お前の小説は誰が喋っているか分からないんだ
今回のエッセイは、登場人物たちの会話についてです。
これからの語ることは、超初心者だった私の失敗談なので、これから小説を書こうという方は、ちょっとは役に立つかもしれません。
小説を書き慣れている作者様には、あまりためにならないです。
あ、でも最後の方で言っていることは、忘れてしまっている作者様も何度か見かけたので、少しは参考になるかもです。
さて、私は最近、読専から作者側になったのですが、小説を書くのは人生の中で初めてでした。
そんな私は、いきなりアップするのは怖かったので、小説をよく読んでいる知人に見てもらうことにしました。知人には添削というか、いわゆる赤ペン先生を頼んだのです。
3万字ほど書いて、「お? 初めてながら中々いい出来だぞ」なんて、意気揚々と知人に見せた時のことです。30分後、私は真っ赤になって返って来た原稿に、膝から崩れ落ちることになったのでした。
知人曰く――
書き方とかそれ以前に、“お前の小説は誰が喋っているか分からないんだ”
ガビーーン
致命的欠陥でした。
他も駄目な点がいっぱいあったのですが、これが一番心に響きました。そこで、何がいけなかったのか知人と一緒に考えることにしたのです。
【第1の失敗:登場人物のキャラクターがぶれている】
まずこれが大きな要因でした。
小説の中で、登場人物のキャラクターは分かりやすいほうが良く、その方が読み手としてはストレスが少ないです。ここでいうキャラクターとは、性格とか口調とかの総称と考えてください。人格と言っていいかもしれません。
真面目とか、皮肉屋とか、暗いとか、訛っているとか、『この登場人物はこういう奴だな』と人格を、読者に大雑把に捉えてもらえればいいのです。
ここで私の失敗は、人格を大雑把に確定したまでは良かったのですが、その登場人物の人格として台詞が合っていないことが何度かあったのです。
つまり、この登場人物はこんなこと言わないんじゃない? ってことですね。
そのせいで、『あれ? このキャラが喋ってるのか?』と知人は混乱した様です。
まぁ、書いたことの無いド素人の失敗と笑ってください……ここにアップしていらっしゃる皆さんはこんな失敗はしないでしょう。
ただ、これから小説を書こうという方は、一度書いたらよく登場人物のセリフを見直した方がいいですよ?
【第2の失敗:その場に人数が多いからといって、全員喋らせようとした】
これも初歩ですよね……お恥ずかしい。
私の作品は序盤から登場人物が多かったのですが、みんなで集合した時に話し合いをさせる場面で、影が薄くならない様にセリフを均等に喋らせました。
知人には「あほか」って言われました。
だって……みんないるのに喋らなかったら会話に参加してないみたいだって思ったんだもん……
知人はそんな“あほ”な私に、「市販の小説をよく読んでみなさい」と言いました。
で、市販の小説で、複数人で話し合ってる場面を研究したところ分かったんです。
小説の中で、トークは基本1対1でしか進行しない!(ドーーーン!!)
