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大会予選初日。
「今日の相手は……、知らない名前だな」
試合開始前に知らされた相手の名前はライトの知らない名前だった。シルフィやその師匠、トレインなどの強者、有名どころのプレイヤーなどと予選の初戦から当たりたくなかったライトは一安心する。だが決して気を抜いていい試合ではないため気合を入れ直す。
「おっす、おめえが今回の対戦相手か? よろしくなっ」
待機所で待っているとどこか能天気そうな、悪く言えば猪突猛進タイプそうな体育会系な男が話しかけてくる。邪険にする理由もないためライトも応じる。
「お手柔らかに頼む」
そして時間が来ると二人はそろって対戦ステージへと転送された。
転送が終わると鳥の鳴き声や木々の葉が風でこすれる音、川のせせらぎの音が聞こえてきそうな迫力満点な森林ステージだ。天気は晴天で数多くの木々の隙間から漏れ出る木漏れ日が美しい。
「ギリースーツ着てたらやっかいだな」
ギリースーツとは、隙間なく葉や草などを付けて偽装した、人の目を欺きやすくした服だ。その効果は森林ステージでは絶大で全くといっていいほど見えなくなってしまうため、やっかいな代物だ。
その場にとどまっているのも危険なためライトは周囲を警戒しながら進んでいく。幾分か進んで行くと前方の草木が不自然に揺れているのが見えた。ライトはとっさにスカーを構えて数発撃ちこむ。
「ぐわっっっ」
「え」
どうやらそこに陽動ではなく、敵プレイヤーが本島にいたらしく悲鳴を上げて倒れるのが見え、ライトは即座に待機所へと再転送され先ほどまで見ていた景色へと戻っていった。
「……え?」
自分で撃ちはしたが、まさかそれであっけなく試合が終わるとは思っていなかったライトはうまく状況が呑み込めずにいた。試合時間にして数分もたっていないだろう。数秒惚けていたライトだったがそれでも勝ったのだと理解すると一応は嬉しいかった。
「こないだの模擬戦の影響で高望みしすぎた……んだろうな、きっと」
そういえばこれまでトレインほどに試合という体をなした試合はほとんどなかったと思い出す。普段模擬戦でシルフィと戦うことが多かったためのズレなのだろうと考えた。この対戦相手が特段弱いとは思わなかった。なぜなら、迷わず前に出てきていた度胸や基礎を踏まえた動きなどはしっかりとできていた、そうライトには見えたのだ。
「この様子だと、シルフィは勝ち残るだろうな」
お互いに本気ではないと言え、模擬戦でライトといい試合をするシルフィがこのぐらいの相手に負けはしないだろうと確信めいたものがあった。幅広いプレイヤーに名前が知られているような有名なプレイヤーとでも当たらない限りは、とも思うがそのレベルのプレイヤーはそもそもの数が少なく本戦までは当たる確率は少ないと予想していた。
「すぐ終わっちゃったからなんか物足りないな」
「私とやる?」
「うわッ」
周囲に誰もいなく独り言を言っていただけのつもりだったライトは、唐突に話しかけられ驚く。
「なんだよ、急に現れるんじゃねえ」
唐突に表れた人物――シルフィに向かって、最近よく会いに来るなと冗談を交えて言った。
「そんなつれない態度とらないでよ。ライトも不燃焼だと思ったから誘いに来たの」
「も、ってことはやっぱりそっちも圧勝だったのか。……誘いに来た?」
やっぱり思った通りだったかと思ったが、シルフィの続いた言葉に疑問を抱く。
「うん、遊びに行かない? ここのところ予選に向けてずっと練習してたんでしょ。だから息抜の意味も込めて、さ」
ゲームの中で遊びに行くというのもおかしな話だが、WGOではミニゲームとして早打ちやクレー射撃などができるのだ。
「……まあいっか」
煮詰めすぎてもよくないということをライトは自身の経験として知っているため、気分転換に遊びに行くのもいいかと了承する。
「それでなにやる?」
「サバイブとか?」
「いや疑問系で返されてもこまるんだけど。ま、それでいいよ」
サバイブとはAIが操るプレイヤー、つまりボットといわれる存在が一定数リスポーンしプレイヤーを一斉に襲う。それが複数回あり最後まで生き残るというルールだ。そうと決まるとライトとシルフィの行動は早く、待機所を出た二人はミニゲームのできる店が多く集まる歓楽街をモチーフとされた地帯へと移動する。
