始まり
僕の街を夕焼けが覆い、昼間は少し涼しい程度だった空気がかなり冷え込んできた。
僕、川島海斗は、顔がいいわけでもなく、かと言って運動が出来るわけでもない普通の18歳だ。
ただ一つ誇れることがあるとすれば、周りよりほんの少し頭がいいことだ。
それだけで学校では一定の立場を保っているし、友達もいる。
ただーーー僕の想像していたより高3というのは大変だった。
だって、最近は毎日のようにテストがあるし!
大人になってもこんな毎日疲れて帰るような日々が続くなら、いっそどこかに消えてしまいたい…
そう思いながら、コンビニで肉まんを買い、横断歩道の向こうにある自宅へと歩く。
今思うと、僕は度重なるテストでフラフラになり、注意力が散漫だったのかもしれない。
僕は、右から猛スピードで迫ってくる乗用車に気が付かなかった。
ーーーっていうか、何で僕は自分のことを他人事のように語っているんだ?
確かに、僕があの時乗用車を見たのは本当だ。だが、それが本当なら、僕はあの車に衝突し、意識不明の重体ってことになる。
でも、それなら何で僕はこんなに思考を巡らせられている?夢にしても、かなり鮮明だ。
そんなことを考えているさなか、僕はやっと周りの景色に目を向けることができた。
その景色を見て―――僕は、言葉を失った。
足元に広がっているのは、白い足場だ。足踏みすると、ふわふわする。
そして目についたのは、僕がいるかなり向こうにある扉だった。建物がある訳ではなく、白い足場の上に扉だけがそびえ立っている。どこで〇ドアみたいな感じだ。
正確な大きさはここからは分からないが、ここからでもとても大きく見えることから、相当な大きさなのだろう。
その扉の前には、とても多くの人々が、列を作って並んでいた。最後尾は、ここからは見えない。
人々は、大半が高齢の男女だったが、その中に少し中年、あるいはかなり若い人もいた。そして、全体で見るととても少ないが、子どもの姿も見られた。
そんな人々を、羽の生えた人間が、大きな扉を開き、1人ずつその中へ案内していた。扉の中には、こことは違う景色が広がっているようだが、よく見えない。
周りを見渡してみると、上も、僕がいるずっと向こうも、青みがかっていた。
大きな扉のあるここより向こうは、遠すぎてよく見えない。
さっきは冷静に状況を整理していた僕だが、流石にもう耐えられなくなった。
だって、おかしいだろこんな景色!周り一面が青みがかって、白くてふわふわした足場って、ここ空じゃん!!
しかもあの大きな扉、たくさんの人々、羽の生えた人間ーーー天使、これはもう間違いない!
ここは天界だ!そして、これが本当ならーーー
僕は、死んでいるということになる。
認めたくない。それを認めてしまったら、僕が僕じゃいられない気がする。
僕は生きている。僕は悪い夢を見ているだけなんだ。
僕は、何度も、何度もそう自分に言い聞かせた。
だが、だんだん耐えられなくなり、僕は地に膝をつき、呆然とする。
「もしかして、これは夢だ、とか思ってます?」
そんな僕の近くで、弾むような声が聞こえた。
声がする方を振り返ってみると、天使が僕を満面の笑みで見ている。
「これは夢じゃありません。9月22日午後6時23分47秒、あなたは事故で死亡しました♪」