主人公は僕ではない
オチなしですが、試しに書いてみました。短いですがどうぞ。
勇者は幼馴染のアスカで、僕は付き添いの僧侶だ。
僕は目立ちたくなかった。とにかく目立つことが嫌いで、大勢の人前で話をすることが極端に嫌だった。赤くなってドキドキして、吐き気もして声が裏返って、手も震えてしまう。
ああ。絶対、変なふうに見られてるんだろうな。
そんなことを思ったらますますドキドキして、負の連鎖に陥る。だから、魔王討伐の旅ではアスカに全部任せて、僕は陰からサポートするつもりだった。でも、一つだけ問題が。
アスカは弱かった。
「キャー! た、助けて!」
村人Aの悲鳴、ではない。
スライムの中に腕を取り込まれているアスカだった。彼女の身長は僕と同じくらいで平均的だ。金色の髪を腰まで伸ばしている。胸には銀色に輝く胸当て、下はスカート。目はぱっちりしていて、可愛らしい。十六歳の可憐な少女。
「ギャー! 取り込まれる! 取り込まれるから! リオ! ちょっとあんた! 助けなさいよ!」
「い、いや……その」
僕のほうを見て、アスカは涙目だ。体長一メートルぐらいのスライムはウネウネしている。
「と、取り込まれ……。ぶふっ」
あ、ゼリー状のスライムが、彼女の口を覆った。
頑張れアスカ。ていうか、なんでスライムに苦戦してるの? もう少し、ほんと、もう少しだけ努力しようよアスカ。
彼女は白目を剝いてぐったりした。
あ、もう限界だ。しょうがないな。
「はあ……」
僕はため息をつく。辺りには誰もいない。広大な草原で、近くに町があるだけの土地だ。
スライムに近づき、グッと拳を握った。軽く突き出す。
「えい」
緑のスライムは拳の風圧でバラバラになって吹き飛んだ。見事に四散したといっていい。
アスカが倒れるのでお姫様だっこのような感じで支える。
口元に耳を近づける。息をしてなかった。
これは少しやばいな。
ベトベトの液体がついた彼女を地面に置いた。彼女の口の上に軽く手を置き、念じる。淡い光を放った。回復魔法だ。傷だけじゃなく、風属性の効果で呼吸もできるようになるヒールウインド。
「ん、んん……」
アスカが目覚めた。目をパチクリさせて、起き上がる。
「あ、あれ? 私、生きてる?」
「うん。凄い力だったよ。アスカ」
「え? どういうこと?」
「いつもの覚醒が起こって、それでバーンってスライムを吹き飛ばしたんだよ。さすがだね。凄いよアスカ。すぐに力を使い果たして眠ってしまったけど」
「え? ほ、本当? ま、まあね~。私の力があればこんなものよ」
上機嫌になる彼女は気づかない。
気づかないでいいんだけど、少しは疑ったらどうなのだろう? まあ、それが彼女の良さでもある。
うへえ。ベトベトだ。後でお風呂入らないと。