非日常
― チエ ヲ カセ ―
突然、体が自分以外のものに支配されてる感覚に襲われた。
「ううっ!」
酷い頭痛だ。まるで薬によって力を手に入れるときみたいな。そんな経験ないけど。
― チカラ ヲ カセ ―
まただ、なんだこいつは。俺に何の力があるってんだ。
「力を貸してほしいなら貸してやる!だから俺たちを助けてくれ!」
― イイダロウ ナラ チカラ ヲ カリルゾ! ―
その声が聞こえた直後、訳の分からない不思議な光に俺はつつまれた。
いや、違う!俺が光ってる!俺の体から光が溢れてるんだ!
何がどうなってるんだ?なんで俺光ってるの?てか、どこから光でてるんだ!?
光が収まると、俺の体は変化・・・変化してなかった。
「え、なんの力もくれないの・・・?」
光で目くらましを喰らったトカゲも、もう臨戦態勢に入っている。こんどこそ死ぬぞこれ。
「ええい!もうやけくそだ!」
俺はトカゲに向かって何かを投げる動作をした。あれ?俺、なんでこんなことしてるんだ?何も持って無いのに・・・
と思っていたら、俺の手の中からよく分からない火の玉が飛び出した。
「うわっ!なんだこれ!!」
意味が分からなくて驚いた。後ろでは雪菜ちゃんが「手品・・・?」と呟いていた。
しかしこの火の玉、案外トカゲには有効だったらしく、トカゲは後ずさりをしていた。
いける。このまま押し切れば。
俺はもう一度、今度は意識的に火を意識して、放った。普通に投げる動作しなくても火は出せたのか。そんなことも考えながら、火を放ち続けた。
「これで、終わりだ!」
俺は渾身の力で、今日一番の火の玉を投げつけた。
トカゲは「キィエエエエエ」とうめきながら丸焦げになった。ちょっとおいしそう。
「知希君!すごいね!火出したよ!火!」
トカゲを倒すと、雪菜ちゃんは目を輝かせながら話しかけてきた。子供みたいな顔をしていた。
「ははは。それよりも、雪菜ちゃんけがはない?」
「うん!知希君のおかげでなんともないよ!」
力こぶを作る動作をしながら、雪菜ちゃんはいった。よかった。
しかし、あの声は一体なんだったのだろうか。力とは、この火の玉のことなのだろうか。俺の身体に何が起こったのだろうか。
「そういえば、なんか誰かに話しかけてたみたいだけど、誰かいたの?」
「え!?いや、ちょっと気が動転してて、あはははは・・・」
俺は慌ててごまかした。頭の中に直接語られたなんてファンタジーチックな事、あんまり人に言いたくないし・・・
「そっかー、残念。」
残念?何がなのだろうか。
その後、俺たちは家に帰った。俺はその後もあの火を出そうとしていたが一向に出ることはなかった。なにか条件でもいるのだろうか。
今まで平凡で、これといったことは起きなかった人生。その人生に今日初めて
非日常が訪れた。初春知希、17の秋だった。