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血縁より絆 ~家族より仮族~  作者: しろゆき
7/23

初めての週末

 翌朝、時計を見たら、AM7:20だった。

目覚ましアラームを使わないで起きる朝は、起き抜けの気分が良い。寝たいだけ眠ったスッキリ感がある。

 部屋の窓を開け、空気を入れ替える。

 洗顔と着替えを済ませた。今日はまかない食がないのだ。自分で朝食の準備をしなくてはならない。昨夜は疲れて寝てしまったので、朝食の事まで考えていなかった。

 とりあえず、米を炊くところから始める。私の持っている炊飯器は0.5合から炊けるので、0.5合炊いてみる。下宿初めての自炊だ。なんだかうれしい。無洗米を計量カップで測り、炊飯釜に入れる。0.5合分のライン通りにミネラルウォーターを注ぐ。すぐに炊飯のスイッチを押したいところだが、少なくとも十五分は待たねばならない。昨夜やっておけば良かったと改めて思った。今日からは夜のうちに用意しよう。初めてだから、一つひとつの行動が発見である。

 テレビを観ていたら、あっという間に二十分が経過していた。炊飯のスイッチを入れる。米を炊いている間に、おかずの用意をする。冷蔵庫から、昨日スーパーで買っておいた肉じゃがと、ひじきの炒め煮の惣菜を出した。それから、インスタントのわかめスープをマグカップに入れお湯を注ぐ。卵料理を作りたいところだが、生憎玉子は買っていない。生野菜も食べたくなった。明日の分は、もっとしっかり考えて用意しようと思った。

 炊飯器から、米が炊き上がった音がした。さらに十分間蒸らす。

 やっと朝食の準備ができた。平日の朝はスミコさんが用意してくれるから、上げ膳据え膳な事に、改めて有難さを実感した。

 ご飯はなかなかの炊き具合だ。肉じゃがも、ひじきの炒め煮も美味しい。

実家にいた頃、インスタント食品は体に良くないと思って、極力食べない様にしていたが、ドラックストアで思いつきで買ったわかめスープはおいしかった。ご飯0.5合は私にはちょっと多かったので、量としてはボリュームのある朝食になった。

 歯磨きと食器類と炊飯釜を洗いに洗面台へ行った。食器用スポンジと洗剤とふきんを持った。それから、ドラックストアで買っておいた三角コーナー用のネットも持って行く。昨日スミコさんと排水溝が詰まらない様に使うと約束したので、洗面台の排水口の前に取り付けて洗うのだ。

 食器類を持つと、かなりの荷物になってしまったので、今後は専用のかごを買って運ぼうと思った。

 歯も食器類もスッキリ洗って下宿部屋に戻ろうとしたら、ユリさんが後ろから見ていた。いつからいたのかわからなかった。気配は全く感じなかった。

 とても驚いたので、一昨日のキッチンでの事を誤るべきだったのに、とっさに言葉が出てこなかった。

変わりに「おはようございます」と言ってしまった。

ユリさんは「おはようございます」と目を合わさずに言ってくれた。

「洗面台お借りしました」と言って下宿部屋に戻った。

その後、ユリさんは洗面台をじっくり掃除していた。

 洗面台で食器を洗っていた事が気に入らなかったのかも知れないが、使うなと言われなかったのだから、気にしない事にした。


 昨日考えていた、今日一日の予定を思い出し、改めて計画を立ててみる。

 まず、コインランドリーへ洗濯に行こう。それから、私はこの街の事をまだ良く知らない。これからこの街で暮らして行くのだから、安く買い物できる店や美容室など知りたいところが沢山ある。

できれば美味しい惣菜屋さんやパン屋さん、美味しくランチできるお店なども知りたい。

 そのためには、少しドライブして探検してみるのが良いかも知れない。ドライブがてら、昼飯を食べて夕飯の買出しに行くことにした。新しい街の探検をすると思うと、ちょっとワクワクして来た。

