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お坊っちゃまは末っ子次男  作者: みやきみつる
7/11

龍角楼

亮は実家の駐車スペースに車を停めた。四台はおけるスペースがある。


素奈子を待たせているが、実家に住んでいる、お婆ちゃんに声をかけておくことにした。


鍵を開けて家の中に入ると「ただいま」と大きな声で叫ぶ。


居間に行くと、亮の祖母がが台所から顔を出した。


「あら、亮…何しにきたの?」


「今日、休みだったから…」


「遊びにきたの?」


「そう」


「ひとり?」


「そうだよ」


本当は一人じゃないけど、お婆ちゃんに素奈子のことがバレると厄介なので、黙っておいた。


「メロンあるよ」


「メロンはいいよ、それより元気?」


亮の祖母はニコニコするだけで、応えない。


「店を見てくるから、車、駐車場に停めてるよ」


車を停めるときは、縦列駐車になるので、声はかけておくのが決まりだった。


「大福あるよ、コーヒーも飲んでいきなさい」


大福にコーヒーは意外と合う。魅力的だが、流石にそんなに、のんびりはしていられない。


「いいよ、ちょっと急いでるから」


「誰かと一緒なの?」


するどい。


「彼女?」


「ちがうって! もう行くよ!」


すぐ嘘がバレるな…。


亮が家を出ようと靴を履いていると、祖母は玄関まで出てきて、亮を見送った。



********


亮に言われて、素奈子が店の前に突っ立っていられたのは、僅か三分だった。


中華街なので、周りも中華料理店ばかりだ。


素奈子はふらふら歩いて、両隣、お向かいの店を見て回り、店の前に出ているメニューを食い入るように見る。


お料理の写真は、見ているだけで楽しい。


広東料理、四川料理、上海料理、北京料理。


どんな味がするんだろう?


「行きましょうか」


素奈子が振り返ると、亮が立っている。


亮はスタスタ歩いて、お城の門みたいな入口の前まで来ると、振り返って素奈子を見た。


素奈子は、そんな亮の後を追いかけるようにお店の中に入った。



********


亮は店に入ると「お疲れ様です」とか「お帰りなさい」などと声をかけられ、声をかけた従業員、全員とひと言ふた言、言葉を交わしている。


威風堂々とした態度の、亮の後ろをついて歩く素奈子。


「いらっしゃいませ」と声をかけられ、素奈子は「お疲れ様です」とあちこちに、頭をひょこひょこ下げる。


鼠色のスタンドカラーのシャツ、黒いパンツに黒いエプロンを腰に巻いている、年配のウエイターが素奈子に「新入社員ですか?」と聞くと、


「アルバイトです」


と素直に答えた。


亮は素奈子をカウンターの席に座らせて、自分も隣りに座る。


「昼は、まだでしょ?」


あ、ホントだ。


素奈子はお昼ご飯を、食べてなかったことに気がついた。


「はい」


「何、食べる?」


「社長のオススメ何ですか?」


「ランチメニューありますよ?」


オススメを聞くと、亮はランチメニューを素奈子に見せた。


ランチメニューは週ごとに、変わるコースメニューと書いてある。


ランチでも、けっこうお高い…こわい。


ていうか社長がこわい。


「これ割り勘ですか?」


隣りに立っていた、ウエイターの表情が凍りつく。


「いいえ」


亮は静かに答える。


「ランチ、お願いします…」


「ランチ二つ」


注文を受けたウエイターが去ると、素奈子は、


「高級なお店ですね、こんなところ初めて来ました」


と言って、亮に向かって微笑む。


「じゃあ、中華街も初めて?」


「はい」


「うちの店は、もともと、この1店舗だけだったんだ。父の代では広東料理の店だけだったけど、私が事業を起こしてからは、新しい業種も始めて、少しづつ大きくしてったんだ」


へえ、全然知らなかった…。


「あの…業種って何ですか?」


「ラーメン屋とか居酒屋とかの区分だよ」


「へえー、事業を起こすっていうのは、社長が社長になったてことですか?」


「うーん、もともとは父が経営してた会社を継いだわけだから…そうなるのかなあ」


実際は事業を起こすことで、経営を拡大したわけだが、亮は説明をするのが面倒臭くなって、曖昧に答えた。



料理がが運ばれてくる。


前菜、スープ、メインが二品…。


素奈子は料理が出てくるたびに「これ美味しいですね」を連発して、大喜びだ。


その横でとくに相槌を打つわけでもなく、でもニコニコしながら亮は静かに料理を口に運んでいる。


美味しいなら、よかったよ…。


「亮、何しにきたの?」


デザートを運んできたのは、本店の料理長を務める、亮の兄だ。


「暇つぶしだよ」


常栄家の長男を見て、素奈子は目を丸くする。


「あっ!」


テレビで見たことのある人だ…。


何?


という感じで素奈子を二人が見るので、素奈子は「なんでもないですっ!」と言って誤魔化した。


全然、知らなかった…。


亮は素奈子に料理長を兄だと紹介する。


常栄(こう)は亮にあまり、似てない。長身で目が丸い。似ているところは、瞳が黒いところと、顔の形くらいだ。


孝はサービスだと言って、二人にに特別なデザートを出してくれた。


ココナッツ味の焼プリンだ。


素奈子は「ありがとうございます」と言ってスプーンですくったプリンを食べる。


亮も初めて食べるものだ。


二人が美味しそうに食べるので、孝は満足そうに二人の姿を見ている。


食べ終わった亮は「美味しい、これはいいね」と感想を述べた。


亮は立ち上がると、孝と二人で厨房に入る。


取り残された、素奈子は焼プリンを食べながら、亮を待つことになった。


挿絵(By みてみん)

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