で36……昆布だしと心霊スポット
「しっくりくる意味はわからないけれど……うま味と言うから、おいしくなるって事ではないかな?」
首を捻りつつリィシフルさんが出した答えに僕は頷いた。
「まあ一食分だし入れてみていいぞ。物は試しだ」
一応小瓶の中の粉を僕が舐めてみせるとキリトピオルさんが鍋を指したので、火が通って肉が浮かび始めた鍋の中に振りかける。量は適当だ。
「色とかは変わりませんね」
横から覗き込んでいたリィシフルさんが言ったので苦笑した。
魔女が毒薬作る鍋じゃないんだから一品入れただけで色が劇的に変わったりしないよ。
サフランとかなら黄色くなるけど。
あ~エンジムシの雌が飛び込んだら赤くなるかな。エンジ色ってのがあるくらいだし。
でもサボテンに寄生するって話だからそうそう無いかな。
サボテンジュース作るのに絞っていて真っ赤に変わっていったら……その瞬間を想像したら気分悪くなってきた……。やめよう。
わざと赤くするなら赤紫蘇の塩もみが一番だね。誰でも知ってる梅干しの赤だし。
おまけに言うと青紫蘇をもんでも薄い黄色にしかならない。実験したから知ってる。
思考が脱線したけど鍋の中は変わらず白い。鳥を入れてガンガン煮立たせているからね。
ゆっくりコトコトだと透明になるけど野外ではこんなもんだと思う。
混ぜて味見てダシの量を調整する。うん、ただの塩味よりは良くなったと思う。
二人にも味を見てもらう。
おそるおそる口にして、二人は首を傾げた。何と表現したらいいかわからないそうだ。
……うま味があるからと言ってもそれが美味しいと感じるかは個人差があるみたい。
これは僕の個人的な楽しみにした方が良さそう。
「(実験してしまって)すみません」
「マズくなったわけじゃないし、気にするなって」
「きっと、この味に合う料理があるのだと思いますよ」
二人はそう言ってスープを完食してくれた。僕は美味しかった。
――――――――――---‐769字・サボテンジュースの想像が怖い!!
食事が終わり薪が炭の様に内側に熱を持つだけになったところで、キリトピオルさんが棒を使って薪の下から赤い呼玉を引っ張り出した。
まだ色は赤い。
「火魔法はさっき使った種火魔法くらいしか成功しないから一度で使い切る事はほぼないな。しかも成功率がかなり低い。俺だから種火は100%だがな」
キリトピオルさんがニッと笑った。
僕は火属性・低なので無理かな……でも普段使い用に低属性用の呼玉は常備しておいた方がいいと勧められた。
「青はアバから、赤は草食系から、緑は無機物……ゴーレムかなぁ?」
「狩るのが難しければ、市で買うのも手ですよ」
二人に聞こえるかなくらいの小声でぶつぶつ言って顔をしかめていると、リィシフルさんが心配そうな顔をして声をかけてきた。
あ、そうだよね。余計に手に入れたら売る人もいるよね。
初討伐記念だとターマゲットの呼玉をもらえたので、後は緑かな。
今日は町に戻り今度は市場に繰り出す事にする。
このひと月住んだので町の中はある程度把握しているから、市場の場所もわかっている。
でも買う物はほぼ日用品ばかりになっていて、呼玉は使えない属性の分は買うつもりもなかったからなぁ。
「ジルミ行きのキャラバンに乗るなら必ず【精霊の鈴】は買って置いてくださいね」
リィシフルさんによると途中にある峠の悪意除けのアイテムらしい。
「……心霊スポットですか?」
「幽霊ではないです。人嫌いの精霊が集まっている場所なんですよ」
人嫌いの精霊……そんなのもいるんだね。
僕の持っている土属性のナイフも呼玉(精霊)付だから……ちょっと悲しいかな。
僕がナイフの鞘を撫でているとリィシフルさんが微笑んだ。
「呼玉を内包する生き物は普通はモンスターになりますが、そんな中でおとなしく道具に加工された者は確かに精霊化する確率が高いですね。呼玉を持った木を使った家は結界を張ったり出来るそうですよ」
――――――――――---‐773字・ナイフの呼玉は擬人化されません
紫蘇もみの話は実話です。




