彡56……かゆいは痛いの下位互換
「はい。出来たよ」
手当てした子を布の下に押し入れて少し様子を見る。
次第に布の中が静かになってきたね。落ち着いたみたいだ。
もう被せていた布を外しても大丈夫かな。
そうっと持ち上げると、包帯の子を囲んで固まっているね。
止血のためにきつめに包帯を巻いたから様子見は必要かもしれないけど、今はこれでいいかな。
柵から出て一つ溜息をつく。
そして、まじまじと両腕を見てみる。
うわ~かなり遠慮なくやってくれたみたいだね。
噛み跡、ひっかき傷、蹴られてできた内出血……
無邪気な子猫にやられたと思って諦めるしかないね。
まあ、遊ぼうとしてとがった爪で思いっきりひっかかれたのとは違うと言えば違うけど。
自分で納得してやったんだから仕方ないね。薬が切れる前に洗うかな。
手桶に水を用意して傷口を洗っていく。
見ずらいところにも傷がないかリィシフルさんに見てもらう。
清め終わったら出来るだけ切り傷は塞いだ状態にして包帯を巻いていく。
口を開けて置いてかさぶたを作るより治りが早いはずだ。
傷をすべて覆うように巻いていったら、両腕がミイラ状態になった。
重症に見えるぞ。とキリトピオルさんに笑われてしまった。
う~ん。
中二病な印でも隠しているみたいだね。(苦笑)
その様子見てリィシフルさんが声をかけてくれた。
「回復促進の魔法があるけど、かけてみます? 効き目は個人差があるのと副作用がある事が難点ですが」
「副作用って?」
「かけると酷いかゆみに襲われます。でもそれが治まるとほぼ完治です」
「個人差の方は?」
「時間の違いですね。治りの遅い方は長い時間我慢することに……」
「それは嫌ですね。表面の傷だけ塞ぐのはあります?」
「ありますけど、運動すると開く場合があるとか……」
治療の魔法はなかなか思い通りに行かないものみたいだね。
でも傷があるよりかは良いかと、傷を塞ぐ魔法をお願いした。
――――――――――---‐764字・魔法かけてもしばらくは包帯は取れません。(安静)
「この魔法は木属性の魔法で低ランクの上位くらいの魔法です。私なら難なく使えます」
それはありがたいです。
あ、傷を塞ぐ形に固定しているので包帯は付けたままが良いそうです。
「……伸隠木」
リィシフルさんが呪文を唱えると、両手が緑色に光っている。
イフェリオちゃんが魔法を使う時もこの色に光っていたなぁとちょっと思い出した。
その両手で肩口から包むようにして指先まで流していく。
片腕が終わって指先の切り傷が消えていて、魔法とわかっていても驚いた。
もう片腕も続けてやってもらう。
終わるとリィシフルさんが大きく息を吐いた。
気になってどうしたのか聞くと、回復や促進の魔法は呼吸を出来るだけ少なくすると効果が高くなるんだと話してくれた。
「そうだったんですね。ありがとうございます」
僕が勝手にケガして、一方的にお願いしたのにありがとうございます。
何かお返しでも出来ればいいんだけど、何も思い浮かばない。
「それならいつか合奏でもしましょう」
「えっ?」
「音属性高めだと楽器は上手く弾けると思いますよ」
「はあ……」
Yesとは言いずらいな。
運搬の仕事なら頑張れるんだけど……あ、ケガの後もちゃんと仕事したよ。
今いる辺は高地に当たるらしく農業より畜産らしい。
そんな中、野生の羊の群れの横断に遭遇した。
逃げ出して野生化したのが増えてるらしい。
増えすぎると害獣扱いになるけど捕まえて毛を集めるとお金になるとかで、通常は野放しらしい。
今回も護衛と商人達総出で刈り集めてた。
丸裸にされて放り出された羊達よ。頑張って毛を増やせよ!
僕は毛を運ぶ係を一生懸命やるよ!
売る前に洗うとかで、そっちに駆り出されたけど。(苦笑)
それから僕がしてた事?
運搬とテールラビットの餌付けくらいかなぁ。
何とか石を焼く魔法、一人でも様になってきたんだよ。
商品の名前を覚えるのもまだまだ継続中。
――――――――――---‐766字・実は何匹か羊も狩られていたりする(人間は欲望に弱い生き物です)
●魔法解説・伸隠木
今話では皮膚の傷を塞ぐために使用。間違ってはいません。
でも本来の使用法は植物の接ぎ木です。
皮を『伸』ばして傷を『隠』す為の『木』魔法です。
・難易度・低+