「そういえばそっちの対戦相手どんなやつだったんだ」
純粋に気になったライトは、そう問いかけた。
「えっとね、やたらと前に突っ込んでくる猪タイプの人。サブマシンガン持って速度重視に攻めてくる感じの」
つまり、速攻で前に詰めて相手が準備を整える前に叩こうというタイプのプレイヤーだ。スナイパーのシルフィにはむしろあだとなる。
「それじゃあ俺よりも早く試合終わったんじゃないか」
「一分とかからなかったよ」
一言聞いただけでは相手が弱かったと取れる発言だったが一分とかからなかったということは相手の行動が速く、開始と同時に前に全力で走ったという証明――つまりその戦い方に慣れた歴戦のプレイヤーで今回の敗因は相性の悪いシルフィと当たったというのが一番大きな理由で決して侮れる相手ではなかったことが分かる。
「てことはそっちも調整はバッチリか。本戦まで順調に勝てそうだな」
「そっちもでしょ」
お互いに今日の試合のあれこれや、これからの試合に向けての考えなどを話しているとサバイブを行う場所へとたどり着いた。
「さてと、難易度どうするか」
「んー、ハードでいいんじゃない? 不燃焼分を燃やすんだし」
「りょーかい」
シルフィに問いかけ了承を得るとNPCに申請し、シルフィも準備を整え終え二人そろってサバイブ専用のステージに転送された。
「どうする」
ボットが押し寄せてくるまでのカウントダウンが行われている間、どういう作戦で行くかを考える。
「いつもの感じでいいんじゃない」
いつもの感じというのは、フィーリングで合わせる。つまり各自で臨機応変に行動して対処していく、ということだ。
「おけ」
ライトも異論はなくその作戦で行くことに決定する。
カウントが数え終わりボットがリスポーンするとライトはすぐさま前線へと走り、シルフィは狙撃のしやすい位置へと向かう。
ライトが全線に到着するとシルフィからラジオで「位置についた」と報告が入る。ライトが索敵をしていると複数の敵が一斉に近寄ってくるのが見え、シルフィに伝える。シルフィもそれを聞いてすぐに狙いを整えたのかティンバーウルフの独特な銃声がすぐに響き渡り、ボットの一体が頭から血を吹き出して倒れていく。そして少し時間を置いて、第二射。同じように二体目のボットが倒れる。
「さっすが」
初弾から二発目までの間の時間を考えるとほとんど狙う時間がなく、速射といえるレベルで舌を巻くほどだった。勿論素直に褒めるのは癪に障るため今の言葉はシルフィには聞こえないようにした小声での発言だ。
「俺も負けてられねえな」
そういうとライトはスカーを構えてボットに向かって数発ずつ撃っていく。
無駄撃ちを複数回繰り返すとシルフィの狙撃があるといえどすぐに押し切られてしまう。そのため正確に狙う必要が出てくるのだ。二人で何倍もいるボットを相手にするときに辛いのは弾の管理だ。正確に狙って消費する数を減らし、タイミングを見計らってリロードしなければすぐに数の暴力に押し込まれてしまう。今回のサバイブではライトのリロードのタイミングとシルフィのリロードのタイミングを連絡もせずに、ずらして行われる。この辺りは付き合いの長い二人ならではの阿吽の呼吸だ。
少数のボットがライトからは狙えない横道から回ってシルフィのもとへと向かっていくが、狙撃に夢中になって気付かないシルフィでもなくPx4をホルスターから引き抜き、先手を取って撃つ。スナイパーとして長くプレイしているシルフィはハンドガンの扱いにも自然と長けていて、数だけが自慢で動きの単調なボットに後れを取ることはない。近づいてきた敵を必要最低限の射撃で掃討すると、次のことを考えマガジンを入れ替え狙撃へと戻る。
そんなことを数度とこなしていくと敵の数も減っていき、ライトも自由に動けるようになってくる。すると隙をついて前へと進んでいく。障害物をうまく使って盾として利用し、複数のボットからの銃撃を避けるとお返しとばかりにスカーのトリガーを引く。そうして数分後には全ボットを殲滅し終えていた。
「まあなかなかだったかな」
