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予選の決勝戦が終わって数日後。

 ほかのブロックの優勝者も決まったようで、ライトのもとに本戦の概要が書かれたメールが届く。

 ライトは届いたそのメールを開き書いてあることじっくりと読み進める。そこに書いてあったことをまとめるとこうだ。

 大会はこれから一か月後に東京にある会場で予選各ブロックの優勝者全十六名の一対一のトーナメント式で九日間にかけて行われ、敗者復活戦はなく一度きりの試合で、反則や不正行為をした場合はその場で負けとなる。会場に来るまでの交通費は運営サイドで負担してくれるようであり、大会に出場する選手が止まるホテルも手配する。

「一か月か……どうしよう」

 大会が始まる前に入場の仕方や、運営が用意したパソコン自分のマウスやキーボードをつなげて自宅でプレイしているときと同じような環境づくりをしたりなど色々やることがあるため数日前には会場入りする必要があったがそれまでまだ時間がある。

 特訓をしようにも今父親はプロゲーマーとして仕事をしているため、頼めるような状況ではなく同じく本選に出場するシルフィやニンフには当然ながら頼めない。予選の決勝であたったトレインとはフレンド登録をしておらず連絡が取れなく、非情なことであるが自分に負けた相手と特訓をしても意味がないとライトは判断したため特訓するにも一人でやるしかなかった。

 だが、一人で出来ることなどたかが知れており本選に向けての特訓としては効果が見込めない。

 仕方がないから野良試合をしているプレイヤーで強そうな人を見つけて試合を申し込もうかとした矢先、ライトのもとに一通のメールが送られてくる。

「誰だ……? シルフィ……じゃないな」

 一瞬シルフィからの連絡かとも思ったライトだったがその差出人の名前が書かれた場所を見て違うことを知る。そこにはガーデンと書いてあった。

「どこかで見たような気がしたんだが……どこだったかな」

 どこかで見聞きした覚えはあったのだがそれがどこでなのかは思い出せない。これ以上思い出そうとしても仕方ないと思い、メールに書いてあった内容を読み進める。

「えーと……模擬戦の申し込みか」

 ライト自身も試合をしてくれる相手を探そうとしていたところだったので渡りに船だったのだが、唐突にフレンドでもないプレイヤーからの申し込みに素直に受けていいものかどうか悩む。

 だがゲーム内だけで実際に起こるトラブルで深刻なことなどほとんどなく、ライト自身も本選に向けて特訓したかったために承諾することにした。そして相手の指定してきた場所へと移動する。

 するとそこには一人の男のプレイヤーが待ち構えていた。現実世界での特殊部隊がしているような格好をしており顔にはマスクをしているため表情を読み取ることはできない。

「お前がライトか」

 初対面であるにもかかわらず高圧的な態度で鋭い声をかけてくる相手にムッとするライトだが、そんなことでいちいち突っかかっていてはこの世界ではやっていけないため大人しく頷いて返事をした。

「それじゃあ模擬戦さっさとやろうか」

 自分の方から誘ってきたのにやる気が全然ないなとライトは不思議に思うが、強者特有の雰囲気を醸し出すこのプレイヤーと試合ができることの方が重要なため、断ろうとは思わなかった。相手からの模擬戦の申請が送られ、ライトもそれを受ける。

 予選を勝ち上がった自分なら負けるはずがないと、その不遜な態度を改めさせてやると強気だった。

 ――そして負けた。言い訳の仕様がないほど徹底的に負かされたのだ。

「強すぎる……」

 そしてその戦いから模擬戦前には分からなかった相手の正体にライトは気付いていた。ガーデン、彼は現役のプロゲーマーであり、ライトの父親のレイと同じチームに所属していて日本のプロゲーマーの中でも五指に入ると言われているほど強いプレイヤーだ。

 そんな相手がなぜ自分と模擬戦をしようと誘ってきたのか不思議だったが、完膚なきまでに負かされたショックでそれを気にしている余裕がなかった。いくら相手がプロゲーマーであってもここで惨敗は許されることではなかった。

 本戦で優勝すればプロゲーマーと戦うことになる。それが誰なのかはライトも知らなかったが、下手をすればこのガーデンと同格、もしくは格上の相手の可能性もあるのだ。ここで勝てはしなくとも、接戦には持ち込んでおけなければならなかった。

