い出しながら、僕はウォードンの攻撃をかわしていく。
それが30分程続いただろうか。ウォードンの息は上がっており、明らかに疲れているとわかった。
僕もそれなりに疲れてはいるが、彼に比べたらそれほどではなかった。彼が全身を使って攻撃しているのに対し、僕はただそれを避けているだけだからだ。
「ハァ…ハァ…それなら…これで終わらせてやる」
ウォードンはそう言うと、自分の前に水を出現させた。
「いくぞ!大魔法『水皇』!!」
彼が魔法の名前を言った瞬間、大量の水が刃のように僕に迫ってきた。
無理無理無理無理!こんなん避けられるわけない!死ぬ!死んじゃう!
そう考えている僕の心とは裏腹に、僕の身体の反応は早かった。
無数の水の刃を、僕は飛びのいたりしゃがんだりしてひとつずつかわしていった。
そのうちのひとつを避け損ない、僕は右頬に傷を負う。
後ろを見てみると、立ち並ぶ木々が水の刃によって傷だらけになっていた。あれが僕に当たっていたらと、僕は思わず震えてしまう。
僕が水の刃を避けきるのを見たウォードンは、明らかな怒りの表情を浮かべ、
「ふざけるな…何故これを喰らって生きているんだ…死ね…死ねぇぇぇー!!」
ウォードンは、一気に僕に飛びかかってきた。
驚くほど速いその攻撃を、僕は飛びのいてかわすが、バランスを崩して仰向けに倒れてしまう。
その隙を、ウォードンは見逃さかった。彼は地面にいる僕に殴りかかってきた。
僕は右に転がってかわすが、その直後に水が僕の首に巻きついた。まるで僕の首を絞めるかのように。
「へへ…やぁっと、捕まえたぜ」