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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

壊れた指輪

作者: 翔子
掲載日:2014/09/21

さて、まずは出会いから始めようかな。


何を隠そう、とある盗賊クランの代表であるヨシュアとは私の恋人さんである。しかもメンバー公認らしい。会ったことはないけれど何故か一方的に知られているらしく、多分というか絶対ヨシュアが話してるんだ。じとり睨んでやったことは記憶に新しい。ヨシュアはどこ吹く風で、自慢したいんだなんて笑っていた。一般人にしても一般人過ぎる私の自慢も何もないだろう。けれどヨシュアは、俺達は普通ではないから、普通であるお前の話や行動は見ていて楽しい、ときた。私はおもちゃか!と突っ込んだら人間だろうと返ってきた。結構な真顔で。何だか分からなくなって黙りこんだらヨシュアは体を震わせた。笑ってやがるこの野郎。


おっといけない。出会いから始めるんだった。それでは気を取り直して。



私とヨシュアの出会いは街の本屋。

なんとなく興味を惹かれ手に取り会計を済ませた本が、彼はどうしても欲しいんだと言った。私は本が好きだが、読書家だ活字中毒だなんて大きな声で言える程飢えてもいない。たまに本が読みたいなぁと思う程度だったので、快く譲った。譲らないとどうなるか分かってんのかアァなんて雰囲気を、その美しい笑顔の下に感じたなんて勘違いだろう。うん。にっこり笑ってくれた彼を恰好いいなぁなんて思っちゃったりしたけど、なんとなくの違和感はあったから、これ、と渡された通信石を使うつもりなんてなかった。

何か困ったことがあれば連絡してくれていいよ。一度だけ、力を貸してやる。そう言って彼は去っていった。渡された通信石は相手先固定の使いきり。力を貸すって。一体何してる人なんだ。本を譲っただけでこんな…あ、そう言えばお金………。何だか騙された気分だ。通信石を鞄に突っ込んで(何気に高価な通信石をそこらに捨てられない)家に帰った。





連絡する気など、無かったのだ。本当に。





けれどその日から幾日も経ったある日。

忘れ去っていた、鞄に突っ込まれた通信石を握り締めた。





「あの!す、すみません!聞こえてますか?!」

『………誰だ』

「私!いつか、マーク=トレンジャー著の沈黙という本を譲った女ですが!」

『……あ』

「覚えておいでですか!ついでに力を貸してくれるという言葉も覚えてますか?!」

『思い出した。それで、どうした』

「す、すぐに家に来てください!助けてください!」

『…分かった』





気が動転していて家の場所なんて伝えていないことすら忘れていた。けれど数十分後にはヨシュアは私の家にいて、何とも不機嫌ですという顔をしながらローチ退治に勤しんだ。(どこからか溢れ出てくる黒くて不気味な家庭の害虫)






「どうもありがとうございました…!!」(晴れやかな笑顔)

「……まさか俺に虫退治をさせようとはな。怒りを通り越して笑えてきた」

「…あの、顔は笑っていませんが」

「そうか?俺は今、この上なく楽しい」





ふっふっふ…と笑う彼はまるで悪魔の様でした。


そんな出会いを経て、どうしてだかヨシュアと私は頻繁に会うことになった。街で並んで歩き、食事をしたりフラフラと店を冷やかしたり。(大抵本屋)

呼び方が、ヨシュアさんからヨシュア、に変わったのもこの頃。

2人で歩いていたのを知り合いにみられ、恋人なの?!と鼻息荒く聞かれたこともあるが、好きだの嫌いだのの言葉を交わしたことはない。でも、嫌われてはいないんだろう。少しずつ分かってきたヨシュアのこと。驚くほどの執着心と対極に位置する無関心が織り交ざっているような男だ。執着しているように見えて、心の奥底では無関心。そんな感じ。一体何が楽しいのだろうかと、なんとなしに聞いてみたら、きょとんという顔をされて、分からないと返ってきた。まぁ自分のことなんて分からないよなぁと小さな呟きで返したら、ハルといるのは楽しい、と思う。なんて曖昧な言葉が返ってきた。言った傍から首を傾げている。どうやら【楽しい】という言葉に違和感があるらしい。



そんな曖昧な関係を続けて1年経った。ふとした拍子にキスされて。そのままベッドになんて流れも増えてさらに1年。ヨシュアと出会って3年が経った今、私はヨシュアをクラッカーで出迎えた。これは町で配られていた試供品。一度引くだけであちこちからクラッカーが鳴らされているように音がでる代物で、一人で出迎えても複数がいるように感じます☆なんて、かなり寂しい売り文句がついたものだ。思わず受け取った試供品。とりあえず使おうと思い立ち、そう言えば今日で出会って3年経ったな。丁度いい記念日だと、扉があく瞬間にクラッカーの紐を引いた。久しぶりに見た。あんなぽかんとした表情。




「…………何だ」

「いや、今日で出会って3年の記念日?だから。貰ったの、このクラッカー」



思ったよりも音がでかい。ぱらぱらと飛び散った色とりどりの紙は想像以上に大量で、掃除するのも大変だと思った。ヨシュアはずっと無言でいる。怒ったのだろうか?いやこんな些細なことでは怒らないはずだ。首を傾げる。ヨシュアはまだ無言。そのまま手を引かれ中に入った。どうしたんだろうか。

ソファに促されて、ヨシュアもテーブルを挟んだ向かいに腰を下ろした。




盗賊クランの代表だと、その時初めて教えられた。聖絶なんて名前の、大いに恐れられている盗賊クラン。最近大きく取りあげられていて、極悪非道だとか残虐だとか、そんな言葉がそこかしこから聞こえてくる。犯罪者だ。凶悪な。ぐるぐると頭を巡る。ごくり、喉がなった。