「色々と言いたいことがあるが、一番言いたいことは調子に乗りすぎなんだよ。お前」

 そしてライトは自覚していたことをガーデンに言われさらに傷つく。思い上がってたプレイをしていたと試合を振り返って気付いたのだ。それがなければここまでの惨敗はしなかったとライトは悔やんでいた。認めたくはなかったが試合予選で優勝したことで知らず知らずのうちに気持ちが大きくなってしまっていたのだろう。

「お前の才能は確かに有用だが、まだ完全に使いこなせてねえのも問題だな」

 そう呟くガーデンの言葉に思い当たる節がないライトは思わず教えてもらおうと話を聞きだす。惨敗してしまった今、少しでも強くなる手掛かりが欲しいのだ。

「気付いてすらいねえのかよ。はぁ」

 もったいぶるような言い方をするガーデンに苛立ちながらも問い続ける。

「……その辺も含めて俺様が鍛えてやるからついてこい」

「どういうことだ?」

 ライトの方から頼んだでもなく自発的に特訓してやるといいだしたガーデンを不思議に思うライト。まるでライトが特訓したいと望んでいることを事前に知っているような態度だ。

「もともとそのつもりで来たんだよ。そういう約束だったから。いいから、黙ってこい」

 意味深なことを言うガーデンだがそれ以上のことを聞き出すことはできなく、黙ってガーデンの後を追う。

 そしてたどり着いた場所は歓楽街でサバイブの受付をしているNPCの目の前だった。

「サバイブ……これが練習になるのか?」

「ああ、当然だ。難易度は最初だしイージーでいいんじゃないか」

「流石にそのレベルは簡単すぎだと思うんだけど……目を閉じててもクリアできるって」

「それじゃあ目を閉じてやってもらおうか」

「は?」

 実力を低く見られたと思ったライトが常套句として言った言葉に、真面目に返されるとは思っていなかったために困惑してしまう。だがガーデンは冗談を言っているような雰囲気ではなくその声色はどこまでも本気だった。

「そんなのできるわけねえだろ」

「普通のやつならできねえだろうな……だが、お前なら練習すればできるようになる。というか、それができないならお前は大会で勝ち上がることはできねえだろうよ」

 ガーデンの言うことにいまいち理解ができないライト。

「お前は他のやつと変わった才能があんだよ。それを伸ばすのにこの訓練がいいんだ。いいからお前は黙ってやれ」

 四の五の言わせない態度で言うガーデンに仕方なしにライトは従い、NPCに申請をしてサバイブが始まると目を閉じボットに立ち向かう。

 足音などの些細な音を頼りにボットの位置を探る。愛銃であるスカーを使っているのにいつも通りに狙えないことに困惑するがそれでも腰の位置で構えて撃つ。 しかし、そこには壁がありボットには銃弾が届かない。そして次の音が聞こえた場所に向き直り、スカーを撃つが今度は体一つ分狙った場所がずれていてボットに攻撃が当たることはなかった。そうこうしていると難易度の低いボットがしびれを切らしたように反撃をし始める。狙いの甘い銃撃だったがそれに対処できないライトは被弾してしまい体力が無くなってしまった。