 早速、出かける準備をした。

 スミコさんに「出かけてきますね。夕方には戻ります」と言った。今日はトミオさんもいた。

「いってらっしゃい」と二人とも笑顔で見送ってくれた。

 スミコさんが、昨日よりすっきりした顔をしている気がした。


 コインランドリーで洗濯をする。洗い上がりまでの待ち時間は何をしようかな。フリーペーパーは前回来た時に、みんな読んでしまった。

 とりあえず、ネットのニュースをチェックしようと、スマホを取り出したところで、知り合いに引っ越しの連絡をしていないことに気がついた。急な引っ越しだったことと、新しい営業所に慣れることに精一杯で、今日まで気がつかなかった。

 私が引っ越しの連絡をしなければならない人とはだれか。

引っ越しの時に、本籍もカトウ家の住所に移したので、役所の書類上では両親とは分籍して戸籍上でも絶縁した。当然親戚とも絶縁だ。

 問題は友達だ。年賀状をやりとりする仲の人は何人かいるが、連絡先までわざわざ教えるべきだろうか? その程度の付き合いなら敢えて連絡しなくても良いのかも知れない。

 郵便局へ転送届は出して来たので、実家の住所で送っても転送されるはずだ。

郵便局員がしっかり見ていればだが……これは地域によってかなりの差があるらしいので、実家に届いてしまったら、私の手には届かない。そうしたら、私とは永遠に連絡はとれないだろう。それも運命だと思う事にする。

 私は友達が少ない。正解には一人しかいない。元々人付き合いが下手だったため、友達ができても、距離感がわからず去られてしまったり、少しでも気が合わないと、自ら距離を置く事が多かった。

 その一人の友達とは、中学からの大学まで一緒だった麻里だ。

麻里も私も、お互い一人っ子同士だ。

だが、私の家とは違って、麻里の両親は一人っ子特有の干渉し過ぎなところはあるが、しっかり麻里に愛情を注いでいる。麻里も憎まれ口を叩きながらも、しっかりと受け止めている。あの土地にしては珍しく女の子を可愛がる家庭だった。


 麻里とは、不思議な縁を感じていた。友達と言うより、姉妹の様な気がしていた。麻里もそうだと言っていた。幼い頃の習い事や初めて行った場所、そこで感じた事、お互い約束や相談をしていないのに同じ時期に同じ体験をして、同じ様な体感をしていることが多かった。初めて彼氏ができた時期も同じだった。

 中学生の頃から度々、麻里の家に泊めてもらった。麻里の両親も私の事を、娘の信頼できる友達だと思ってくれた。

 高校生の頃は、親に秘密で東京に遊びに行ったり、こっそりカラオケにも行った。大学に行ってからは、何度か合コンにも参加した。お互いの彼氏と四人でダブルデートをした事もあった。

 だから、社会人になり仕事で会う時間がなくなって、久しぶりに連絡を取り合っても久しぶりな気がしない。お互い、そんなに会っていないかな? と首をかしげてしまうのだ。毎日会っている様な気がする。それだけ友達以上の絆があるのだ。