サバイブを終え元いた位置に転送されたライトは感想を述べ、シルフィの方へと視線を向けると一発も外すことなく狙撃を終えたシルフィはそれなりに満足した様子だった。
「二人ともよかったよ」
「あ、師匠」
ライトとシルフィが話しているとライトの知らない女性アバターのプレイヤーがボーイッシュな声を響かせながら現れる。シルフィの言葉から察するにどうやら彼女がシルフィのよく言っている師匠のようだ。
薄紫色をした髪のセミロングにしていて、一房だけが黒色になっていた。首にはシュマグを巻いており、シャツの上にドレープを重ね着しスカートの下にスパッツをはいていた。シュマグや重ね着をしているのは人のシルエットを消す狙いがあるのだろうとライトは感じ取る。つまりシュマグとドレープがギリースーツと似た効果を発揮している。一見した限りではボーイッシュな雰囲気だ。
「それでシルフ、そっちのプレイヤーは誰なのかな?」
師匠と呼ばれた女性プレイヤーはシルフィを愛称で呼びながら問いかける。
「えっとね、この生意気そうな子は私がいつも話しているライトって子だよ」
「ああ、いつもシルフが話してるプレイヤーさんか。初めまして。ボクはニンフって言うんだ」
「どうしたのライト」
ニンフの名を聞いたライトが返事もせずに固まって何かを考えるようにしているのを気に留めたシルフィが呼びかける。
「どこかで聞いた名前のような…………」
シルフィからの言葉もろくに聞こえていない様子のライト。
「……もしかして、ニンフさん?」
とある昔の記憶に行き当たったライトは再度名前を聞く。
「そう言ったと思うけど……?」
何を言うのかとシルフィとニンフは怪訝そうな表情をする。
「元プロゲーマーの?」
そうライトが言う。
「あー……」
「え?」
ライトにそう聞かれたことにニンフはどう答えようかと悩み、シルフィはそんな話は聞いたことがないと事実かどうかを確かめるために、ニンフの表情をうかがう。
「ばれちゃったかー」
それに対し特に隠しているわけではないらしくあっさりと認めた。
「私聞いてないんだけど」
そこに生身のシルフィがいたのなら、間違いなくジト目でニンフを睨みつけていただろう。
「聞かれなかったから。それに気付かれるとは思わなかったよ」
そんなシルフィの相手はそこそこによく気付いたねと、ライトに称賛の声を送った。
「ボクがプロだった期間なんて一年もなかったのに。対して活躍してもいないし」
「どこかで聞いた覚えがあったんですよ」
「へー」
「えーと、ニンフさん? も大会にでてるんですよね……?」
「あははは、シルフと接するように呼び捨てでいいんだよ。それと、ボクも大会にでてるよ」
元プロゲーマーと聞いて言葉遣いに気を付けていたライトに、聞いていたイメージとのギャップを感じ思わず笑ってしまったニンフ。
「元プロまで大会にでてたのか……」
予選で元プロゲーマーのような実力者に当たるのはつらいなと考え込む。
「んー、ボクぐらいだと思うよ? ゲーム自体引退してたり、もうプロには興味ないとかで真剣にやってない人ばっかりだから」
一度夢見てプロになっても、その実力主義な世界に嫌気をさしたプレイヤーは多いとニンフは語る。
「正直な話シルフに相談されたときは止めようかとも思ったんだけどね。でも見る夢は人それぞれだし、それを他の人がやめさせるのは間違ってると思ってるから」
「それでニンフ……はどうしてここに?」
プロゲーマーに憧れているのと呼びなれない名前のためぎこちなくなってしまいつつも、ライトはニンフがどうしてここに来たのかと問いかけた。
「二人がここにいるのと同じ理由かな。体動かそうかと思ってたんだ」
「それじゃ師匠、私と模擬戦しましょうよ」
サバイブを終えたばかりだというのに師匠と模擬戦をしたいと元気にきらきらとした目をニンフに送る。
「どうしようかなー」
「俺もシルフィとニンフの模擬戦見たい」
模擬戦をするかどうか悩むニンフに元プロゲーマーの戦い方を見たいとライトも言う。予選の最中に模擬戦をやるのもどうなんだろうと思ったライトだったが、二人が師弟関係で今までにも模擬戦を幾度となくやっていたことはシルフィから聞いていたため、遠慮する必要もないかとの判断だ。
「二人がそういうならしょうがないな」