※当たり前のことなので、玄人の方は暖かい目で見てやって下さい。
つまり、Aさん、Bさん、Cさん、Dさん、の4人で喋っていたとしても、会話の始まりが、たとえばAさんとBさんが喋っていたら、他の人は現実の会話の様に、あまり話に入って来ないんです。入ってくる時は、何か情報を言ったり、リアクションをしたりと役目があるんですね。
例としてはこうです――
A達4人は、神妙な面持ちで料理を囲みながら、先ほど見たばかりの事件現場について話していた。
※まず、ここでAさん、Bさん、Cさん、Dさんが話の場にいることが描写されます。
ワインに口を付けると、Aが事件の犯人像について自分の推測を話し始めた。
「恐らく、犯人は何かしら戦闘の訓練を受けた人間だ」
「それはどうして?」
何も知らないBが反応する。
「まず、あの短時間にあれだけの人数を殺せたこと、しかも被害者は全員元軍人だ。普通の人間に出来る犯行じゃない」
「全員元軍人? それは知らなかったわ」
※ここからは、他のメンバーが喋らなければ、『AさんとBさんの会話が続く』ということになります。現実の会話と違って1対1の構図で進行します。Aさんが語り役、Bさんが聞き役といった感じです。
「ああ、全員、俺が軍にいた時に世話になった人間だからな。犯人もやはり軍人か……」
「Aよ、あの傷跡は一般的な武器で出来るものじゃないぞ。裏の世界で動く者、つまり暗殺者が使う武器が使われたと俺は思う」
Aが肉を口に入れようとしたところで、Cがおもむろに言った。
「あ、暗殺者!?」
思わぬ単語に、Bが口の物を噴き出した。その横ではDのフォークがぴたりと止まっていた。彼も驚いたのか、表情に乏しい彼の眉間にも皺が寄る。
Aが吹きかけられた食べかすを拭きながら言った。
「汚いな、まったく……確かに軍に居た時に使った武器にあんな傷跡になるものはなかったな」
「暗殺者が相手なんてやばくない?」
「そんなこと言っても、やるしかないだろ」
※Cさんが喋った段階で、AさんとCさんの1対1の構図になります。が、Cさんを情報を与えるだけの役にするなら、AさんとBさんの構図に戻します。今回の例では、Cさんは情報を与えるだけの役です。Dさんは、喋らず会話に参加していることをリアクションで描写しました。
私の例では少し分かりにくいでしょうが、こんな感じです。
この様に小説の会話は1対1で進み、新しい人が喋った場合に、『〇〇が言った』という様に、会話に参加したことを説明します。そして、その後も基本1対1の会話となります。
全員が均等に喋る必要もないですし、役割分担をするとすっきりします。口調を分けられれば更にすっきりするでしょう。
誰も彼も喋らせようとすると、私みたいに破綻します(そんなこと、皆さんはしないでしょうが……)
ただ、意図的に全員喋らせたりする表現もあると思います。要は誰が喋っているか分かればいいのですからね。全ての小説がこういう構図、というわけではないことはご留意ください。
【第3の失敗:登場人物の反応が乏しい】
この失敗は、いまだによく指摘されます。
ただ、小説を書き慣れてらっしゃる他の作者様でも時々見かけます。もしかしたら、わざとそういう反応を薄くした表現なのかもしれませんが、だとしたらすみません。
ここで言う反応とは、第3者の反応のことを言います。つまり、さっきの第2の失敗の例で出てきた1対1関係に当てはまらない人を言います。
例えば、勇者のパーティーに僧侶と魔法使いがいたとします。そして、勇者と魔王が1対1で戦っています。
魔王が途轍もない威力の魔法を放って、勇者が吹き飛ばされました。
この時、勇者が「ぐあああ!」とか言うのは考えられます。しかし、それを見ていたパーティーメンバーが、「勇者っ!!」とか「そ、そんな……」とかいった第3者の反応を、私はよく入れ忘れるのです。
ちなみに、反応はセリフである必要もありません。先ほどの例文のDさんの様な反応の描写でもいいでしょう。
この第3者の反応は、その人物の立ち位置や関係性など色んな情報を付加してくれます。こういった情報が、後に誰が喋っているかというのを補助してくれるのです。
また、これは誰が喋っているかという趣旨とは違いますが、リアクションは話を盛り上げるのにも重要な役割を果たしてくれます。敵の凄さとか状況の切迫さとか、リアクションがあると説得力が上がるんです。
まあ、当たり前のことですがね。
でも、この小説家になろうにおいて書き慣れていらっしゃる作家様でも、このリアクションが薄いためにもったいないと思った作品は結構ありました。
これらが私の初期の失敗です。
この様に、小説において誰が喋っているか分かり易くするには、色々と考えなきゃいけないことがあるんですね。
皆さんは、こんな初歩的なことは当たり前の様にこなせるでしょうが、感じたことを書けるのがエッセイということで、ご容赦ください。