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 翌日。

 ライトの二回戦で当たった相手は、ショットガンを使うプレイヤーだった。屋内のステージが選ばれることを祈っての選択だったのだろうが、運はライトに味方し、砂漠がモチーフとなったスナイパー向けのステージが選ばれライトのスカーの前に手も足も出せず負けていった。

 試合を終え待機場に戻ってきたライトは試合中にも気になっていた目的を果たすため、フレンドリストからシルフィの名を探す。そしてそのシルフィの現在の状況を調べると試合中ではなかった。

「つまりもう終わったのか」

 あたりを見まわたしてみるとすぐにシルフィの姿を見つけることができた。

「や、ライト」

「そっちも順調に勝ったんだろ」

「モチのロン」

 なぜか返しが古かった。が、それを気にせずライトは会話を進める。

「ニンフは?」

「えーと……あそこ」

 ライトに聞かれニンフの姿を見つけると二人そろって向かった。

「やあ、二人とも。そんなに急いで、模擬戦したかったの?」

 近寄ってきた二人にフランクに話しかける。

「当然でしょ師匠」

「ボクの弟子ながら困ったもんだね。まあいいや、早速やろうか」

 迷いのない返事をしたシルフィに苦笑しながら模擬戦の申請を送る。

「まってました!」

 シルフィは申請が届くと同時に受諾し、ライトはフレンド登録してあるシルフィの観戦を始める。今回はステージアがランダムセレクトで選ばれ、木や草が多く生え辺り一面が緑に覆われた森林ステージとなった。

 カウントダウンが零になり自由に動けるようになるとシルフィはあたりを見回し、射線の通りそうな高台へと走る。わき目もふらず進むシルフィの速度はライトよりも早い勢いだ。シルフィがそこまで勢いをつけて走るのには、有利な位置を取る以外にも理由があった。それは、もし移動中にニンフからの狙撃があった場合狙いにくくするためだ。木々の間をぬうように全力で走るシルフィに攻撃を充てるのは一流のスナイパーといえど大変なことなのだ。

 ――だからニンフが攻撃を外したのも不思議なことではなかった。

 耳をつんざくような銃声とほぼ同時にシルフィのそばに生えていた木が弾けた。シルフィはそれを確認するも足を止めることはなくそのまま走り続ける。

 ライトはその理由を少し考え、ここで足を止めてしまうとそのすきを狙われてしまうという結論にたどり着いた。

「へえ」

 ライトは初めて見る高度なスナイパー同士の戦いに舌を巻く。もし自分が今のシルフィだとしたら狙撃に怯え足を止めてしまい、そこを狙われて負けていただろうと考えた。自分の知らない世界や戦い方を身近で感じて学べることが観戦で得られる一番の利点だ。

 その後も数発ニンフの狙撃が続くが、かすり当たりが発生するだけにとどまりシルフィの体力が少し減るだけだった。これはスナイパー同士の戦いでは特に不利に働く要素ではない。なぜなら頭に一発当てれば体力が満タンであろうと一瞬ですべてを消し飛ばしてしまう。シルフィは銃声がやむまで走り続け、銃声が止まった位置からさらに移動し木を正面にして壁にし、伏せる。

 シルフィのティンバーウルフにはバイポッドがついていないため木の根に委託して先ほど銃声がした方向をスコープごしに索敵する。が、ニンフの姿を見つけることはできんし。しばらくそのままの膠着状態が続くことになり、段々と緊張感が重くなっていく。

「…………」

 そんな静寂に包まれた戦場を壊したのはシルフィだった。日の光を反射して光るスコープを発見すると、そこに狙いを付けたシルフィはトリガーにかけた指を引き絞る。

 すると狼が遠吠えしたような独特で大きな銃声が辺りを支配する。この銃声が気に入っているのだとシルフィが昔語っていたことをライトは思い出す。

 そしてすぐにコッキングせずにスコープを覗き続ける。そしてシルフィは狙った場所に弾が飛んだことを確認し、勝利を確信しかけるがそこに違和感があることに気付く。

「?」

 すぐに状況が呑み込めず、そのまま位置を変えることもなく思考してしまう。そしてそれが決定的な敗因となってしまった。

「シルフ」

 すぐ後ろからニンフの声が聞こえた瞬間ニンフの作戦を理解し負けを悟ったシルフィだったが反撃の意思がないということを示すように腕をニンフに見えるようにして後ろを振り返る。

「ハンドガンは反則」

「そんなルールは決めてないでしょうが」

 ニンフが行った作戦はこうだ。

 最初の銃撃後にシルフィが隠れるであろう場所を予想したニンフはそちら側から見える位置にに自身の正式名称PGM338、通称ミニヘカートと呼ばれる狙撃銃を置いて自身はシルフィがいた方向に静かに足音を消し気付かれないように移動した。

 そしてシルフィがスコープに反射した光に反応して狙撃したことで、正確な位置が割れ背後から忍び寄りホルスターに収めていたジガナと呼ばれる拳銃をシルフィに向けて構えてから呼びかけた、ということだ。種明かしをしてしまえばとても簡単なことだった。

