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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

青蘭学院シリーズ

君の隣でつむぐ時間(とき)

作者: 高原 涼子

 お互いの気持ちを伝えてから、すれ違っていた時間を埋めるように言葉を交わした。その内に、いつの間にか人前では自分のことを愛称で呼ばなくなった恋人に気づいて、高槻は少しだけそれを不満に感じてしまう。昔からそれは悠にしか呼ばせていない、特別な名前なのだ。

 そんな高槻の思いを知ってか知らずか、二人きりになると、悠は今までと同じように愛称で呼んでくる。

「使い分ける必要なんかないだろ?」

 ある時、そんな風に言ってみると、

「特別な呼び方を、真似する人が出てきたらとても嫌な気持ちになるから、使い分けてるんだよ」

 なんとも嬉しいような恥ずかしいような気持ちにさせられた。




 ちいさな頃からお互いの家は行き来していたけれど、恋人になってからは初めて自分の部屋に招き入れたことに思い至り、高槻はわずかに緊張する。

 いつもは向かい合って座っていた床の上のクッションを自分の隣に置いてから悠に座るように促す。

「……なんだか照れちゃうね」

 少しだけうつむき加減の悠が、隣に座ってほんの少しだけ肩が触れる。離れないように手を繋げば、驚いたように見開かれた瞳は零れ落ちてしまいそうだった。

「好きだ」

 一度言葉にしてしまえば、止まることを知らない気持ちが溢れる。手放せなくなるとあの日に伝えた通りに、高槻は悠に言葉も行動も隠さなくなった。

 今も繋いだ手はそのままに、悠の身体ごと抱きしめて離さない。隣に座っていたはずなのに、気づけば悠は高槻の膝の上に乗せられていた。

「たぁ」

 甘い声で悠が高槻を特別な名前で呼ぶ。

 それに応えるように、腕の中の小柄な身体に回した腕に高槻が少しだけ力を入れて抱きしめると、悠の身体が密着して肩に頭が乗る。 高槻がそのつむじに唇を寄せると、物足りないとばかりに悠が首を傾けてキスを強請る。

 ふわりと鼻腔をくすぐる甘い香りは高槻の理性を簡単に奪いさろうとする。性急に悠のことを求めて怯えさせたくないと思う反面で、恋人の甘い表情をもっと見たいと葛藤する。

 唇に触れるだけのキスを落として、二度目はわずかに開いた口腔内に舌を差し入れる。

「ん……っ」

 呼吸まで奪うようなキスの合間に悠の甘い声がもれる。くちゅくちゅと濡れた音が響いて、二人の興奮を煽っていく。欲求が理性を振りきる前にと高槻が抱きしめる腕の力を緩めると、悠は笑みを浮かべて少しだけ距離をあける。

「別に構わないのに」

 高槻のうなじに指先を這わせながら、悠の言葉が指すことに気づいて、高槻は首を振る。

「俺の理性を試さないでくれ」

 高等部に進学するまでは身体は重ねないと二人で話して納得しているのに、時々悠はそれをなかったことにしようとする。

「……悠のことを大事にしたいんだ」

 泣かせてばかりいたから、今はただ大事にしたいと思う。学校の中での距離を、不自然にならないように少しずつ戻そうとしているのを、幼なじみたちが手伝ってくれている。心が安定しているから悠の笑顔が増えて、その隣にいるのが当たり前になってきた。掛け違えたボタンはこんなにも簡単に元に戻すことができるのだと、正直言って脱力した。

「たぁと二人でいると、あっという間に時間が過ぎてしまうね」

 チラリと時計を見た悠が残念そうに言葉を紡ぐ。

 そのタイミングを見計らったかのように、悠のスマートフォンが着信を告げた。電話に出た悠が二言三言会話をしてから通話を終了させると、

「あと五分」

 残念そうに高槻に伝えた。

「そろそろ高校の勉強も終わるんじゃないのか?」

「……そうだねぇ」

 曖昧に笑ってみせる悠の態度に、それ以上の内容の家庭教師がついていることを察する。

 巨大企業の跡取りは日々忙しくて、二人きりになる時間もほとんど取れないのが実情だ。

 立ち上がった悠の腕を引いて、不意打ちのようにキスをした高槻がもう一度だけと、抱きしめて唇を触れあわせる。

「次の休みはどこかに出かけたいな」

「じゃあ、どこに行きたいのか考えといて」

 悠の行きたいところを優先させようと答えると、

「たぁも考えておいてよ?二人で出かけるんだからね」

 と釘を刺してくる。

 返事の代わりに頰に唇を寄せて、高槻は悠の身体を解放した。

連載の方を進めようとしてたのに、どうしてもこの二人の話が書きたくなってしまいました。

いずれはこっちも連載にしたいなと思ってはいるのですが、同時進行するとどちらもオロソカになりそうなので、これはしばらく単発でいこうと思います。

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