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血縁より絆 ~家族より仮族~  作者: しろゆき
4/23

引っ越し作業

 カトウ家に向かって車を走らせた途中、腹がすいたのでファミレに寄ってモーニングセットを食べた。温かいコーヒーにたっぷりミルクを入れて飲んだら興奮していた心が少し落ち着いた。

 その後、一度コンビニでトイレ休憩しただけで渋滞に巻き込まれる事もなく、スムーズに着いた。

 十時には、量販の電気店と家具店に新しく買った品物を運んでもらう事になっている。家具の配置を最終確認した。

 店の配送員は、時間通り十時に来て運んでくれた。

 買った物は、冷蔵庫、電子レンジ、小型炊飯器、オーブントースター、テレビ、ベッド、ベッド用マットレス、ベッド用布団セット、ラグ、姿見、小型の本棚。

 六畳半だが、ベッドの就寝スペースとこたつテーブルのくつろぎスペース、冷蔵庫や電子レンジなどの一応のキッチンスペースに分けてみようと思った。本棚はさすがに置くスペースがなくなった。押し入れにしまう事にした。うまく家具を配置しようと格闘していたら、あっという間に夜になってしまった。

 ぐったりと疲れた。とても腹が空いた。昼飯はコンビニで買った菓子パンを食べただけだった。

 土曜と日曜はまかない食が無いので、近くのファミレスに夕食を食べに行くか、コンビニに買い出しに行こうと思っていたら、スミコさんが「今日は特別に夕食を用意しましたよ。歓迎会をしましょう」と言ってくれた。

 優しい心遣いがうれしかった。

 茶の間に入ると、夕食が用意されていた。トミオさんが笑顔で迎えてくれた。

 水炊きにお刺身、天ぷら等いろいろ料理を用意してくれた様だ。どれも家庭的な味で美味しかった。初めて家庭の温かさに触れた気がした。今朝、実の両親と絶縁して来たことが遠い日の出来事の様に思えた。

 家主夫妻と改めて、これからの話をした。

 明日の朝食から、朝夕共に茶の間に用意しておくので、下宿部屋に運んで食べること。朝食は出勤時間に合わせて準備する。夕食は帰り次第すぐに食べられる様に用意しておく。帰りの時間は、九時過ぎるようなら連絡が欲しいとのことだった。家主夫妻は、朝は早起き夜は早寝の生活だから、食事も早めに済ませてしまうらしい。

 風呂は、トミオさん、スミコさん、娘さんの順番なので、最後に私の番になる。

風呂の時間は早朝でなければ、時間を空けて真夜中に入っても良いとのことだった。

 そして、私の勤務先の営業所のことについて話をした。

 トミオさんの知り合いが勤めているらしい。

 「悪い評判は聞いた事がないから、職場環境への心配はそれほどいらないのではないか」と情報をくれた。

 スミコさんの話しでは、勤務先の辺りは食事を食べに行くところが少ないので、昼時はコンビニが激込みするらしい。不動産屋でも話したが、夕食の余り物で良ければ、お弁当を作ると言ってくれた。その分の下宿代は上乗せしないとのことだ。

 スミコさんは、息子さんが学生時代に野球部に入部していて、毎日大量のお弁当を持たせていたので、お弁当作りに慣れていて苦ではないとの事だった。ありがたい話なので、お言葉に甘える事にした。

 アレルギーや嫌いな物、食べられない物を聞かれた。特にアレルギーはないが、脂っこい物は胃がもたれるので好まない事を伝えると、ご夫妻とも年齢的に油ものは好まないので問題ないとのことだった。

 他にもいろいろ決まり事を聞いた。

 まず、ゴミ出しについて。燃えるごみは火曜日と金曜日。不燃物は木曜日。大きな不燃物を捨てる時には相談して欲しい。

 ペットボトルは、リサイクルの回収業者に引き取ってもらうので、飲み終わったら容器を水洗いしてキッチンの流しに立てかけて乾かしておいて欲しい。キャップはボランティアに寄付するので、キッチンのキャップ入れに入れて置くこと。乾電池は市では年に数回しか回収していないので、別の業者にお願いするから、乾電池入れの場所を教えるので入れて置くこと。

ゴミ出し一つで、おなかがいっぱいになるほどルールがある。

下宿するって大変だな……ゴミ捨て事情はアパートでも同じことだろうか。

他にも細かなカトウ家のルールを聞いた。細かすぎて、ゴミ出しの事以外は頭に入らなかった。

 アパートで独り暮らしなら、一人で自由にできることは多いのだろうけれど、下宿は家主のご家庭に入る様なものだ。要は居候の身だから、その家庭のルールは守らねばならない。お気に召さない事をして追い出されない様にしなくてはならないと思った。

 たっぷりと夕食をごちそうになり、お礼を言って下宿部屋へ帰った。

歯磨きをしたいと思った。

 下宿部屋からタオル、歯磨き粉、歯ブラシとコップのセットをもって洗面台へ行った。誰も使っていないので、悠々と磨く。ついでにトイレも済ませてしまおう。ここでふっと気がついた。

 トイレットペーパーは自分で用意した方が良いのだろうか?