 麻里にだけは引っ越しの連絡をしたい。麻里の声を聞きたいと思った。

 スマホの通信アプリを使って連絡をしてみた。

 麻里はすぐに出た。

「珍しいね、そっちから連絡してくるなんてどうしたの?」

 そうだった。私たちはいつも連絡を取り合う時には、麻里がメールをくれる事で始まるのだ。

「驚かせてごめん。一大事が起きたのでお知らせしようと思ってね」

「えーなになに? 良い事悪い事?」

「良い事だと思う」

「なになに? もったいぶらないで教えてよ」

「派遣から正社員になった。新しい営業所に移ったから、引っ越しをしたよ」

「マジで~!! 良かったじゃん。念願の正社員。引っ越しって一人暮らし? どこに部屋借りたの?」

 麻里は、大学を卒業する時に、父親の縁故で小さい会社ながらも正社員で就職した。今でもその会社で働いている。

「実は貝岸市なんだ。遠くてさすがに自宅通勤は無理だから、会社の近くに引っ越したんだけど、下宿にしたよ」

「貝岸市? 県内だけど、こっちから通うのは無理かもね。でも、下宿って会社専用のところ? 今時めずらしくない?」

「会社とは関係ないところだよ。不動産屋で物件探しをしていたら、紹介してもらえたんだ」

「へえ~ そんなこともあるんだね。でも下宿ってご飯出るの? 風呂とか共用なんでしょ? 知らない人と暮らすのって恐くない?」

「下宿人は私だけだし、家主も良い人だから今のところ平気かな。ご飯はおいしいよ。それより、実家の方が険悪な雰囲気だったから、出られてホッとしているよ」

 半分嘘。ユリさんとの一件は秘密だ。

「そっか、確かに家族関係大変そうだったもんね」

「うん。大変だった。麻里のお父さんもその後、調子はどう?」

麻里のお父さんは、去年胃癌で全摘出手術を受けた。麻里とお母さんと二人で二十四時間付きっきりで看病していた。

「お陰さまでかなり良いみたい。今のところ転移もないし、先週からお母さんと二人で湯治に行ってるんだ。だから、私も自分の家でプチ一人暮らしだよ」

「そうなんだ。良かった。一安心だね」

「うん。やっと落ち着いて来たって感じ。せっかく時間が出来たから、話したい事も沢山あるのに、下宿じゃ、泊まりに行ったらダメだよね?」

「ごめん。ダメそうな雰囲気」

「そっか残念。仕事は慣れた?」

「営業所が変わっただけで、やることは同じだから大丈夫だよ」

「よかったじゃん。でも頑張り過ぎないでよ」

「ありがとう。もう少しこっちの生活に慣れたら、遊びに来てよ。泊めてあげられないけれど、美味しいお店とか、遊べるところ調べておくから」

「マジで行くから!! それより、困ったことがあったら、すぐに連絡してよね。あんたは何でも自分でやって無理するんだから。それ悪いとこだよ!!」

「うん。ありがとう。今回は家主さん一家に甘えているから、大丈夫だよ」

それから、麻里と共通の知り合いの近況や他愛もない話をして、お互い「また連絡するから」と言い合って通信を終えた。

 

 引っ越しをして、そうそう簡単には会えない距離にいるのに遠くにいる気がしない。私の心を温かくしてくれる存在。それが麻里である。自分を気遣ってくれる友達。そんな友達と話せて心が温かくなった。

人は、一人で生きられないと言うが、本当だと思う。この世の中に、私の事を一人でも気遣ってくれる人がいると、それだけで生きる存在価値があるのではないかと思える。

 

 洗濯が終わった。乾燥機から出したばかりの洗濯物は温かくて、天気の良い日に干した布団の様だ。このまま畳みたい気持ちを抑えて、前回と同じ様に清潔なバックに詰める。

部屋で使うガス台に変わる物を買わなければならない。

 電気屋さんに行けば売っているだろう。県道沿いにある、量販の電気店に行ってみた。

 ガスに代わる物と言えば、カセットコンロかホットプレート、コンセント電源が使えるIHクッキングヒーターのどれかだ。

 今買うならIHクッキングヒーターが良い気がするが、使い勝手を考えてみる。下宿部屋には、調理鍋をしまうスペースがない。洗面所で大きな鍋を洗うのも大変だろう。ホットプレートなら、鍋物もできるし、玉子焼きもパンケーキも焼ける。だが、パスタや野菜は茹でられない。火力の強さで考えたら、カセットコンロが一番だ。迷いどころである。

暫く考えて、パスタを食べる時には、電子レンジで茹でられる専用タッパーを使うことにして、野菜も電子レンジで調理でき、シリコン素材で畳んで収納できる調理容器を買えば、茹でる鍋がいらないし、大きさもコンパクトだから収納スペースもなんとかなるだろう。だから、ホットプレートを買う事にした。残り2つどちらもおしいが、調理鍋の収納を考えるとどうしても、ホットプレートになる。

 また新しい電化製品が増えた事が嬉しかった。早速今夜から使う事にする。これで料理のレパートリーが増えそうだ。今は、スマホの料理レシピサイトがあり、内容が充実しているが、一冊は料理本を買ってみようと思ったが、その前に お腹が空いて来た。昼ご飯を食べに行く事にした。

