の106……スキルによる攻撃と防御について⑤
「【夜鏡】を使うのには『無効』で空間を飛び越えるからね。
実際あれは初心者教本に書かれるような技スキルではないよ」
先生の話ぶりは「初心者に覚えられるスキルではない」という事なんだろうけど、僕は使えてるし、鏡のせいで枯渇したことはない。(おそらく)
「じゃあ、先生みたいな上級に上がるのにはいったい……」
「苦労する事かな?」
「はい!?」
「鞄に収まらない大きさの獲物を、盗賊や野生動物の襲撃から守って町まで担いで帰る……懐かしいね。
身体的にも精神的にも疲労のピークが来ると、人の身体は効率よく動くようになるんだ。
戦闘面以外でも、スキルの成長面でも関係するんだよ」
この先生、鬼だ!
いや待て、確かに体力と精神力はガリガリ削られそうだけど、今の話だとそういう仕様って事かな。
しかも大物を仕留めても細切れにして収納していては拡張はいつまでも起こらないって事になる。
誰のせいでもないけど、かなりの鬼畜仕様に萎えるね。
先生は話しながら休憩用のお茶の準備をしてくれる。この抹茶のような苦みはペローだね。
毒消しなのに大人の味だと人気が高いとか。
でもって苦いの苦手な人用に出されたのは香りが甘いお茶だった。
味はあんまりしない。
でも香りの違いだけで身体の喜び方が違う気がした。
「【影室】は常時使用だからね。回復薬も常備ですよ」
そうだったのか!(よくわかってない)
「寝ている間も疲労するから灰色の呼玉を使った『疑似星』を作って鞄の傍に置いて寝ると、翌朝の重だるさを肩代わりしてくれるよ」
そうだよね。
適性が高くても星の力の容量が多いとは限らないよね。(僕だって魔法四回しか撃てないんだし)
それで出てくるのが『サプスィテュース』ってわけだ。
――――――――――---‐713字・読み返すと気絶一歩手前は経験済み(無自覚)
星の力が無くなるの怖いもんね。
身体は言う事を聞かない、身を守るためのスキルさえも発動できない、真っ暗闇に裸で放り出された様にどうなるのかもわからなくなる。あのパニックを思い出して思わず身震いが起こっていた。
僕も作って置こうかな。
作り方は灰色の呼玉に【停止】を込めた力を注ぐだけ。
寝る前に残っている力をストックするつもりで貯めていくと効率が良いみたい。
【夜鏡】を作る時に込めるのは【無効】らしいのでスキルを意識して込める時に注意が必要なのはスキル付きの細工物を作るのと同じだね。
僕が作った時はスキルを意識しないで、とにかく黒い力を込めてた気がするのを訊ねてみると
「二つの鏡をつなぐイメージを意識して作ったのなら、それが【無効】だよ」
と言われた。
「今日は少ない属性でも作れる『サプスィテュース』に挑戦しましょうね」
……さっきまでスキルまとえと怒られていたんですが?
休憩用のバスケットの代わりに今度先生が取り出したのは灰色の呼玉が入った箱で、その中から手ずから渡してくれる。
小さい。親指の先くらいの大きさしかない。その人によって大きさはまちまちみたいだ。
僕達が呼玉に【停止】を籠めるのに集中していると、その横で先生は銀色の石を粘土のようにコネて針金を作り出し、小さな鳥かごのようなものをいくつも作っていた。
ヴァクツミットの親父さんより手付きが繊細だ。
上の部分がガマ口のように開く作りになっていて、中に小物が入れられるみたいだ。
先生は僕達がスキルを籠めて紫色になった呼玉を見て嬉しそうにうなずくと、呼玉をかごに入れて返してよこした。
「寝る時にかごの底を腕に当てると腕輪に変形して、身体から星の力が削られない様に反射する道具だよ。
私のお手製だから大事に使ってね」
「先生すげーっ!」
受け取った参加者の一人が感激して叫んでいた。
――――――――――---‐760字・でもサプスィテュースの容量が無くなると効き目は無くなる。
つまり、反射の効果だけ残るので影室の中の物も腐る。
それに彼らは気付いていないだろう。
『疑似星』=替え玉って意味です。