「くっそ……」

 いつもなら軽く倒していたボットになすすべもなく返り討ちにされてしまったことに腹立たしい思いをする。だがそんなライトを見たガーデンは手を止めていることを叱咤する。

「わかったよ」

 特訓してほしいと望んでいたのはライトのため、不服そうな顔をするも黙ってモクモクとサバイブを再度やり始める。

 そんな日々が一週間、二週間と続いていく。そして三週間目に入るころには目を隠した状態でも、ライトはボットを倒せるようになっていた。

「やっぱり俺様の目に狂いはなかったか」

「でも、まだこの状況あんまり長い時間維持できないんだけど」

「そりゃ、望みすぎだ。二週間とちょっとぐらいならこんなもんだっての」

「そろそろ俺の才能ってのを正体教えてくれよ」

「あー、まあいいや黙って聞いてろよ」

 自分が話しているときに横から口出しされるのを嫌うガーデンはそう前置きをしてから話し出す。

「共感覚って知ってるか?」

「えーと、文字に色が見えたり文字に味を感じたりってやつだっけ」

「ああ、五感の中のどれかとどれかが繋がって感じるやつだ。お前はそれのゲーム版って感じか」

「? どういうことだ」

「ゲームの中のアバターあるだろ。おめえはあれと感覚を共有してるんだよ」

「は?」

 ガーデンの大雑把な説明ではいまいち理解できないとライトが言うと、察しが悪いなとガーデンは悪態づくが今度はかみ砕いて説明をする。

「俺らみたいなそういう能力がなくても、勢いに乗ってるときとかは自分がゲームの中に入り込んだ感じになるんだ。集中しすぎてモニター外のことに意識がいかなくて自分が銃を持って戦ってるって錯覚してるだけなんだけどな。お前はそれがデフォルトの状態なの。そんでお前が全神経を本気で集中させると最近アニメとかでVRゲームとか言ってゲームの中に入り込んでるな感じになるんだよ」

 ここまで言われるとライトもようやく自分の才能の凄さが分かってくる。周りのプレイヤーがモニター越しにゲームの世界に触っているのに対してライトだけはゲームの中に入り込んだような状態でゲームをしている。つまり、得られる情報量が一人だけ多くなるのだ。それが、今までは勘だったり読みとして表にでてきていたのだ。

「それをもっと高めるために目隠しした状態でボットと戦ってもらったんだ。さっき短時間って言ってたけどその少しの間なら相手の位置が手に取るように分かるだろ? 正直チーターって言われてもおかしくないレベルだ、それは」

 ガーデンはそう簡単に言うが、もし相手が息を殺して隠れることに専念すれば流石にライトでも相手の位置は分からない可能性もあったり、あまり長く使うとその後に反動がきて普段の何倍も疲れてしまうため諸刃の剣でもあった。

「とにかく、俺様が教えてやるのはこれで終わりだ。あとは一人で調整するなりしろ」

「最後ついでにもう一つ教えてくれ。最初に言ってた約束ってなんだ」

「お前の特訓に付き合ってやれってある人から頼まれたんだよ。これ以上は言えねえから自分で考えろ」

 ライトの質問にそう答えたガーデンは、追求されるのを嫌ってさっさとログアウトしていってしまった。

「どういうことなんだ。……まあいいか。今はそれよりも大会に向けてもう少し練習していかないと」

 そう意気込むライトのもとにシルフィからメッセージが飛んでくる。

「あいつにしては珍しいな」

 普段用があるときは会いに来るシルフィだったが今回はメッセージを飛ばしてきた。

 最近はずっとガーデンと一緒にいたため話しかけようにも話しかけられなかったためかとライトは少したってから気付いた。そしてメッセージの内容を確認すると今シルフィがいる場所を探しだし、珍しくライトの方から会いに行った。

「やあ、ライト。来たってことはメッセージ読んでくれたんだね」

 シルフィのもとへ行くとライトが来るのを待っていたかのような言葉をかけた。

「そりゃあ仲いいやつからメッセージ着て無視するやつなんていないだろ」

「そう? 私たまにメッセージ着てるの気付かなくて師匠に怒られたりするけど」

「お前なあ……」

 そんなシルフィの言葉に呆れるライト。

「それはさておいて。大会のことなんだけど」

「そうそう、それだ。なんで一緒に行こうなんて言ってくんだよ。現実リアルでは知り合いでもなんでもねえだろ、俺ら」

 仲の良い二人だが、現実世界で会ったことは一度もなかった。だが昔話したときに近くに住んでいるのは判明している。

 今回はそんなライトにシルフィがメッセージで大会の数日前に一緒に会場入りしないかとの誘いだった。

「女同士だとちょっと不安でねー。師匠にも話したら、ライト誘ってみれば? って言われて」

「つまり俺とお前とニンフの三人で会場に行くってことか……そうだな。俺もまだ母さんに言ってないけど一人で行くって言ったら心配されそうだし。分かった。三人で行こうぜ」