 何を食べようかな。美味しいお店情報はまだ知らない。ファミレスに入った。パスタセットを注文した。ドリンクバーとスープとコーヒーゼリーが付いて来た。

久しぶりにファミレスのパスタを食べたが、まあまあ美味しかった。コーヒーゼリーは生クリームが乗っていて高級そうに見えるが、一昨日ユリさんが作ってくれた方が断然美味しく感じた。ドリンクバーでお茶を沢山飲んでゆっくり休んで行く事にした。

 朝からの行動を思い返す……初めて下宿で食事の準備をして食べて、コインランドリーに行き、麻里に引っ越しの報告をして、ホットプレートを買いに行った。

 実家にいた頃の私だったら、コインランドリーに行っただけで疲れてしまっただろう。少し行動力が上がった事がうれしかった。

 この調子で、本屋に行って料理本を買って、今夜と明日の食材の買出しに行こう。

 勢いづいて、ファミレスの席を立って会計に向かった。

 

 スミコさんに教えてもらった大型のショッピングセンターに行った。ここなら、食品と本屋と種類は少ないが日用雑貨が買える。

だが、大手の玩具屋とイベントスペースがあるので、週末は家族連れで激込みだった。駐車場を探すだけで時間がかかってしまった。

 本屋に行ったが、決め手となる料理本が見つからず諦めた。文庫本が欲しくなったが、読んでいる余裕はまだないと思い、買わずに店を出た。

 夕飯と明日の食材の買出しだ。

 月曜からはまた、まかない食を頂けるので、今日明日で使い切れるだけの量を買わねばならない。今朝の様に惣菜を買ってもよいのだが、せっかくだからホットプレートを使って料理をしたい。

 まずは、今日の夕食の食材を選ぶ。焼きそばが食べたいと思った。焼きそばの材料を買おうとして、気がついた。

 キッチンを使えないと言う事は、野菜を切るスペースも下宿部屋のテーブルにまな板を置いてやることになる。生野菜のゴミも大量にあると処分が大変だ。あまり生野菜は使えないだろう。

生野菜を使う物を諦めるとなると、料理の幅が減る事になる。大きな壁にぶつかってしまった。

 どうしたもんかと、野菜コーナーをうろうろしていたら、一人分の生野菜セットが袋につめられて売られていた。野菜炒め用とか、サラダ用と言った具合に、丁寧に分けて売られている。お値段も百円代だ。数種類の野菜を袋売りとは、便利な販売をしているものだ。野菜の業者に感心してしまった。これを買う事にした。野菜炒め用で焼きそばを作ろう。2~3人分作って、今夜と明日の昼用にしよう。サラダ用は、明日の朝と夜用に半分ずつ使おう。ドレッシングも一回分の使い切りサイズで売られているので、二つ買い物かごに入れた。

朝用に納豆を選んだ。単身者様に一パックから売っている。今朝食べたかったヨーグルトも忘れずに買う。夜は焼きそばだけでは寂しいから、冷凍食品コーナーを見て回り、エビ餃子を一袋買い物かごに入れた。冷凍なら残っても、来週も食べられるだろう。昼はパスタにしようと思い、100gずつ束になっているパスタ1袋と、クリームパスタが食べたくて、パックの牛乳とバター、小麦粉、固形コンソメを買い物かごに入れる。具は朝の生野菜の残り半分を使うことにする。野菜だけでは物足りないと思い、ベーコンを買った。ベーコンも残ったら冷凍しておけば、来週も使えるだろう。

 会計のレジの行列にならんだ。一通り買いものができた。食材の買出しは、結構な労働だ。初めての心地良い疲労感だった。


 下宿に帰った。仕事帰りと同じように、インターホンを押して「ただいま帰りました」と言った。応答はないが、玄関の鍵が開く音がした。

 ユリさんが開けてくれた。

 私はとっさに「先日は勝手にキッチンを使おうとして、すいませんでした」と言った。

 ユリさんは私の言葉には応えず「両親は外出中です」と言って、キッチンの方へ逃げる様に走って行った。


ユリさんとしてはこの謝罪をどう受け取ったのだろうか?