「やった」
ライトの言葉もあり、ニンフはシルフィと模擬戦をすること渋々ながら承諾した。
「二回戦が終わったらね」
――ただし条件付きだったが。
「えー」
後出しで出された条件にシルフィはニンフに文句を言う。
「体強くないんだから今日は抑えなって」
「むうー」
最近は調子のいいシルフィを見ているためライトも忘れかけていたのだが、シルフィは体が弱く病弱な面があることを思い出す。幼いころはそれが顕著で入院することが多かったと昔聞いたことがあった。
「最近全然平気だよ?」
「だーめ。それで体壊したら大会も出れなくなるんだよ? また今度ね。……それよりもライト君に聞きたいことがあるんだけど、いいかな」
納得のいかなそうなシルフィとの話を強引に切り上げ、ライトに話しかける。ライトは何を聞かれるのかと気になりながらニンフの言葉に応じる。
「ライト君のお父さんってまだ現役のプロゲーマーなんだよね? 名前教えてもらえないかな」
どうやらシルフィはライトの夢のことまでニンフに話していたようで、父親のことを聞いてくる。元プロゲーマーとして興味があるのだろう。
「レイだよ」
特に隠すことでもないためライトは素直に名前を告げる。
「あ、あのっ!?」
その名を聞いたニンフは驚く。それとは対照的にシルフィはあまりプロゲーマーに興味がないのか反応という反応は見れなかった。
「知ってるんですか?」
自身の親ということもあり、あまり世間の評価というのが正確に把握できていライトは、逆にニンフの反応に逆に驚いてしまう。
「そりゃあ、もう十年ぐらいずっとプロとして前線でプレイしてて過去には日本一位にもなったような人だからね。ボクも現役時代に戦ったことあるけど手も足も出なかったよ」
「師匠がそこまで?」
「嘘じゃないよ」
ニンフの強さをよく知るシルフィは信じられないらしく懐疑的だった。
「さすがに今は全盛期ほどのプレイはできなくなってきてるけど、それでもすごいよ」
「そんな人が父親なんだライトって……それならプロゲーマーにも憧れるよね」
「妹からはあんまり応援されてないけどね。父さんがプロゲーマーってことで家に全然いないから俺もそうなるんじゃないかって」
「妹いたの?」
「いるよ小学生の」
「初耳」
長い付き合いの中で聞いたことがなかった事実を知ったシルフィは驚く。
「わざわざ言うことのほどじゃないし」
「それもそっか」
ライトの言葉に納得するシルフィ。
「そっかー。あの人の子供なんだ」
「うん。ちなみに久々に今日父さん帰ってくるんだ」
「へえ。いいなあ。ボクも親がプロゲーマーだったらなぁ……」
そういうニンフの目は冗談の色がなくどこまでも本気であった。過去が忘れられないのだろう。
「でも俺も最近は家に帰ってきた父さんに教えてもらったりするけど、昔は反対されたから」
「プロゲーマーの世界も厳しいからね……でも今のライト君の実力、って言ってもシルフから聞いた限りなんだけど、その感じだと十分才能あると思うよボクはね」
元プロゲーマーから筋があると言われ、ライトは嬉しくなる。プロゲーマーを目指している身としてはとても心強い言葉だ。
「ありがとうございます」
「あ、それであの人がどんな父親なのか話聞いてみたいんだけど」
伝説と言ってもいいほどのプロゲーマーが家族にはどんな一面を見せるのか気になったニンフは遠慮せずにそう言った。
「師匠。あんまり踏み込んだことはライトが困るでしょ」
そんな様子を見てたシルフィがこの後根掘り葉掘り聞き始めることが目に見えたため止めに入る。
「大丈夫だって。ボクはシルフと違って年下趣味じゃないから」
「なっ、なんの話ですか、師匠!?」
「え、そういう話じゃなかったの」
「茶化さないでください!」
ふざけた様子で言うニンフに動揺したのか少し大きな声で切り返すシルフィ。
「ごめんごめん」
「あの……」
「ん?」
シルフィとニンフが話しているところにライトが割って入る。
「たぶん父さんそろそろ帰ってくるだろうし、宿題しないとなんないから落ちたいんだけど」
「おー、ちゃんと勉強もしてるのか。えらい!」
「師匠は勉強はからきしだからね」