「やった。それじゃあ荷物持ちお願いね」

 ライトが肯定したことを聞いたシルフィは調子に乗って嬉しそうにそう言った。

「おい……」

「嘘だよ、冗談冗談。いくら男の子だからって年下の子にそんなことさせるわけないでしょ」

 そう軽く笑って言うシルフィを見ていると、ライトはもうどうでもよくなってくる。

「それじゃあ、詳しい待ち合わせ場所と日時決めようか」

「ニンフは呼ばなくていいのか?」

「うん、師匠は私に任せてくれるって。あとで連絡だけして、って言ってた」

「そうか」

 それを聞いたライトは気兼ねなく話し合えるとシルフィとの話し合いをした。

 数分後。

「それじゃあ私師匠に話してくるー」

 そう言い残しシルフィはどこかへと去っていった。

「だから、メッセージ飛ばせばいいだろに……」

 そんなシルフィを微笑ましく思いながら、ライトは特訓の疲れからログアウトすることを選んだ。

 現実世界へと戻ってきた煌は、忘れないうちにと母親に大会に出ることを告げに行動する。

「え? ああ、いいわよ。頑張りなさいな」

 意を決して母親に話しかけた煌だったが、あっさりと了承してもらえたことに呆気にとられた。

「なによ、意外そうな顔なんかしちゃって。私は自分の子供の邪魔なんてしないわよ。その代わり奈緒にもちゃんと説明するのよ」

 呆然としている煌にそう話しかけた。

「ありがと」

 礼を言うと煌は奈緒にも話をしようと二階へと向かった。

 二階にたどり着いた煌は自身の部屋の隣にある奈緒の部屋を訪ねる。ドアをノックすると、どたどたと足音が近寄ってくるのがドア越しに伝わってきた。

「あれ? お兄ちゃんの方から会いに来てくれるなんて珍しいね」

 ドアを開けた奈緒は訪ねてきたのが煌だと気づいて意外そうな声をかけた。奈緒が煌のもとに訪ねてくることは多いが、その逆は珍しかった。

「ちょっと用があってな」

 母親にすんなりと認めてもらえたため、そのままの勢いで来てしまった煌だが、考え直してみると奈緒の説得には骨が折れそうだという結論にいたった。

「用ってなーに?」

「あーそのだな」

 プロを目指して大会にでると奈緒に話せば、反発されることは必至なためどう切り出そうかと悩んでいると、その様子を怪訝に思った奈緒は首を傾げた。

 これ以上黙っているのも不自然だと思った煌は話し出す。

「その、俺がプロゲーマーになりたがってるの知ってるよな。それで大会にでてるんだけど……」

 煌はどう言えば奈緒が納得してくれるか考えながら話す。その真剣な物言いに奈緒も話の途中で割り込まずに静かに聞いていた。

「お兄ちゃんも遠くに行っちゃうの……?」

 最後まで静かに聞き終えた奈緒からでた最初の言葉は、それだった。

 寂しそうに言う奈緒を見た煌は心が痛むがそれでも、自分の夢を叶えたいという気持ちが強かった。それにプロになったからといって至る所に出かける必要がある訳ではなかった。

「別にプロになったからって、父さんみたいにいろんな場所に出かけまくる訳じゃないよ。父さんはプロの中でもほんの一握りしかいない……つまりスター選手みたいな感じだから、大会だけじゃなくてサイン会とか公演みたいなイベントもやってるから家にいる期間が短いってだけで。俺がプロになってもそこまで変わりはない……はず。ネットを介してのみで行われる大会もあるしな」

 そう煌が言うと奈緒は少しは安堵したのか表情を和らげる。

「ほんとに?」

 それでも心配なのか上目遣いに煌を見上げる。

「お前に嘘なんかつかねえよ」

「お兄ちゃんはプロゲーマーになってもどこにもいかない?」

「ああ。信じてくれ」

 奈緒に目線を合わせて、心の底から煌はそう言った。

「うーん……お兄ちゃんがそこまで言うなら……。一生懸命やってきてるのも知ってるし、ね……。でも、嘘だったら承知しないよっ!」

 その熱意が通じたのか奈緒も悩みながら、それでも煌の気持ちを汲み取る。

「任せとけ……悪いな、お前が嫌がってるのなんて昔から知ってるのに」

「いいよ。……ううん、ほんとはよくないんだけど。お兄ちゃんが真剣な目つきで頑張ってる姿を見るのは好きだから」

「ありがとうな」

 本当は寂しいのにそれを我慢して応援すると言ってくれた奈緒の頭に手をのせ優しく撫でながら礼を言った。

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