表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

勤務しましょう!

登場人物


・私

理系大学院を卒業して図書館に司書補助員として就職。


・阿南さん

図書館サービス係の司書。



○───<◇>─<◆>─<◇>───○


お初にお目にかかります。

物語のはじめに挨拶を行うのは変かもしれませんが、私と皆さんの初めての出会いなのでさせていただきました。

この物語は私が一年間、市立図書館で働いた思い出をお話ししたいと思います。皆さんになじみのない図書館の内側について、私の思い出とともに紹介できたらと思っています。接客業ということでたくさんの楽しいこと、驚いたこと、納得できないことなどがありました。その思い出を皆さんと共有できたらと思います。

それでは私が図書館で働くようになったきっかけを簡単にお話しします。


私の最終学歴は大学院です。卒業研究と同時に公共機関への就職活動をしていたのですが、志は届かずに内定を得ることができませんでした。その後も就職活動を続けたのですが、研究を中断できる期間も限界に達し、卒業研究を行わざるを得ませんでした。

幸い、卒業研究発表では敢闘賞をいただき、18年間捧げた学生生活に有終の美を飾り、幕を下ろしました。その後に地元に帰ることは決めていたのですが、全く将来の計画が立っていません。

卒業研究発表と研究の引き継ぎが終わった私は卒業式まで地元に帰り、今後について検討することにしました。卒業式までの1週間、残されたモラトリアムに浸りながら、4月から白紙の予定帳に生ぬるい不安を感じながら数日を過ごしました。

ある日、たまたま見ていた地域求人に割と近所にある図書館が載っており、

本を読むのが好きだから応募してみようかな

という単純な理由で求人に履歴書を送ったところ、すぐに面接が行われ採用されました。

このように、研究発表から引っ越し、就職決定、卒業式と慌ただしい年度末を経てこの図書館にたどり着いたのでした。


この某市立図書館は私の実家から徒歩で数分のところにあり、私が小学校の時に建てられたものです。

幼少の私は本にあまり興味が無く、図書館に行くことは希でした。料理や園芸の本を借りる母のついで、絵本を数冊借りた記憶はあるのですが、明瞭な記憶はありません。

しかし、なんたる縁なのでしょう。どういうわけか採用をいただきましたので、こちらでお世話になることとなりました。


出勤初日は年度の初めの日であり、全員が出勤してくる日です。そして、たまたま定休日で利用者は一日を通していないため、新人には格好の勉強日和です。

私が知っている利用者用の入り口ではなく、裏側に近い職員用の入り口から図書館に入ります。

前日の電話で入り口の鍵を解錠する番号を聞いていたので、それを入力しようとししました。しかし、入力パネルはなんとタッチパネルになっており、数字もランダムな配置。

あわあわ。

どうしましょう。私は聞いていた数字を入れたいだけなのですが、焦ってしまい10分の1の目的の数字が見つけられません。そのように苦戦をしていると背後から声をかけられました。

「新人さんですか〜?」

その場で振り向くと、眼鏡をかけた落ち着いた雰囲気の女性が立っていました。身長は私より少し低いくらいでしょうか、その方は女性の中では平均よりも少し高いくらいだと思います。

「今日からお世話になりたいのですが、数字を見つけられなくて・・・」

その方はさっとパネルを入力し、扉を開けてくれました。私はお礼を言ったものの、図書館の裏側はなんせ初めてなので、その方について行くことにしました。

「阿南といいます〜。ここの司書をやってます〜」

「お世話になります。お願いします」

この方は阿南さんといい、司書さんだそうです。

この方の補助の仕事をするのでしょうか?

このときは司書という立場の方がどのような仕事をするのか全く知りませんでした。

「こちらこそ〜。部署ってどこになったか聞いてる〜?」

「いいえ、今日、教えていただけるそうでまだ何も聞いていません」

阿南さんは物腰が穏やかな方で、とても話しやすいです。これからの仕事に希望を感じました。

「ん〜まぁ、どこの部署に行っても関わるからよろしく〜」


玄関での話から阿南さんに連れられ、事務所へと行きました。阿南さんと一緒に館長、副館長などの偉い方々にご挨拶です。

「いろんな人が来るけどがんばってくださいね」

「電話の印象通り、穏やかそうな人ね。お力を貸してください」

どうやら、私と電話連絡していたのは副館長のようでした。お二人ともある程度の年齢の見た目で、年相応の穏やかさと心の強さを持っていそうな方々です。

「この後、辞令交付があるので、先に会議室に入ってください」


この図書館は市立図書館なので、雇われている人間は館長にではなく、市長に雇われているということになっています。当然、職員は全員、市職員で公務員の身分をもつのですが、半分以上の人間は期限付きで雇われた臨時・非常勤の司書補助の職員です。

会議室には私を含めて30人くらいの人数が集まりました。どの人がどういった立場なのかわかりませんが、周りの大人達がとてもこなれた感じを醸し出しているので、新人の私はなんだか疎外感というか、こなれていない感覚を持ってしまいます。

ぷえぷえ。

職員としての志の勉強会を副館長が行った後、館長から期限付きの職員に対して辞令交付が行われます。一般の会社で言う雇用証明の代わりです。

司書補助員への辞令の交付は勤めの長い人から順番に行われ、新人は最後に回されました。今年は3人の新人が入り、前の方で紹介されました。他の二人が紹介され、本当の最後に私です。

他の二人のうち、最初に紹介されたのは身長が低めの凛々しい顔立ちをされた方、次に少し欧米風の顔立ちが垣間見える身長がとても高い方、両方とも女性でした。

「それではみなさん、よろしくお願いします」

館長の一言で解散になりました。次は部署ごとのミーティングです。配られた資料によると、私はサービス係だそうです。サービス係は中央の大机に集合です。


場所を変えてサービス係の紹介が行われました。とりまとめは阿南さんです。

「サービス係は一般向けの本を貸し出す係です。ここの図書館は県内で一番お客さんが来ますし、一般のカウンターは忙しくなります。去年より人数は増えましたが、部分的にシステムが変わっているところもあります。まだ慣れていない人が多いので、早く仕事を覚えましょう」

はい。がんばりたいと思います。約15人の前で、私は再び挨拶を行いました。

その後は各々の自己紹介と細かい担当の割り振りが決定されました。

サービス係はカウンターで本を貸したり返したりする仕事に加えて、新規会員の登録や本の予約取り置き、館内の総合案内をする部署です。細かい担当というのは督促電話や掲示物管理などの少人数専任の仕事のことです。私の名前は印刷担当のところにありました。

「印刷担当は予約やカード忘れの書類やイベント案内、館内地図が減ってきたら印刷して補充する担当です〜」

どうやら、新人のための担当のようですが、迷惑をかけないように注意しようと思います。

午前中はそういった基本的な確認を行い、昼休みになりました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