20……商売人と値切り客
でも……これは厚みがありすぎて背負子には重すぎるかもしれない。
ちゃんと図面にも厚さの希望も書いておいたはずなんだけど……。
「あの……これは……」
「厚過ぎだってんだろ?わかってるよ。見てな」
マテバシーさんは腰に下げていた道具から平ノミとトンカチを取り出した。
木こりだから円柱状の金づちを使いそうだが、彼の愛用は四角柱状のトンカチらしい。
あぐらをかくように座り、その両足の底で板を立てた状態で抑えると、側面にノミを垂直に立ててトンカチをノミの柄の底に振り下ろした。
すると、たった一撃で板は真っ二つになった。
断面を手際よくカンナかけしてくれて、あっという間に薄い二枚の板が完成した。
「すごいですね……手際もいい」
「家具職人に卸す前の木の平面加工はこちらの領分だからな。平らにするだけならなんてことない」
マテバシーさんが口の端を持ち上げる。密かに自慢みたいだ。
「流石ね~ここに来てよかったわ~ねぇモリアちゃん!」
これはその……何と答えればいいんだろう……何かファイさんが怖い。
とりあえず頷いておいた。
「良い腕してるから~私はここまで足を運んだの~お仕事持って来てあげたの~!」
「ああ、そう言って来てもらえて嬉しいよ」
これは……値切り交渉のようだ。
マテバシーさんにはかわされているように見えるけど……どうなんだろう。
「二枚で小貨1枚。でお願い」
「それは安すぎだろう! せめて二枚にしろ」
「一般炭行きの木なんだからいいじゃない!」
「こちらにしたら炭としてならもっと高く売れるからな」
「さっき微々たるもんでもいいって、言ってたくせに~!」
「聞き逃さないのな……でも小貨一枚は無理だ。最低で一枚半ってとこだ。残り半分でこれを持ってけ」
差し出してきたのは何かの木から枝払いしたらしい細い枝が三本。
何故?
――――――――――---‐741字・値切るファイさん
「さっきの図面見て思ったんだよ。
予定では底板に対しての三面方向は細い木で枠組みを組む事にしているようだが、この底板の三面部分に二つずつ穴をあけてだな、細い枝を弓なりにして立ち上がるようにするんだ。
これなら木枠を組むより軽いし弓枝同士のつなぎ目はお前の得意な組紐とかでいけるだろう?」
ほうほう、なるほど。良いアイデアだね。
ファイさんを見ると顔を赤くしている。あれ?
「……わかったわ。今回はあなたの考えに乗ってあげるわ」
「おお。こっちも助かる」
交渉成立のようだ。
穴もあけてもらった板と枝を僕の背負ったリュックに入れ、ファイさんはマテバシーさんに小貨二枚を渡す。
「これで勝ったと思わないでね!」
「はいはい」
やはり受け流されている……ファイさん結構ヤリ手だと思っていたのは僕の気のせいだったのかな?
さっさと山を下りてくるとファイさんは見るからに落ち込んでいた。
どうしたのか尋ねたら、マテバシーさんに自分より良いアイデアを出されて悔しかったらしい。
さっきの態度は意地を張った結果らしい。
何というか微笑ましい?
こっちの人の精神年齢は高いかもと思ったけど、そうでもない気がしてきた。
「アイデアは使うけど、私も頑張るからよろしくね!」
「はい、もちろんです。こちらこそよろしくお願いします」
何とかファイさんの機嫌も治り、街に戻ると店の前で待っていたらしいイフェリオちゃんが駆け寄ってきた。
「おかえり~」
「どうかしました?」
何か嬉しい事でもあったのか、にこにこしている。
「お母さんとの買い物は終わったんでしょ?」
「はい。あとは組み立てですね」
「じゃあ、ちょっと付いて来てほしい所があるの」
僕はファイさんに板の入ったリュックを預け、今度はイフェリオちゃんと出かける事になった。
……どこに行くのかと思ったら、……役所だった。
――――――――――---‐750字・ファイさんツンデレ?
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