ど94……のけぞるオナモミ(仮) ☆★彡木
「うわっ!」
僕が思わず小さくつぶやくと、枝の先の虫がこちらを仰向けに振り向いて前足をもきもきと動かして見せた。
え!?
もしかして、言葉を理解してる?
「精霊樹様の?」
確認の為に口に出してみると、虫が体全部を使って頷いたよ。
驚きだ!
「うわ~」
口に出しちゃったのは許してほしいです。
周りではすでに参加者達が枝を払い始めていたので、僕は虫を信用して動いていた(今は止まってる)木の前に行ってみる。
「初めまして?」
目に前の木は僕の言葉に反応して枝を一本だけ動かした。
一人で精霊樹に対峙しているこの状況はかなり緊張する。
「釣り竿を作るのに枝を分けて……いただけるのでしょうか?」
虫を先に付けた棒を持っての会話は何かマヌケ。
声に反応して振られた枝に向かって棒の上の虫が勢いをつけて飛びついた!
「わっ!」
踏み台になった棒はそんなに力を入れて持っていなかったから、取り落としちゃったよ。
下を向いていると、上から枝葉で叩かれた。
「え!?」
僕の頭の上に切り落とされた枝が乗っていて、その枝の上で虫がふんぞり返っていた。
この虫が枝を切り落としたの?
「あ、ありがとうございました!
あ、お礼……」
僕は影室の中を探る。
木が喜びそうなもの……これかな?
僕の個人的な解釈で木が欲しい物となるとこれしか思い浮かばなかっただけだけど。
鞄から出したのは水筒。中身は聖水の材料になる湧水。
水筒のふたを開けて木を見上げる。
「この水筒の水は聖水の材料になるこの国の湧水だそうです。
貰っていただけますか?」
僕の声が終わるのが早いか水筒の中の水が紐のように伸びて空中に抜け出して来た。
もちろん持っている水筒から水の重みが消えている。
水の紐は木の周りをぐるりと囲うと弾けて地面に降り注いだ。
どうやら貰ってもらえたみたいだ。
――――――――――---‐739字・木へのお礼は美味しい水
「お世話になりました」
僕が枝を持ってその場を離れたけど虫は枝から離れなかった。
釣り竿作りの教官のいるとこに戻っていらない枝葉を払っていると、落とした葉を喜んで食べていた。
目的はそっちか!と思ったが放って置いた。
精霊樹の葉っぱはこの虫には美味しいのかもしれないしね。
「皆竿を作り終えたな。次は糸だ。糸は植物からとる場合と虫から採る場合がある」
僕がバイトで教わったのはセロファンの糸で作る方法だね。
植物からって……まさか!
「植物から採る方法はスキルを使う。
使うのは水属性の低難易度の【吸着】、土属性の低難易度の【変化】
または高難易度の【創造】、木属性の高難易度の【吸収】、月属性低難易度の【反射】だ」
やっぱり糸化木じゃないですか!ヤダ!
あれって高難易度なんだね。
でも教官の言い方だと魔法でなくスキルで作るみたいだ。
「それぞれ得意な属性があるだろう。どれかにこだわる必要はない。
それぞれ手元に手繰り寄せる際に糸の形状を意識してスキルを使う事」
なるほど。
形状を意識するんだね。
でも月は【反射】だから木の繊維から釣り糸を作るっぽくないんじゃ……。
まあ、やってみようか。
「この中には今挙げた属性が苦手と言う者もいるだろう。スキルで作れないとかもある。
その場合は虫からの糸の採集になる。
説明するぞ」
教官によると芋虫を捕まえて強制的に糸を吐かせて縄のように綯って釣り糸にするらしい。
芋虫にしたら拷問だね。
そう思わないか? とつい足元で葉っぱを食べている虫を見る。
今は赤い棘が引っ込んでいて半透明だけどタダの芋虫に見えるね。
参加者の一人が僕の視線の先に芋虫がいるのを見つけて駆け寄って来た。
「こいつでもいいですか?」
「あ」
しかも素手でつかもうとしたので止めようとしたけど、その前に虫の方が危険を感じて棘を突き出した。
そうだよね。野生生物の危機察知能力は高い。
参加者は驚いて手を引っ込めた。
――――――――――---‐793字・木のスキル低【阻害】中【促進】です。糸化木の話は15話です。
オナモミ虫の名前は次回明らかになります。
想像していてください。