 走り去ってしまったから、もう触れられたくない事だったのかも知れない、やはりユリさんとの距離の取り方はむずかしいと思った。

 

 車から、買って来た荷物と洗濯物を運び出した。

 荷物を運び終えた途端に、疲労を感じてベッドに倒れこんでしまった。

 だが、冷蔵物があるのだから、冷蔵庫にしまわなくてはならない。

 今まで実家にいることで、両親と上手くいっていないと思っていたが、家事の負担を考えたことはなかった。私は愛情のない家庭にいたと思っていたが、家事だけは甘えていたのだと痛感させられた。

 しかし、これから好きな料理を作れると思うと、ちょっとしたワクワク感もある。この疲労感はマイナスの感情ではないから、慣れてしまうのだろうと思えた。

 冷蔵庫に食材をしまい、洗濯物を畳んでチェストにしまった。

 ホットプレートは今夜使うから、箱から開けぬままテーブルの上に置いた。

 部屋着に着替え、一休みする。夕食の時間までにはまだ少し早い。

 今夜のテレビ番組表をスマホでチェックする。面白そうな番組はないか。映画の地上波初登場はないか……。 

 ベッドの上にソファー代わりにして座って寛いでいたら、いつの間にか眠ってしまった。

 夕食の時間になった。程良くお腹も空いて来た。

 焼きそばを作ろう。

 まずはホットプレートを箱から出す。

 ビニールと発泡スチロールでしっかり梱包されている。この発砲スチロールは燃えるごみなのだろうか? 考えるのが面倒なので、箱ごと取っておく事にした。

 洗面台に行って、ホットプレートの鉄板を洗う。ふきんできれいに水気を拭き取り、台に戻す。

 ショッピングセンターで買った、野菜炒めの袋を取り出す。

 もう一度洗面台に行き、野菜をざるに入れて洗った。しっかり水を切って、ボウルに野菜の入ったざるを入れて水が床に垂れない様に、下宿部屋に運んだ。

しまった。肉を買い忘れた!! 今日は肉なし焼きそばだ。サラダ油を引いて、野菜を炒める、しんなりしてきたら、焼きそばの麺を入れ、コップ一杯の水を入れる。しっかり炒めたら、ホットプレートの温度を最低温度まで下げ、ソースを掛けて混ぜる。焼きそばの出来上がり。

冷凍エビ餃子も電子レンジで解凍する。

 夕飯が出来上がった。

 明日の昼用に、半分皿に装ってラップをして置く。冷めたら冷蔵庫にしまって置こう。残りを皿に装って、夕飯にする。肉なしだが、規制のソースを使っているから美味かった。エビ餃子もおいしい。

 焼きそばと冷凍エビ餃子では料理のうちに入らないだろうが、初めての自炊は大満足だった。

 食休みをして、洗面台で食器とホットプレートを洗う。

 ホットプレートは元の箱に発砲スチロールごとしまった。

 下宿部屋が、焼きそばの臭いで充満している。換気をしたがあまり変わらない。自炊できた満足感の方が強かったので気にしない事にした。


 今夜は、週末の夜を寛いで過ごせそうだ。

 スマホでテレビ番組表をチェックする。

 チェックしながら思った。週末は時間があるのだから、番組表チェックしなくても、テレビのチャンネルを切り替えながら、見たい番組を探して行けばいいのだ。 普通の人はそうしているに違いない。私は、テレビの観方も知らなかったのだ。家事の事と言い、どこまで世間知らずなのだろうかと恥ずかしくなった。

 地上波初登場の映画を観ていたら、ドアをノックする音と「お風呂空きましたよ」の声が聞こえた。「はい。ありがとうございます」と言った。

いつもなら、すぐに風呂に行くのだが、今日は映画が終わってから入る事にした。下宿の歓迎会の時に、真夜中でも入って良いと言ってもらえたから、これくらいは大丈夫だろう。

 先は長いのだ。余り我慢はしない事に決めた。


 翌朝、アラームなしで目が覚めた。時間はAM7:30ぐっすり眠れた。やっぱり休日の朝は起きぬけの気分が良い。昨夜、炊飯器に米を水に浸し準備をして置いたので、炊飯ボタンを押して米を炊き始める。

