|59……ケバービーに遭遇
「退屈ではなかったけど、中々気の抜けない旅だった」
「キュイ?」
桶の前に座り込んだ僕の隣でテールラビットが首をかしげた。
クス、やっぱり可愛いより面白いしぐさに見える。
今まで一つの町で生活してたから、こんな苦労を誰かしらしていたのも知らなかった。
井の中の蛙ってやつだね。
でもいいよ。
その井戸から出て見る事にしたんだから。
「仲間もできたしね」
テールラビットを撫でる。
毎日焼き石を与えていたからか毛並みがすべすべになっている。
若干波打っている様子は炎の揺らめきみたいだ。
自分の事を仲間と言われたのを理解したのか、ふんぞり返って見せた。
そんなテールラビットを横目に、僕は思いついたスキルを使ってみる事にした。
スキルは鍛錬で難易度が上がるのは経験済み。
使うのは難易度中の【風】。
空気を止めるというもので、難易度低は思うように動かす事なので中はかなり難しくなる。
リィシフルさんが使ってた【風海】って結界スキルはこの空気を停止させるスキルを技として確立させたものになる。と教本に書いてあった。
熟練度が上がると範囲や強度に違いが出て来るらしい。
空気は見えないので、ここで工夫する。
手の平で水をすくい空気を止めるのを手に意識して、そっと手を放す。
ほとんどの水は桶に流れ落ちたけど、五百円玉くらい大きさの水の塊が目の前に残った。
やった!と思ったら落ちた。
……まだまだ先は長そうだね。
僕の理想はボーリング玉位の大きさで、せめて三十分くらいは持続させたい。
魔法とスキルの違いは「その場に発生する」か「干渉する」かの違いらしい。
現在の僕は【月】【風】【音】【土】の難易度低スキルは何とか使える。
他の【火】【水】【木】はほぼ皆無。
なので風で水の代用を考えているんだ。
――――――――――---‐718字・ウォーターボールへの道は険しそうです
何に使うかは出来てからのお楽しみ。
「今日は町を歩いて食事処を見つけよう」
再び着込んで肩掛けかばんだけ身に着けて街に繰り出す。
でも別に露店でもいいかもしれないと思うようになった。
露店が広がる広場で凄いものを見つけた!
呼び込みの声によるとケバービーと言うらしい。
でっかい生ハムを削ぎ落としてナンみたいなパンにはさむサンドイッチらしい。
驚いたのは巨大な魚のたたきのケバービーがあったことだよ!
サイズはでっかい本マグロぐらいあった。
「これ、良い塩味!」
「キュキュ~!」
手持ちの石皿にたたきと付け合わせの野菜を乗せてやると、テールラビットも耳を上下させて喜びを表現させながらがっついていたね。
あの魚肉の塊にどうやって塩味を均等につけるのか……気になったので店の店員に聞くと、なんと!味付けは刃物の方に秘密があるらしい。
それしか教えてもらえなかったけど、面白い情報だったね。
「刃物の方から塩が吹き出るのか……なんて錆びやすい仕様なんだろう」
具を外してしまったナンは、ちぎって皿でミルクを浸してちゃんと食べている。
ミルクの半分は僕のだ。
「パンにはやっぱり牛乳だよね。これが牛乳かは知らないけど」
ついテールラビット相手に呟いているから、人相手の口調とは違っているけど、口調は相手に合わせるもんだし気にはしない。
とにかくこのケバービーは決めかな。
あとは店のようなとこをチェック出来るといいな。
ああ!こいつとの契約も確定しておかないと!
すぐ隣で皿を舐めているテールラビットを見る。
町で登録って言ってたけど、どこでやるのか聞き忘れていたのにやっと気付いた。
困ったときのアドバイザーさん。
よろしくお願いします。
「それでしたら役所で可能です。受付は『ビギナー』でお願いします」
――――――――――---‐729字・魚のケバービーがホントにあるかは不明