 歯磨き粉はもちろんだが、シャンプーやボディソープ、ハンドソープ、洗濯洗剤や食器用洗剤は自分で用意したが、トイレットペーパーのことは考えていなかった。

 スミコさんからも、特別指示はなかった。勝手に使って良いのだろうか……。

 今日のところは、ちゃっかりと甘えて使わせてもらうことにした。

 明日スミコさんに聞いてみよう。勝手に使っていて気に触る事になるより、一応気にしているふりだけでもした方が良いだろう。

「下宿って本当になにかと気を遣うな……」

 不動産屋の店主が「家主は若い子より落ち着いた人を希望している」と言っていた意味がよくわかった。若い子だったら、キツイと感じで堪えられないかも知れない。

 下宿部屋に戻り、家具の配置を再度チェックした。六畳半を有効活用すると、こんなものだろう。ベッドを置かなければ広々使えるのだろうが、どうしても布団には馴染めない気がした。後は、生活してみて少しずつ使い易い様にして行くことにする。

 やっと落ち着いて、テレビを見ていたらドアをノックする音が聞こえた。

「はい」と返事をすると、ドアを開けずに

「お風呂空きましたよ」と無愛想な女性の声が聞こえた。

 私は、大きな声で

「はい。ありがとうございます」と言った

 声の主は娘さんだろうか。娘さんには、まだご挨拶していない。無愛想な声だと感じたのは、私が御挨拶に行かなかったから、気に障ったのだろうか。

挨拶の機会を逃してしまった。まずかったかも知れない。

 とりあえずは、風呂だ。

 バスタオル、寝巻、シャンプーとボディソープ、ボディスポンジ、洗顔料等風呂セットを持って風呂場へ行った。

 風呂は一般的な家庭のシステムユニットバス。バスタブはちょっと広めだ。広いお風呂は解放感がある。うれしくなった。

シャンプーをして体を洗い、湯船に浸かる。二日分の引っ越しの疲れがどっと出て来た。両腕が張っている。湯船の中でじっくりほぐした。たっぷり温まって湯船から上がった。

 下宿部屋に戻って、顔用の基礎化粧品を付けながら思った。

 洗濯機はいつ使ったらよいのだろうか?

 洗濯機は一階の洗面台の横にあった。仕事から帰って夜遅い時間帯に洗濯するのは迷惑だろう。そうなると、土日のどちらかに使う事になる。一週間分洗濯物を貯めて置くのか……それはちょっと嫌だな。臭いも気になるし、パンツの替えがなくなる恐れがある。それに夜洗うと部屋干しする事になるから、狭い部屋がさらに狭くなってしまう。

 営業所と下宿の間にコインランドリーがあった。洗濯して乾燥まですると、二時間くらいは掛かるし乾燥機で乾かすと、布は痛む。

 だが、部屋干しをしなくて済し気兼ねなく洗えて良いのかも知れない。お金も時間も掛かるが、仕事と下宿以外の行き場所を作っておくのも良いだろう。気分転換になるかも知れない。洗濯洗剤はたっぷり買い込んできたし、週に二回くらいは利用しよう。乾燥機をかけられないものだけ、洗面台で洗い、部屋干しにしようと決めた。

 生活し始めると問題点が出て来るものだな。今後もいろいろあるだろうと思った。

 明日は新しい営業所へ初出社だ。準備しなくてはならない。真新しい制服をビニール袋から出し、プラスチックのハンガーから木製のハンガーに掛け替えた。派遣社員には制服の支給が無かったので、制服を着ると言う行為だけで新鮮な気がした。

 今まで、職場では派遣期間が決まっていたから、一つの職場に愛着を持ったり、特定の同僚とあまり深くお付き合いはしない様にしていた。上手く距離感を取って淡白な人間関係を築く。これが私のモットーであった。その方が、慣れ合いになって職場が学生のサークル仲間みたいになってしまうよりも、適度な緊張感があった方が、互いの仕事のミスを指摘でき上手く行くのだ。人間関係が悪い職場なら尚更だ。仲良し子良しが好きな人には難しいかも知れないが、元々お一人様気質の私には、それくらいが調度良かった。

 しかし、今度は正社員だ。できるだけ長く働きたい。できれば定年まで勤めたい。そのためには、今までの淡白な距離感は通用しないかも知れない。

 明日は、営業所の空気を読むところから始めよう。なるべく早く、営業所の空気に馴染むのだ。

そんな事を考えていたら、眠くなった。早めに寝る事にした。真新しい布団に真新しいベッドの木の香りが心地良かった。


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