「3年、も、共にいた。俺はこれから先、お前と離れる気はない。」




じゃあなんで言ったの。

私は知らなかった。考えもしなかった。どうして。何も言わずにいてくれれば。





「――言いたくなったんだ。お前に。」





自然に涙が零れた。ぼろぼろと、頬を伝う。ヨシュアがテーブルを乗り越えた。ハル。耳元で聞こえる声に目を伏せた。

悪かった。続けて聞こえた声に首を振ろうとして、出来なかった。俺は離れたくないが、お前が嫌なら、俺は出ていく。


スッと離れていく。私は咄嗟に服を掴んだ。力なんて欠片も籠っていないけど、ヨシュアはちゃんと止まってくれた。



3年。

これが短いか長いかは人それぞれだと思う。


けど、私には十分だった。


ヨシュアへの想いが育つのに、十分だった。




聖絶、盗賊、凶悪クラン。そんな言葉がぐるぐる頭を巡って。巡りに巡って、でも最終的に行きついたのは怪我しないで。だった。

怪我しないで。死なないで。そんなことが口から零れた。死んでしまう時は私も連れてってよ。置いて行かないで。

ぎゅうと服を握った手に力を込める。その上に大きな手が重なって、そのまま強く引かれた。引っ張られる先は寝室で、ちょっとそれは流石に情緒がないと抵抗したけれど、仕方ないだろうなんてヨシュアが笑うから。仕方ないのかぁと私も笑った。曖昧な関係から恋人関係に昇格した夜。









その夜から更に2年が過ぎた現在。私は自殺の準備をしている。

理由は簡単。指輪が壊れたからだ。もうちょっと詳しく説明すると、ヨシュアが死んだ時にしか壊れないはずの指輪が壊れたからだ。それはもう見事に真っ二つ。


やる。そんな短い言葉で渡された指輪に期待しない程心は枯れていない。うわ、と頬を染めたところでその指輪の役目を知り、うわ、と先程とは違うトーンの声が漏れた。

俺が死んだら壊れる。俺と離れている時に壊れたら、その時はお前は好きにしろ。そんなことを言うから、壊れたら私は後追い自殺をしてやるわ。そんなことを言った。言った。だから今、私は天井から、先を輪にしたロープを垂らしている。


ここに至るまでに、いろいろ考えたのだ。指輪が壊れた。ヨシュアが死んだ。あ、私も死ななきゃ。どうやって?えっと、刃物、首つり、魔物に食われるのもあり?手段が浮かんで消えて浮かんでぐるぐる。一番手っ取り早くて準備も簡単で一度やったら後戻りできなくて、出来るだけ人に迷惑をかけないもの、と考え消去法で首つりに決定した。あ、でも首つってなくなると、体中の穴という穴からいろいろダダ洩れてしまうということを聞いたことがある。そんな姿を見せたくない。







あ、でも。





もう、ヨシュアはいないんだ。






じゃあいいか。どんなみっともなくて汚い姿でも、一番にみられたくない人はもういない。いない。いない。

ポロリ、涙が零れた。ヨシュア。私もいくから、そっちでまた会えるといいな。そっちってどこだろ。死ぬのに意識があるなんて可笑しいよね。正教会に寄付してれば死んでも女神のもとへ行くらしいけど、ヨシュアは絶対無理だよね。だから私もそこにはいかない。いけないよね。



縄の先の輪を首に通した。あとは椅子から飛び降りるだけ。不思議なことに、躊躇いは微塵もなかった。






しかし、片足を動かそうとした時いきなり扉があいてヨシュアが飛び込んできた。えぇ、と驚いて思わず椅子から滑り落ち、縄が首に食い込んだせいで、ギャエなんて摩訶不思議な声が出た。苦しいと思ったすぐ後には息が吸えるようになったけれど、思い切り抱きしめられているせいで肺辺りが苦しい。ちょ、苦しい!



「っ、ヨ、ヨシュ、ア、苦しい…」

「黙れ」

「…え、何で肩で息してるの」

「黙れ」

「………あの、髪、凄い乱れようだけど」

「ハル、」










「だ ま れ」

「はい」











体を動かすなとは言われなかったから、両腕だけを解放する。そして少し迷ってヨシュアの背に回した。私の体に回っているヨシュアの腕はさらに力がこめられて。




「粗悪品だった」

「え、」

「マーキーのデコピンで壊れた。まさかのデコピンで。デコピンで」

「で、デコピンで…」

「ひょっとして勘違いして死ぬんじゃないかと思って来たら、案の定だ」

「う、だって」

「だって何だ。大体男が死んだくらいで死ぬ奴があるか、この馬鹿」

「男じゃないよ。ヨシュアだよ。でも自分でもびっくりした。簡単に死のうと思えたよ」

「馬鹿が。大体お前は簡単に割り切り過ぎなんだよ。もっと粘れ」

「そんなこと言われても…」

「お前は自分のことに関してはムカつくほどドライだな。治せ」

「治せって言われて治るもんじゃないよ…」

「俺の為に治せ。これは?」

「……うーん、頑張れる気がしてきた」

「よし」




ねぇヨシュア。もう物とかいらないから、もし死んだら化けてでてきて。で、連れてって。

分かった。俺が化けてでるまで死ぬな。




そして今日も、私はヨシュアの隣にいる。

とある世界のとある盗賊クランのメンバーは代表含め13人です

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