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血縁より絆 ~家族より仮族~  作者: しろゆき
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アメリカからの便り

 六月の梅雨入り前の暑い日に、ユリさん宛に養育権の裁判をしたアメリカの弁護士から手紙が届いた。

 アメリカにいる娘が、ユリさんに会いたいと言っているらしい。養育者夫妻の承諾も取れているそうだ。弁護士は、娘に出生の真実を話して欲しいとのことだった。

 ユリさんはうれしそうに目を輝かせていた。会いに行く決意をしたようだ。

 その日から、ユリさんはアメリカ行きの準備に、精力的に動き出した。英会話教室に通い始めた。ネイティブな英語を話す教師と会話をして、英語耳を取り戻すのだそうだ。

 娘に沢山お土産を持って行くのだと言って、日本の欲しいものリストをメールで送ってもらい、買出しに走りまわった。まるで、二十年近く引きこもっていた時間を取り戻しているかの様だった。

 週末、私はユリさんに誘われて、娘さんへのお土産を買いに東京へ行った。

 ユリさんは「東京なんて、いつ以来だろう。お江戸に行くんだから興奮しちゃうよ!!」と言って、出発前から超ハイテンションだった。

 娘さんは、アニメのドラゴンボールとワンピースが好きらしい。駅の地下街で、ワンピースのグッズを沢山買い込んだ。

 ランチは、せっかく東京に来たのだから、都会でしか食べられないものにしようと言って、丸ビルに入っている、オーガニック風なパスタとケーキのお店に行った。パスタとケーキのランチセットを注文した。値段は田舎とそんなに変わらないのに、お上品で特にケーキの味は抜群に美味かった。

 浅草に行き、外国の人が好きそうなザ日本的なお土産物を探して歩いた。漢字が大きくプリントされているTシャツと、浴衣と帯のセット、恋愛運が上がると言う女の子が好きそうな桃の形をしたお守りの鈴を買った。

歩き疲れて、スターバックスで一休みした。

「留学する時も、こうやって東京に日本土産を買いに来たんだ」とユリさんが言った。

「母親と二人でさ、まだ会ってもいないアメリカの友達に、扇子とか風呂敷とか北斎のポストカードとか沢山買い込んだんだ」と言った。

「やっぱり、アメリカの人の日本のイメージって、そんな感じなの?」

「そうでもなかった。私が行った大学は、沢山日本人を受け入れていたから、そういうものに慣れ過ぎていた。あまり喜ばれなかったな。唯一喜んだのは、私の娘の父親だけ」

「そうだったんだ」私は娘の父親と行く言葉に妙な緊張を感じ、何を話したら良いかわからなくなった。

「気を遣わなくていいよ。アメリカに行って、今までの疑いを晴らして、最愛の娘に会って来るんだから」とユリさんは笑って言った。

「そうだよね。でもユリさん急にたくましくなった。男前になったと言うか、母は強しって感じかな」

ユリさんはとてもうれしそうに笑った。

「どれくらいアメリカにいるの?」

「わからない。とりあえず、ホテルに滞在することになっている。宿泊代は、すべてあちらが負担してくれるみたい」

「そうなの?」

「飛行機代も食事代もね」

「なんだか、VIP待遇だね」

「それくらいして貰っても、罰は当たらないでしょう」

「確かに、それはあるね」

「それより、ドラゴンボールのマンガ、全巻持って行きたいんだけど、無謀だと思う?」

「娘さん持ってないの? 英語版も出版されてたよね?」

「日本語版が欲しいんだって」

「そうなんだ。でも、あれって三十巻以上あるんでしょ? 持って行くのは無謀じゃない? 先に送れないの?」

「土産なんだから、持って行くのがいいんだよ」

「それなら、専用のスーツケース買った方がいいかもね」半分呆れて、冗談のつもりで言った。

「それ良いかも!! 持って行くスーツケースもう一個増やすよ。どうせ他にも買った土産もあるし、土産用スーツケースを買おう」とユリさんが言った。

もう一度駅の地下街に戻り、ピンク色の桜が舞う、外国の人が見たらザ日本的な感じの柄のスーツケースを買った。念の為に、買い込んだ土産を入れてみたら、今日買った分でいっぱいになってしまった。既に買いこんである土産とマンガを入れるために、もう一つ同じ柄のスーツケースを買った。

 ユリさんと私は一つずつ、スーツケースを転がしながらカトウ家に帰った。

「今マンガを買うと、持って帰るのが大変だから、家の近くで買おうね」と 私は言った。

「わかっているよ。そこまで馬鹿じゃないから!!」とユリさんは言いつつ笑っていた。

 カトウ家に帰り着くまで、ユリさんの超ハイテンションな状態は続いた。

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