★85……次の工作は石の彫刻
その日のうちに市場でトトファンとハーブの茶葉を買って宿に帰った僕は、少し食べて落ち着いてから、使おうと考えていた使い方で完成した魔法を試していた。
「あ~気持ちいい~」
そう言った僕の頭を水で出来たヘルメットが覆っていた。
両手はそのヘルメットの奥の頭をワシャワシャしている。
そう、頭を洗っているんだ。
何をやってるんだって思うかもしれないけど、身体を部分的に洗えるのってすごい便利だよ?
欲しかったんだからいいじゃないか!
背中はともかく他は、部屋を汚すこともなく最小限の水で身を清められる。
石鹸水で洗って、水を変えてすすぐことも可能!
我ながらいい魔法を見つけたよ。
適性の燃費が少し不安だけど、最小限なら使えるしね。
サッパリしたらハーブ茶で水分補給。
(実は攻撃で敵にぶつければ溺死させることが出来るとは全く気付いていない)
(まあ適正・低では【液化】無いので戦闘時の即時構築は難しいだろうけど)
木工もひと区切り。欲しかった魔法も無事取得。
急いで沢山魔法を覚えようとは思ってないからね。
まずはスキルの方を柔軟に使えるようになりたい。
それでと言う訳ではないけど、今度は金属を削ってみようかと思う。
僕の持っている土のナイフは石の切り出しがしやすいと言われたけど、石はどちらかと言われると『月』の属性に当たる。
そう考えて使うスキルは『月』の【反射】にしてみようかな?
上手くいったらソニカさん達にお守りにしてプレゼントできるかもしれない。
模様はヴラートを作った時と同じに……いいや石だからもっと大変かもだし、もう少しディフォルメする感じで粗くしてみよう。
「と言う訳で、彫りものが出来る金属板はないですか?」
僕は仕事帰りに鍛冶工房ヴァクツミットを訪ねていた。
親父さんが苦笑い。
――――――――――---‐726字・やっと出来た魔法は私的なクリーン魔法。
「ここは武器屋なんだが?」
「雑貨屋では金属の加工を受ける方ですよ? 材料だけなんて売ってもらえないと思いました」
「ここもそうだって!」
「でも鉱石を板状にする技術はやっぱり鍛冶屋さんじゃないと!」
「そ、それはそうだな」
「余った端切れの合金でもいいんですよ。僕的には初めての試みなので」
「そうなのか。合わせ方では脆くなるかもしれんが?」
「構いません。その代わり価格を勉強してもらえると助かります」
「その言い回しは店側が言うもんだろ」
話していておやじさんが口元だけで笑っていた。
「どのくらいの量が必要なんだ?」
「とりあえず手の平の半分くらいの大きさのを五つ欲しいです」
「わずかなもんだな。彫り物にするなら厚みがいるな。あと希望はあるか?」
「ん~形は四角で、出来たら向かい合う二辺に親指の爪位の穴を開けてほしいです」
「うむ、素人に穴開けは難しいかもな」
そう言いつつカウンターにある書類の束をめくり出す親父さん。
チラリとその手元を見ると『オロスロット(受注票)』と書かれていた。
「?」
「この注文なら削りクズも出るな。少し待ってろ」
「はい?」
奥に言った親父さんは少しして陶器の器を抱えて戻って来た。
器の中身は鉋で削ったような螺旋状や端をカットして出たらしい短い金属くずだった。
何だろうと見ていると、親父さんが器の上に手の平をかざした。
すると金属くずは一瞬で粉になった!
それを指でよく混ぜると、また手の平をかざして、今度は中身が粘土状になった。
親父さんはそれを少し手の平に取って適当に力を加えて平たくし、円形だったのでつぶして四角にして見せた。
「大きさと厚みはこんなもんか?」
「は、はい!」
厚みのある四角い黒粘土に僕は頷く。
確認した親父さんは粘土をカウンターテーブルの上に置いて、カウンター横にあった小さな木づちの柄の先を粘土に突き刺す。
「穴はこんなもんでいいか?」
一辺の真ん中あたりで四角の中心よりはかなり外れた位置に、木づちの柄と同じ大きさの穴が開いていた。
――――――――――---‐828字・鍛冶屋の親父さんのスキルを目の前で拝見!