都合の悪いことは聞かなかったことにしているのかニンフは、その言葉を無視する。そんな様子を微笑ましく思いながら「お疲れ様です」と言い残しライトはログアウトした。
「面白い子だね」
ライトがいなくなったことで、受けた印象を包み隠さず素直にニンフは告げた。
「でしょ」
「あの子も育ててみたいな」
「……」
実の弟子を前に遠慮ないことを言う。それに対しシルフィはジト目で抗議をする。
「あはは、冗談だよ。あの子ってスナイパーじゃないんでしょ? ならボクに教えることはないよ。それにボクはシルフの方が大切だからね」
「調子のいいことを」
そう言うシルフィの表情はどこかにこやかだった。
――ゲームからログアウトし、パソコンの前から離れようとするとライトの部屋の扉をノックする音が鳴る。
「お兄ちゃん! お父さん帰ってきたよー」
そう言って部屋の主の返事も待たずに中に遠慮なく入ってくる奈緒の後ろにさらにもう一人分の背が高い影が見えた。
「よう、煌」
「父さん!」
それは煌の父親でありプロゲーマーでもある勝だった。
「もう帰ってきてたんだ」
「おう、ついさっき帰ってきたぞ」
「早速三人で遊ぼうよ」
二人の会話に割って入るようにして、話に入ってきた奈緒は煌と勝の手を引いて構って構ってと気を引く。
「そうは言うけど三人で遊べるものってなんかあったっけ」
母親はゲームと名の付くものが不得意で、普段家にいる煌と奈緒の二人で遊べるようなトランプとボードゲームが少しあるぐらいだ。
「ババ抜き!」
いつの間にか煌の後ろに回ってパソコンが乗っている机の引き出しからトランプを取り出した奈緒がそういった。
「よし、煌もそれでいいだろ?」
「うん」
異論のない煌は勝の言葉に異論をはさむこともなく頷いた。
「それじゃあトランプ配るぞ」
勝は箱から取り出しシャッフルしたトランプを配り始め、三人はババ抜きをして遊び始んだ。
――――三人がトランプで数十分遊ぶと「喉乾いたー」と奈緒が言い出し、冷蔵庫のある一階へと降りて行った。
「最近調子はどうだ」
奈緒がいなくなった隙をついて勝は煌にゲーム内での調子はどうか、と尋ねた。そこで、煌は今運営からの招待がきた大会に出場しており初戦は無事勝ち上がったと報告をする。
「そうか、流石は俺の息子だな」
「ああそれと、父さんに聞いときたいことがあるんだけど」
「なんだ?」
「元プロのニンフってスナイパー知ってる?」
「髪が紫色のミニヘカート使ってるプレイヤーか?」
特に考え込むでもなくすらすらとニンフの特徴を述べた。
「うん、そう」
「知ってるぞ。大会で当たって苦戦させられたからな。すごい上手だったけどあの後プロゲーマー引退しちまったんだよな……」
「……そうなんだ? 本人は手も足もでなかったって言ってたけど」
ニンフ本人から聞いていた話と違うところがあったため気になった煌は問い返す。
「……? なんだ、本人と会ったことあるのか」
「あーと、前シルフィってフレンドができたって話したよね?」
煌は以前にシルフィのことは話してたよな、と思い確認する。
「ああ、お前と仲のいいスナイパーか」
「うん、そのシルフィに教えてるのがそのニンフだったんだ」
「そういうことか。そりゃあ結構な偶然だな」
「うん。その二人も大会にでるからもしかしたら本戦であたるかもしれないんだ」
「お、予選勝ち上がるのはもう確定事項か」
息子の自信に嬉しそうにする勝。
「……まあ、自信はつけていかないとね」
特に意識した言葉ではなかったのだが無意識に予選では負けないと思っていたのだと、勝の言葉に気付かされる煌。
「お前なら予選は大丈夫だろうさ。なんたって俺が教えたんだからな」
「そういうわけで特訓してほしいんだけど」
「あー、悪いな。久々に帰ってきたのと今回はあまり長い期間家にいれないからそういうのは無しだ」
「そっか……ま、一人で何とかするよ」
勝に特訓してもらおうと思っていたのだが、そう言われてしまってはどうしようもなかった。
「ジュース美味しかったー」
二人の話もひと段落したところにタイミングよく奈緒が戻ってきた。
「よーし! それじゃあ次こそは勝つよ……と言いたいところなんだけどお母さんがご飯だって」
「「わかった」」
奈緒の言葉に煌と勝は口をそろえて返事をすると三人は一階へとそろって降りていった。