もう1人の転生者
ここははじまりの街の路地裏。
かなりの広さだが、整備が行き届いていないのか、石畳みにはゴミやコケがかなりある。
そして僕は今ーーーフードで顔を隠した男と向かっている。
時は遡り、その男に話しかけられた時。
「君ってーーー『転生者』?」
「何のことだ?『転生者』なんて知らないぞ」
相手の出方を探るため、僕はしらを切った。
「とぼけんなよ。その異世界に不慣れな感じーーー俺の目に狂いはないはずだ」
「わかった。ここじゃ何だ、静かなところへ行こう」
僕は提案した。僕がこの異世界に生まれ変わってることがバレたらどうなるかはわからないが、面倒なのは間違いないと思ったからだ。
「ちょっと!ミトに何するつもり!?」
ライナはフードの男に怒鳴った。
「何もしないよ。彼氏に何か起こるのが怖いの?」
「ミトは彼氏じゃないーー!!行こ、ミト!!」
「ごめんライナ、ちょっと行くよ。そこで待ってて」
***
こうして、僕はフードの男と一緒にいる。
「ここなら話が漏れることはない。で、お前は何がしたいんだ?」
すると、男は、
「そんなにピリピリすんなって。大体わかってると思うが、俺も『転生者』だ」
と言って、フードを取った。
顔は僕より何倍もイケメンで、前髪の一部に金色のメッシュが入った黒髪をしていてーーー何というか、不良の典型だ。
「俺は十南雷亜。まあ、街ではちょっと名の知れた不良ってやつだ。気軽にライアって呼んでくれ。で、あんたの名前は?」
「僕は川島海斗、普通の高3だ。それにしても君すごいな。僕がこの世界に不慣れなのを見て、僕を『転生者』だと見抜くなんて。この世界の人間は、日本人と大差ない見た目のはずだけど」
「俺さー、昔から人が何考えてるとか大体分かんだよ。暴力ばっかの両親から生まれたからかもだけど」
なるほど。非行の道に走ったのはそのためか。
「で、ライア、君は僕に何の用なんだ?ないならもう行くよ。ギルドメンバーを待たせてるんだ」
「あー、あの彼女ね。でもまだ時間あるっしょ。せっかく『転生者』が2人出会ったんだし、お互いどんな風に転生したのか情報交換しようよ」
「それもそうだな。すまない、急ぎすぎた」
僕がライアに近づこうとした時、小さな風の刃が3つ飛んできた。
僕は、すんでのところでそれをかわす。
「おっ、君なかなかやるねー。この世界の奴らとはやり飽きたんだ。俺は君がどんな性能で転生したのか、戦って確かめたいんだよォ!!」
彼は、さらに多くの刃を作り出し、僕に飛ばす。
僕はそれをかわしつつ思った。
こいつ…風魔法の使い手か!
『雷亜』という名前と金のメッシュという、完全に雷魔法使いそうな見た目してるくせに風!?
僕は、かなり意表をつかれた。
いや、それよりもーーーこの戦い、勝ち目がない!
この戦い方から察するに、彼は風魔法を極めている!どれだけ鍛えたのか知らないが、実力はこの前鎮圧した暴徒より遥かに上だ!
しかもさっき座ってた時に暇潰しとして見ていた僕のステータスは、
HP 80
MP 80
攻撃 16
魔攻 16
防御 16
魔防 16
知能 198
素早さ 16
幸運 123
回避 999
明らかにあの風魔法の達人と渡り合えるステータスではない!
何も作戦がない時の僕の実力は、並以下だ!
そしてここは路地裏。人は来ないし、街からもかなり遠い!逃げても必ずどこかで追いつかれ、倒される!
望みは薄いがーーーここで、戦うしかない!