★55……傀儡師にはなりたくない
手当てを人が行ったことがわからないと人への恐怖心は消えないと思うし。
それを傍で見ていた他の子は、撃たれて仲間が倒れるのを間近に見る事にもなって怖がらせることになるし、やっぱり逆効果だね。
僕だって、もしうるさいからと口にワサビ放り込む人いたら相手を苦手になると思うし。
だよね?
……考えて、僕自身の痛覚を下げる方法がないかリィシフルさんの方を見る。
「アイハーブの果汁を濃縮したオピヨンクリームがありますね」
アイハーブの花が終わった後に残る青い実を絞ると乳白色の果汁が取れるとか。
その花は花粉が黒い白い花で、細い茎の先に花をつけるそうだ。真上から見ると花が目玉に見えるらしい。
『アイ』ってのは『目』って事だったのか。
早速ビスコースさんにオピヨンクリームがあるかどうか聞いてみる。
「売り物で良ければありますよ」
売る気満々ですね。
買いますけど。
かまれたり爪立てられそうな両腕にクリームをまんべんなく塗っていく。
他の部分も蹴られたりするかもしれないけど、全身は無理。
「面白い事を考えますね。治療院用の痛み止めなのですが」
ビスコースさんが興味深そうに見て来た。
そうかな?
塗った所がかゆみ止めを塗った時みたいにスースーする。
次第に皮膚がむくんだ様に鈍くなっていく。
「大きな切り傷の手術に使う麻酔薬だからね。一時的なものだよ」
「じゃなければ僕が困ります」
指先は麻痺らないように薬を拭き取り少し置く。
全体的に効いてきたね。
脅かさないように柵の中に入っていく。
「キィ!」
「キィ!」
「キィ!」
「キィ!」
ザザザザザザッ
皆一斉に僕から距離を取る。
ああ~こんな行動取られると寂しい。
ここで説明しておくけど音属性のスキル【傀儡】は強制と任意の二種類があるらしい。
強制は無機物にも有効な方法で、生き物で成功するとまさに操り人形にする。
任意は生き物のみで使える方法で、仲良くなるって方法。
今回僕がテールラビットに使った方法だね。
――――――――――---‐812字・獣使いと傀儡師は表裏一体
僕は性格的に傀儡師にはなれそうもない。
動物は自然なしぐさが可愛いんじゃないか。人形化反対!
でも、噛まれるのが好きとかそんなんじゃない。
決してない。
現在伸ばした両腕にガシガシ噛み跡を付けられていたとしても!
さっきまで懸命に逃げていたのに目的の子を確保しようとした途端に両腕に喰い付かれ、蹴りをお見舞いされた。
やはり仲間意識はかなり強いみたいだね。でも効かないよ。
それでも傷が出来ないわけではなく、かなりのケガになりそう……。
さっさと済ませよう。
寄ってくる子達を腕で押さえて一か所に集めて上から布を被せる。
ジャンプされると厄介だから動きを止めさせてもらう。
ホントは全部の子の頭を撫でたいところだけど、仕方ない。
布の手前側を片腕で押さえて右手を目的のケガをした子に伸ばす。
「キ……」
後ろ足にケガをしているようで飛び跳ねずズルズルと遠ざかろうとしていたので、上からぼふっと手を乗せて撫でていく。
「大丈夫だよ~ちょっとケガを見せてね~」
撫でた手を離さず、そのまま鷲づかみして引き寄せる。
身体をよじって逃げようとするがケガをしている後ろ足の先をつかまれると痛みにビクンとして動きを止めた。
僕の傍らでは布がモゾモゾと蠢いているので急いだ方がよさそうだ。
毛並みをかき分けて見つけた傷は抉られたようなものだった。
舐めていたけど、まだ血が止まっていないみたいだ。
持っていたオピヨンクリームを傷口に縫ってガーゼと油を染み込ませた紙を当て、舐めないように包帯を巻く。
今のところは他に出来る事はなさそうだから圧迫止血に留めて置くね。
――――――――――---‐762字・でも血が止まったら外す事!
オピヨン=ケシ(アヘン)
この呼び名は実際の薬用品にも使われてる呼び方です。
スースーするのかは知らないです。




