か83……魔法は一日四回まで!
「まずはこれをお食べなさい」
目の前のテーブルの上に出されたのは、粒粒の入った白い固形物の輪切りだった。
首を傾げつつ手に取って失礼ながら臭いを嗅いでみる。
チーズの臭いだった。
「チーズですか?」
「こちらもどうぞ?」
さらにテントに入って来たソニカさんが良い香りの紅茶を持って来てくれた。
「精神を和らげる効果のある食べ物と飲み物です。どうぞ遠慮せず」
団長に勧められて食べて見たら、チーズの濃厚な味に乗って胡麻の香りが口の中に広がった。
胡麻?
「それはトトファン。 お茶はルバープとエーネスのミックスよ」
「二つを一緒に取ると星の力の回復を促すのです」
その言葉がよくわからず首を傾げていると、団長さんに困った顔をされた。
話を聞くと、この脱力感は星の力が極端に少なくなった時に起こる症状で、回復薬か回復を促す食べ物を食べる事で対応するそう。
「使い果たすと気絶するはず……したことなかった?」
ソニカさんに言われて苦笑するしかなかった。
経験したことなかったから、そのための調べが不十分で興が乗ったからってやり過ぎたって事だね。
返す言葉もない。
「モリヤ君って水の適性弱いのよね?
そしたら魔法やスキルを使った時の星の消費量が適正ある属性より多くかかっていたはずよ?」
うわっそんなとこでも調査不足!
僕は俯くしかなかった。
それなら水魔法は一日の限度があるのかな?
まあ僕が望んでいる魔法は一日一回使えればいいものだし……何とか……ね。
完成はさせたい!
顔を上げた僕を見て呆れられた。
「こりてないみたいね? 何を目的にそこまでやるの?」
「ごく個人的な事です」
そんな他人に宣言するような大きな理由じゃないから拒否しとく。
すぐ回復するものではないらしく、宿まではジグさんに送ってもらった。
担がれて。
具合が悪いんだから抱えて行ってもらったら?とソニカさんに言われたけど、体格差があるとはいえ男に横抱きにされて街中を歩くのは恥ずかしいです!
荷物のように担がれた方がマシですってば!
――――――――――---‐821字・おんぶも嫌です。
宿に戻ってベッドまで運んでもらってお礼を言うとジグさんが首を振った。
「お礼ならお前のペットに言え」
「え?」
「お前がパニックになったのがわかったのか、サーカスのテントにいる俺のとこ探して飛びついて大騒ぎだったぞ」
「え?」
そういえばいつも連れて歩いていたけど、オピの事はパニックになったとこから気にしていなかった!
でも今はいつの間にかベッドの枕元に座っている。
「こっちは心配したソニカから、今日の晩飯用意してないだろうからって」
渡された麻袋の中身は油紙に包まれたサンドイッチと水筒。
こっちもありがたい。
「ありがとうな。ソニカさんにもお礼を言っておいてください」
言いながらオピの頭を撫で、ジグさんに言伝を頼む。
無言でうなずいたジグさんが出ていくと、僕は大きく息をついた。
失敗した!
しかも他の人に迷惑をかけてしまった!
ベッドに倒れこんだ僕の傍にオピが寄ってくる。
「オピ~お前本当によくそんな機転が利いたな~」
会話ができるわけじゃないからただ見つめてくるだけだけど、心配してくれたという事は事実だ。
僕は身体を起こしてオピに頭を下げた。
「心配してくれてありがとう。こんな僕だけどこれからもよろしくね」
「キュイ!」
オピは元気に一声鳴いて頷いた。
「今回の体験で水魔法四回で星の力が尽きるのがわかったから、他の適性の高い魔法なら四回は余裕って事だよ。発見だね!
でも四字魔法はさらに力を多く使うかもしれないから慎重に一日二回にしとこうか」
僕が言うをオピは無言で見上げてきた。
なんか口が半開きなんだけど、どうかした?
その目が何故かさっきテントで見たソニカさんと同じ気がした。なんでだろ?
「今日は早めに休んで明日に備えよう。休みだし図書館で漢字を調べるからね?」
そう伝えるとオピはすぐ離れて枕もとの定位置で丸まってしまった。
行動が早い。
僕も見習おう。
「おやすみ~」
隣でため息が聞こえた気がした。
――――――――――---‐804字・影ながらオピのファインプレー(作者も予想外・(笑))
トトファン=トリプトファン。
ルバープ=バルプロ酸。
エーネス=アニス(ハーブ)。
から名前をいただきました。
ちゃんと効果を調べた結果の名前です。
※現存するルバープと言う植物はフキのように煮物で食べるらしいです。(今回は無関係)