 師匠であるニンフとの模擬戦ということで狙撃することに集中しすぎてしまったシルフィはニンフが狙撃以外の選択肢を取るということを視野に入れていなかった。それを逆手に取られた結果となる。

「狙撃勝負がしたかったの! むー」

 ニンフとの狙撃での戦いが望みだったシルフィは、狙撃以外の分野で勝負の決着がついてしまったためそれが不満のようだ。

「そうは言われても相手が自分の望んだ試合をやってくれることなんてまずないからね……」

 含んだ様子でためを作るニンフにシルフィは何かを期待したような目で見つめる。

「予選はブロックが違うから戦うことはないけど、本戦で試合があれば狙撃勝負してあげるよ」

「えー、嬉しいけど嬉しくない」

「なんで?」

 シルフィが喜ぶと思っての提案だったニンフは予想外の言葉に疑問に思った。

「だって師匠に狙撃で勝てたことないもん」

 今までしてきた模擬戦で一度として勝てなかったと言う。

「さっきは狙撃勝負したいって言ってたのに」

「模擬戦は負けて悔しくはあっても落ち込みはしないから。でも大会の本戦で負けたら言い訳のしようなんてないし」

 ふざているように聞こえる言葉だが、そこに込められた思いが言葉の端々から伝わってきて本気度合いがひしひしと伝わってくる。

「悔しい気持ちがないと強くなれないよ。知ってるでしょ」

 普段強いプレイヤーと戦うことが好きなシルフィは辛酸をなめることも多々あるということを、ライトもニンフも見てきているので知っていた。

「うん……、でもやっぱり私にとっての師匠って、憧れであり目標だから。そんな人に本気で挑んで負けたら…………泣いちゃうな」

「そっか」

 めったに聞かないシルフィの内心について聞いてニンフは嬉しそうな、気遣うような表情をする。

「でもやっぱり師匠との真剣勝負も楽しみだから、当たったときはお互いに本気でね」

「あたりまでしょ。それに最初に言ったでしょ」

 シルフは試合で手を抜くということは相手を侮辱する行為だと思っている。

「この中の三人いつ、誰と当たって勝っても恨みっこなしだよ」

「「勿論」」

 ニンフの言葉に当たり前といわんばかりにライトとシルフィは答えた。

「……っと、もうこんな時間か。ボクはちょっと現実リアルで用事あるから落ちるよ」

「お疲れ様です師匠」

「おつ」

 用事があるためゲームを終えるとニンフが言うと、シルフィとライトが挨拶をする。

「シルフとこれからも仲良くしてやってね。それじゃあね」

 そう言い残しニンフはログアウトしていった。

「師匠は全く余分なことを」

 ニンフが最後に言い残した言葉に優しそうに微笑した。

「結局どういう人なんだニンフって」

「師匠? 見ての通りだよ」

 ライトの質問に見て感じたことそのままだとシルフィは言う。

「あえて言うなら、面倒見のいいお姉ちゃんって感じかな」

「お姉ちゃん?」

「そ。このゲームに誘ったからってのもあると思うけど、右も左もわからない私に丁寧に一から教えてくれたんだ。それがなかったら私はこのゲーム上達するまえにやめてたよ」

 シルフィは昔を思い出したのか楽しそうに語る。

「あ、でもお姉ちゃんって言っても私と同い年だからね。そんな感じがするってだけで」

「そうなのか」

 シルフィの言葉にどれだけニンフのことを慕っているかがこもっていて本当に仲がいいことが分かる。

「うん、学校でも勉強できるしほんと凄いよ」

 現実世界でのことをシルフィが話すのは珍しいためライトは興味深そうに話を促す。

「同じ学校なのか?」

「うん、私が高校に入ってできた一番の友達」

「へえ」

「たまーに、学校で師匠って言っちゃって怒られるんだよね」

「そりゃあそうだ」

 数多くの生徒がいる中で、師匠と呼ばれるのは気恥ずかしく周囲に変な目で見られたりするなどいろいろな障害があるだろう。

「それじゃあ大会であんまり当たりたくないんじゃないか」

 どちらが勝っても気まずくなりそうだとライトは思う。

「だから師匠と話してから大会にでたんだよ」

「ああ、そういうことだったのか」

「うん。さっきもちょっと言ったけどお互いに当たってどっちが勝っても恨みっこなしで、本気でやろう。って決めたんだ。ま、勝てる気がしないんだけど」

「俺はシルフィの応援するからな」

「ん、ありがと」

 ライトは当たり前だと思っていることをそのままシルフィに話しただけなのだが、当の本人は意外だったのか答えるのに言葉が詰まった。

「なんだよ、その反応」

「うーん、意外というか……ライトも大会にでてるじゃん」

 簡素な物言いだったが、ライトにはそれで理解した。シルフィが言いたかったのはつまり、ライト自身も大会に出ている選手だからいつかは自分かニンフと当たる――つまり敵になりうる相手の応援をするとは思っていなかったということだ。

「そういやそうか。なんも考えてなかった」

「ふふっ。そういうとこ私は好きだよ」

「うっせ、馬鹿にすんな」

「してないよー」

 ニンフが落ちた後も他愛のない会話をしていた二人もやがて話題も付き、ライトは練習にシルフィはログアウトとそれぞれの道へと分かれていった。

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