日常
学校には何とか間に合い、教室へ向かった。
「おはよう、知希君、隼人!」
教室に入るや否や、声をかけられた。
彼女は伝雪菜。学校で一、二を争う美少女で、頭もよく、運動神経もいい。男女ともに隔てなく接せられる、いわゆる八方美人、なのだが、
「うわ!?」
そう叫びながらこけた。盛大に、何もない所で。
彼女はドジっ子であった。なぜ運動神経がいいのに何もない所で転ぶのかは本当によく分からない。しかしそんなところも彼女のかわいいと言われるところの一つで、男子からの評判はすごく高い。
「大丈夫?いつものことながら、すごい盛大にこけるな・・・」
「もうこれはある種の才能なんじゃねえか?俺はそんなふうには転べねえわ。」
「うう・・・恥ずかしい・・・」
いつものことなので俺たちはもう慣れたが、彼女はそれでも恥ずかしいらしい。
しかしいくら慣れたと言え、この恥ずかしがっている顔は反則だ。かわいすぎる。
そんな感じでいると、チャイムが鳴り、担任が入って来た。
「はい、みなさん席について下さい。」
木下雨緑先生。独身で、今年28歳になる。普段は何ともないが、カップルを見たりそういう雰囲気の人を見るとすごい顔で舌打ちをする。結構怖い人だ。
「今日の連絡は・・・」
-どくん。
まただ、また朝の感じだ。しかし今回も一瞬で違和感は消えた。気のせいなのか?
「大丈夫?なんかすごい顔してたけど・・・」
「へ?あ、なんともないよ!大丈夫大丈夫!」
雪菜ちゃんの問いかけに、俺は慌てて返した。
すごい顔?確かに違和感はあったが、表情は全く変えてないはずだけど・・・
その後、学校は何事もなく終わり、いつも通り放課後を迎えた。
「知希君!一緒に帰ろ!」
「おう。隼人ー!帰るぞー」
「俺今日委員会だから、二人先帰っててくれ!!」
「分かったー」
そうして雪菜ちゃんと二人で校門を出た。
普通の男子ならここで「あの雪菜ちゃんと二人っきりで帰れる!やったぜ!」みたいなことを思うだろうが、俺は違う。彼女の好意が俺ではない人に向けられていることを知っているのだ。そんなふうに舞い上がる訳がない。
「知希君、ちょっと寄り道しない?」
「いいよ、どこに行くの?」
「んーとね・・・内緒!」
・・・雪菜ちゃんと内緒の帰り道だ!やったぜ!