彡86……漢字の持つ包容力
見せられた平たい石には、一辺の真ん中あたりで四角の中心よりはかなり外れた位置に木づちの柄と同じ大きさの穴が開いていた。
位置的には良いと思う。
ここまできてやっと見本を作ってくれているんだとわかった。
やっぱり口頭より形があるとわかりやすいもんね。
「はい。向かい側にもお願いします」
「ああ、穴を作る時にヒビが入らないように気を付けるな」
そう言って手際よく二つ目の穴を開けて見せてくれる。
僕が納得して頷くと、粘土を手に乗せて上からも手を被せて目を閉じた。
「……」
何か集中してるみたい?
ほんの十秒ほどして親父さんは手の中の粘土を僕に差し出してきた。
「出来たぞ、ほら」
僕の手の平に乗ったそれは、穴が二つ開いた小さな金属板だった。
え?
さっき粘土みたいにコネてたよね?
「それは【変化】で柔らかくしたまでだ」
「でも月の範疇の石類は土に入らないんじゃ……?」
「そりゃあ、修練の賜物さ。
熟練者になると俺のように鉱石や岩石も【変化】させられる。
使うやつによっては料理に使う奴もいるな」
物によって属性の干渉があるから【変化】は状態を変えるだけかと思ったら、上級者は他属性物質でも物理的な変化も可能だったのか!
スキルの奥が深い!
「う、飴細工とか凄い物が出来そうですね」
「まあ、熟練者だけの力だからな。一個小貨五枚だ」
「え?」
「強度は保証しない。それでいいなら買ってけ」
一枚500円相当。元削りクズなのに意外と高いよ。
でもきちんと混ぜて練った金属なら意外と丈夫そうだし、上級者の作品とわかればもっと高くなる可能性もあるかな?
これでも今即席で作ることで料金をオマケしてくれているのかもしれない。
どう取るべきか難しいね。
「これを雑貨屋で買ったらいくらになりますか?」
わからないなら聞けばいい。
――――――――――---‐742字・スキルは一応の名前がついているけど、その漢字の持てる範囲を使う者が考えるべき世界です。
「混ざりもんでも厚みを持たせたからな、小判貨一枚は取るな」
倍の金額を付けられました!
つまり小貨五枚は卸値って事ですね。ありがとうございます!
「五枚作ってください。一枚小貨五枚で買います!」
「おう」
親父さんは僕の目の前で惜しげもなくスキルを使ってくれる。
見せても素人の僕がマネ出来るはずないってわかってやってるんだろうね。
でも細かい作業が苦じゃない僕としては良い見本でした。
ありがとうございます!
「彫り終ったら判定石を使わせてもらってもいいですか?」
「ああ、ちゃんと店内で使う分には構わないぞ」
「じゃあ、その時はお願いします」
お金を支払い金属板を買い取って、雑貨屋で彫刻刀を買って、宿で早速彫って見る事にしたよ。
もちろん彫刻刀に込めるのは月の【反射】。
キレイに切りたいと考えながら刃を当てると、思った以上に上手くいって嬉しい。
スキル付けると上方修正されるのかな?
【反射】は彫刻刀と石が触れるのを拒絶する効果も出しているかもしれない。
おかげで良いお守りが作れそうだね。
そうしてソニカさん達が出発する日が近付く中、僕は適性のおかげか無事にお守りを四つ作り上げたよ。
自分の分、ソニカさんとジグさんの分。そして団長さんの分だ。
団長さんが元気だと何だか皆が元気でいられそうな気がしたから。
模様は団長さんとジグさんがシダの新芽のような渦巻模様。
僕とソニカさんのは見ようによっては花弁が重なった薔薇みたいに見える模様だよ。
「何だと!」
ヴァクツミットの親父さんに見せたら、『外因性状態異常軽減』が付いてると驚かれた。
確認したら四つとも付いててホッとしたね。
せっかく作って何もついてなかったら悲しいじゃないか……そういう事もあるぞと親父さんは言ってたけど。
その石に三つ編みした革ひもを穴に通して紐の端は房飾りにするよ。
これでお守り根付・判定石によるとエミュラの完成。17cm程の長さになりました。
――――――――――---‐793字・鍵の無い世界でキーホルダーと言う名前は違和感があり根付になりました。
イラスト付けるのに遅くなってスミマセンでした。




