不穏なトカゲ
向かった先は、新しくできたクレープ屋だった。そういえば食べたいっていってたっけ。
俺たちは二人でクレープを買い、他愛のない話をしていた。
クレープを食べ切り、帰ろうかと話していた時だった。
『キャー!!』
どこからか悲鳴が聞こえてきた。すぐにそこには人だまりができた。
と思ったらその人だまりもすぐなくなり、全員が走って逃げだした。
『なんだあれは!』『急げ!』『化物!!』
各々がいろんなことを叫びながら散っていった。
そこには、この世のものとは思えない生き物がいた。いや、この世のものが突然変異を起こしたかのような姿といった方がいいかもしれない。
「とかげ?」
雪菜ちゃんはおれに質問をしてきた。
「それにしてはでかすぎるでしょ・・・」
多分、全長が150㎝くらいあるだろうか。人ほどの大きさのトカゲがそこにはいた。
トカゲといっても、うろこは硬そうで、歯は鋭くとがっていて、まるで足の長いわにだ。
そんなトカゲがこっちを向いた。どうやら気づかれたらしい。
「こっちみたよ・・・?」
「雪菜ちゃん!逃げるよ!!」
俺は雪菜ちゃんを連れてトカゲとは逆方向へ走り出した。多分追いつかれたら死ぬ。そう思いながら走り出した。
トカゲは、まるで獲物を見つけたかのようにものすごいスピードで追っかけてきた。
足を止めれば追いつかれる。そう思った矢先だった。
「ひゃう!!」
前にいる雪菜ちゃんが転んだ。彼女のドジが、一番起こってはいけない所で起きてしまった。
「雪菜ちゃん!!」
俺は雪菜ちゃんに駆け寄りながらも後ろを確認した。立ち上がるころには追いついてきそうな距離だった。
あ、俺ここで死ぬのかな。
思えば毎日が平凡だった。好きな女の子がいて、仲のいい友達がいて、学校に行って、授業を受けて、家に帰って・・・。
そんな走馬灯を巡らせながら、頭の片隅では雪菜ちゃんだけでも逃がせる方法を考えていた。
この距離、俺が犠牲になれば雪菜ちゃんも助かるかもしれない。それ以外に方法は・・・
― チカラ ヲ カセ ―
不意にどこかから声が聞こえてきた。それは、頭の中に直接話しかけられているような声だった。