 その間に、洗顔と歯磨きをする。

 テレビの電源を入れて、情報番組を観る。

 炊飯器から炊き上がりの音がした。後は蒸らすだけだ。

 冷蔵庫から納豆とヨーグルトを取り出す。サラダを食べようと思ったのだが、今朝は何となく、そんな気分ではなかった。生野菜は昼と夜で食べれば良いかなと思い、朝はサラダなしにする。そのかわり、昨日ヒットだと感じたわかめスープを飲む事にする。

 ご飯は、0.5合から炊けるのだが、米を少なめに0.4合くらいにして、水も少なめにしてみたが、問題なく炊き上がった。私には0.4合が調度よさそうだ。

 日曜の朝食は、ごはんもおかずも少なめで良いのかも知れない。

 今日は下宿部屋の掃除をしよう。引っ越してから一週間とはいえ、生活していれば埃もたまるし、汚れも出てくる。水周りの掃除をしなくても良いのだから、下宿部屋はしっかり掃除しようと思った。

窓を全開にする。移動できる家具は皆移動して、一通り掃除機を掛ける。それから、百円ショップで買った、使い捨ての雑巾で拭き掃除をする。畳み専用の雑巾も売っているので便利である。

 窓辺には、布団を干しておいた。

 掃除機をかけ、拭き掃除をしただけなのに、部屋がすっきりした気がする。毎日できたら良いのだが、仕事をしているとそんなわけにもいかない。実家にいるときには、平気で一カ月くらい部屋の掃除をしないことが当たり前だったのに、自分でお金を払って借りている部屋となると、きれいにしようと思えるのだから不思議である。

 家具を元に戻して、掃除終了。

 思ったほど、重労働ではなかった。これからは、日曜日は掃除の日と決めてきれいにしようと思った。

 テレビを観ながら、だらだらと過ごした。休日はこのだらだら感がたまらなく幸せを感じる。完全にオヤジ化しているし、干物女だと思うが、自分で幸せだと思うのだから、これで良いのだ。

 

 昼時になった。今日は掃除しかしていないので、あまりお腹が減らない。もう少しお腹が空いてから、昼ごはんの準備をしようと思った。時間や人に縛られず自由に食事ができる。そんな自由にまた幸福を感じた。


 昼は昨夜の焼きそばの半分取っておいたものと、生野菜のサラダを食べた。

テレビを観ていたら、また眠ってしまった様だ。昨日から、うたたねと昼寝三昧である。私はこんなに眠れる人だったのだろうか。それとも、疲れているのだろうか?

世の中、眠れなくて困っている人が多いのだから、まあいいか。眠れる時は、寝て置く事にする。ぐっすり眠れる幸福を感じた。


 日曜の午後は、見たいと思えるテレビ番組が無い事に気が付いた。ゴルフと競馬には興味がないからだろうか。

これだけ暇なら、ショッピングモールで、文庫本を買って来れば良かったと思った。

押し入れの本棚から、シリーズものの文庫本を引っ張り出し、ゆっくり読んで過ごすことにした。


 夕食の時になった。今日はぐうたらな一日なので、お腹が空かない。

 でも、なぜか三食食べなければいけない気がして、準備を始めた。

 残った食材で、クリームパスタを作った。パスタは専用タッパーを使って電子レンジで茹でた。

 生野菜を洗面台で水洗いした。

 パスタソースは、ホットプレートを使って、生野菜とベーコンを軽く炒め、牛乳とバターと固形コンソメでクリームスープを作り煮込んだ。

 まあまあの味だった。パスタって美味しいな。毎週日曜の一食は、パスタでも良いかもしれない。

  いつもの様に、テレビを見ながら食べた。洗面所で洗い物を済ませ、歯磨きをした。

 一通り洗い物を終えて、ホットプレートを片づけた。

 食後も、だらだらとテレビを観ていたら、「お風呂空きましたよ」と声が掛かった。

 すぐに風呂に入りに行った。

 初めての週末はこんな感じだった。思っていたよりのんびり出来た。

 もっとも、一番の気がかりはユリさんとのことだったのだが……。

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