こ95……ヤンルェダンモフのお節介
参加者の一人が僕の視線の先に芋虫がいるのを見つけて駆け寄って来た。
「こいつでもいいですか?」
「使うと言っても、どいつでもと言う訳ではない。
ちなみに、そこにいるのはヤンルェダンモフだな。
モンスターではないので冒険では無視していい生き物だが、棘に毒があるので怒らせない事だ。
同種のヤンダンモフには毒棘がないし、ダンモフ種は糸を吐かない」
あ、そうなんだね。
しげしげと虫を見る。
もきもき動いて、何故か僕の作った釣竿に乗ってくつろぎ始めた。
棘が引っ込んだのでくつろいでるんだと思う。
「でもダンモフ種は食えるぞ」
誰かがボソッと言ったのが聞こえた。
僕がビクッとなったら虫もビクッと棘を突き出した。
「糸を吐くのは黄色のフューツモフ種と緑色のレンテュンモフ種、網目繭を作るナチュロファンだな」
教官は気付いていないみたいだ。
虫とはいえ精霊樹の使いで来てくれた生き物を食べられたら信用丸潰れだよ!
ここは全力で阻止だね。
僕が不用意に動かなければ虫が移動しないみたいだし、スキルで糸を作ってみよう。
使うのはさっき切り落とした小枝。
葉っぱは食べられてしまったけど枝部分は残っていたからね。
使うのは適性が高い月の【反射】。
枝と言う塊ではなく、糸状の繊維をイメージする。
固まることを拒絶させて糸の姿があるべき姿だと意識を集中する。
「……ああ~」
集中してからスキルを発動。
手の中には糸の束が出来てた。
でも失敗。枝と同じ長さの短い糸の束だった。
でもキレイな糸だったので鞄に仕舞っておく。
材料が精霊樹だしもったいないよね。
よし、今度は枝が一本の糸になるイメージで行ってみよう。
集中……発動!
「おお!」
手の中から糸が零れ落ちた。
長いからだね。成功だ!
糸はリール代わりの棒に巻く。
今度は土の【変化】でやってみようかな。
イメージはさっきと同じで一本の糸になるようにして発動。
――――――――――---‐765字・やっぱり一度は失敗する森谷君。
【反射】だとシャキンって切れるような反応だったけど、変化は粘土細工みたいだ。
パスタマシーンに入れた生地のようににゅるにゅると細くなる。
スキルの発動を止めなければ太さの強弱は出来そう。
細工物を作った経験が修練にちゃんとなっていて嬉しいね。
ヴァクツミットの親父さんに追いつけ!だよ。
結果。
釣り糸ほどの細さにはなりませんでした。
残念!
その後虫取りも見学。
教官の見つけて来た芋虫達が見本で見せられ、糸取りを開始。
むにっと握られて、糸を吐きだしていた。
見ていたら僕もやってみろと芋虫を渡された。
どうしようか。
手にしたまま悩んでいると、竿にいたヤンルェダンモフが僕の手の上の芋虫の上に飛び降りた。
あ、痛そう。
でも人に握られるよりは平気だったみたいだね。糸出してない。
もきもき
ヤンルェダンモフは芋虫に咥えていた葉っぱを差し出した。
芋虫はしっぽを振って喜んで葉っぱを食べ、僕が持っていた糸巻き用の棒に向かって自分から糸を吐きだし始めた。
僕は慌てて糸を巻き取っていく。
「え?ええ?」
棒が真っ白になるまで糸を出してくれた。
もきもき
いつの間にか居なくなっていたヤンルェダンモフが小枝を持って僕の腰に登ってきていた。
その棒に向かって芋虫が糸を吐き始める。
ヤンルェダンモフが前にある六本の足で棒をくるくる回していく。
意外と器用だね。
ていうか何やってんの?
糸を出し終わると芋虫はシュパッと頭上の木の枝に向けて糸を飛ばすともきもきと昇って帰って行った。
僕の手の中には糸の巻かれた棒が二本。
何なんだと思いつつ触ってみて驚いた。
一つはふわふわ。一つはべたべたする。
「これは二本取りにしろって事?」
もきもき
ヤンルェダンモフは何も言わず竿の上に戻った。
まずやってみよう。
糸を巻いた棒を地面に突き立てて、バイトでやらせてもらった糸紡ぎを実践してみる。
風呂敷サイズの布をを用意して広げ、綯った物を布の上に落としていく。
綯った糸は捻じれるからね。
――――――――――---‐804字・「さあ精霊樹の葉を食べるのです!」「パワーが漲ります!」
●(幼)赤刺蛾=(幼)赤+棘+モフ=ヤンルェダンモフ
=学名プリックスレピア・セースィア。棘無形態は苦瓜虫と呼ばれます。
●実蛾=果実+モフ
繭が黄色く、使う前の線香花火の先っぽのような形をしています。
●薄手火蛾=提灯+モフ
繭が緑色で提灯のような形をしています。
●天然蚕(楠蚕)=ナチュロファン=楠+蚕
量は少ないようですが絹を取ることもできます。幼虫の色はブラックオパールのようです。
(光ってはいません色的にです)




