はじめての…
ここははじまりの街の路地裏…って言ってる場合じゃない!
今僕は、もう1人の『転生者』十南雷亜に一方的な勝負を仕掛けられている。
「ほらほらほら!使えよ、お前の魔法!俺に見せてみろよ!!」
彼は叫びながら腕を振る。そうすると、つむじ風がいくつも出た。
「つえーだろ、俺のスキル!これと風魔法がある限り、俺は無敵だ!」
クソ…話が通じる状態じゃない!
だが、どうする?魔法もステータスも、明らかにあっちの方が上、そんな状態で戦って何になる?
戦術がない状態で戦っても、勝ち目はない。
見ろ、聞け、考えろ!どこかに必ず綻びがあるはずだ!
「あれ?何もしてこないの?なら、こっちからやってやるよ!大魔法『翠嵐』!!」
彼がそう叫ぶと、彼の両端に竜巻が2つ出現した。
ゴォォォォォォォ!!という轟音を立て、周りのゴミを巻き上げながら、竜巻は僕に向かって進んでいく。
僕は避けようとするが、竜巻が動いてそれを阻む。
結局、竜巻を避けきれずに僕は吹き飛ばされ、逆さになって地面に落下する。
「うああああああああああああああっ!!」
と情けない声を上げてしまったが、それに反して僕の身体は、地面に衝突する直前に受け身をとり、致命的なダメージを回避する。これも回避値がカンストしてるからこそできることなのだろうか。
「ふーん、倒れなかったか。まあ貴重な『転生者』だ。ここで死んでもらったら困るよ」
「クソ…何もしないって言ったじゃないか!」
「何言ってんの?こっちは最初からやり合うつもりだったよ?油断したそっちが悪いんじゃないかな?」
僕はそんな会話をしながらも、周りを見て、この戦況を巻き返せる何かを探していた。
そしてーーー僕のすぐ右に、それはあった。
僕はそれをポケットに入れ、ライアに向かって走る。
ライアは少し驚き、風の刃をいくつも出して対抗するが、僕にとってはそんなこと関係ない。僕が唯一秀でている回避値を駆使し、それらを全てかわす。
僕はポケットに手を入れ、ライアに近づくが、彼はナイフを出して僕に振る。
僕は反射的に仰け反ってナイフをかわすが、ライアはそんな僕を押し倒して、僕の首にナイフを当てる。
「俺の勝ちだ。君の魔法が見られなかったのは残念だけどね」
「いいや?どうかな?大魔法『転移』!!」
僕がそう叫んだ瞬間、ライアのナイフは僕の手に渡る。
突然手の中のナイフが消えた彼は驚き、一瞬動きが止まった。僕はそれを見逃さなかった。
僕は起き上がり、逆に彼を押し倒す。そしてポケットの中にあるロープを出し、腕を縛る。
そう。あの時僕がポケットに入れたのはロープで、彼の腕を縛るために取ったのである。
まず、彼の言う『スキル』。僕にとっては初めて聞く言葉なので正確なことはわからないが、おそらくあの腕を振ってつむじ風を出現させるアレだろう。
そして、彼の風魔法の共通点として挙げられるのは、腕を使うことだ。
腕を振ってつむじ風を出現させるし、風魔法も手で動きを調整する。
それらをロープで封じてしまえば、もう彼に打つ手はない!
だが、腕を封じられた当のライアは、クックック、と笑っていた。
「腕さえ封じれば、もう俺に打つ手はない…そう思ってんだろ?だが甘い、甘いんだよ!」
そう言うと彼は、思いっきり息を吸って、吐く。
そうすると、彼の口に風の球が出現し、それがどんどん大きくなっていく。
そしてそれを息で吹き飛ばし、僕の体に当てる。
その瞬間、風の球は破裂するように風を吹き出し、僕の体はそれに吹き飛ばされ、石畳に打ちつけられる。
「なかなか面白かったよ。特に、攻撃しない大魔法があるなんて知らなかったな」
ライアは倒れている僕を見下ろし、そう言った。
「多分また会うと思うよ。じゃあね〜」
彼は風魔法でどこかに飛んで行った。
僕はーーー敗北した。
この異世界で初めて経験した敗北だ。
そして僕は思い知った。
今までの戦いで勝てたのは全て地の利を生かした戦術や味方の強さがあったからであって、僕が強いわけではないということを。