す37……バイト辞めさせてください!
「……もし興味があってキャラバンに同行するなら紹介できるが、どうする?」
なるほど~と話を聞いていた僕にキリトピオルさんが肝試しに誘うように問いかけてくる。
そんなに行きたそうに見えたのかな? そんなつもりはなかったんだけど。
「プリークレットに付いて行けば他にも新しいものが見られるかと。もし気が向かなければ別方向に向かってもいいですよ。旅人なんですし」
「行く気があるなら準備は手伝うぞ」
「え……と、あの……」
「何事もチャレンジですよ」
「ジルミ国内の大きめの町までは二週間ってところだ。途中で小さな町にも寄るから日用品の補充はしやすいな」
「何だかお二人とも冒険押しですね?」
「キッカケが無いなら、なってやろうじゃないか!」
「クス……私の時も似たような感じでした」
思い出したようにリィシフルさんがキリトピオルさんの横顔を見た。
どうやらリィシフルさんはこの押しに負けて?旅に出たみたいだね。
……これもキッカケか……
なし崩し……かもしれないが、キャラバンの荷物運び要員に加えてもらえるように二人が交渉してくれた。
相手は商隊長のビスコースさんだ。
僕のポーターとしての利点を押してくれた。護衛は出来ないからね。
おかげで臨時従業員という事でジルミまで乗せてもらえることになった。
キャラバンの道程で荷物の運び込みを手伝うので食費を負担してほしい。と言う契約になった。
二人は交渉が済むとその足で僕の準備に付き合うと言って付いて来た。
まず行かないといけないのは『トランスポート』。
休暇のつもりが離職になりそうだ……スミマセン、ペリーさん。
「旅人の行動を制限する権利を俺ら根付いたもんは持ち合わせていない。
行って来るといいさ。席は残しといてやるから安心しろ!」
意外とあっさりしたものだった。
――――――――――---‐746字・きっかけは大事ですね
「旅人なんてもんは縛るもんが無いのが良い所なんだぞ! お前は若いし機会があれば見識を広めるのは良い事だ」
「そんなものですか?」
「そんなもんだ!」
ガハハと笑ったペリーさんに背中を叩かれ送り出された。
……そう言われると何だか気持ちが軽くなった気がする。遠足を前にしている気分だ。
旅はそんなに楽なはずはないんだけど、決まってしまったら心がそっちに向いてポジティブに変化している感じ。
不思議な感じだが、町に籠りたいとネガティブになるより良いと思う。
それなら、旅の道具を一揃え揃えようと僕は『クアスメイク』のドアをくぐった。
ファイさんに洗っても痛みづらい服を聞いてみる。
「それならこれかしらね」
持ってきたのは黄色っぽい枯草色の上下だった。
何でも、木から取った糸と皮から取った糸で織った布を、石から取った糸で縫い合わせて縫い目に飾り縫いを施して丈夫にしているそうだ。
……かなりの手間と労力を注ぎ込んだ作品のようだ。
しかも飾り縫いの糸色が色々で選べるようだ。流石女性の細やかさ。
機能は耐熱・耐圧・耐突だそうだ。耐圧は物理的圧力と威圧などの感情系攻撃にも有効と言う優れ物だった。素人の僕にはかなり助かる仕様だね。
防具屋にも卸している既成サイズらしく、お値段は僕でもお手頃に感じる位だった。二着購入。
あとは何か採取した時に使える布袋と革袋をたくさん。まとめて大袋に詰め込むとまるで枕のようになった。
他に毛布と防水布。背負子に乗せる大きな鞄を買って服と枕を詰める。
それからファイさんのオススメの寝袋を見せてもらった。
袖とフードが付いていてまるで掻巻。でも足元が寒くないように袋になっている。
一番のおすすめポイントだという裾部分から50㎝ほどの高さにぐるっと一周太めのリボンがベルトの様につけられていた。
何かと思ったらリボンを抜くと裾部分を着脱可能で、寝ている時の襲撃とかの際リボンを引き抜くだけで普通のローブとして脱がずに移動可能になるのだそうだ。
モンスターがいる世界だから考えられた仕様らしい。面白いね。
もちろんこの便利使用の寝袋も買い、行ってらっしゃいと見送られる。
――――――――――---‐880字・掻巻ローブはデザインがお気に入り♪
●今回登場のキャラバン商隊長のビスコース・スフさん。
ビスコースとは繊維を水のようにドロドロに溶かしてからシャワーのように押し出して冷却して作る人工繊維のドロドロの状態の名前です。
なのでジルミの担当にしました。




