告白
「うーん、その人…やめたほうがいいんじゃない?」
素奈子は同級生の麻衣と聡と一緒に学校近くのフターバックスに来ていた。
最近元気のない素奈子を、心配した二人が誘ってくれたのだ。
「うーん…」
「新しい出会いを求めたほうがいいよ」
麻衣が言う。
「もっとさあ、素奈子のことを好きになってくれる人と、付き合ったほうがいいって!」
聡が言う。
「合コンとか参加してみたら?」
「出会い系サイトとかもいいよ、友達も使ってるって言ってたし」
「ちょっとー、出会い系はヤバイでしょー」
「そう? だって素奈子はエッチする相手もいたほうがいいよー」
「そんなところじゃなくても、出会いはあるよ! 素奈子、一人旅とかもいいよ」
麻衣と聡がどんどん言う。
「一人旅って…温泉?」
「ババアかよっ!」
麻衣が突っ込む。
「いいじゃん温泉、女一人よりもさあ、女二人のほうが、男も声かけやすいよ。二人で言ったらいいじゃん」
「えー、じゃあレンタカー借りてさあ、聡が運転してよ。三人で行こうよ」
「うん、それでもいいよー」
「ね、素奈子、そうしよー」
ひどい…。
「二人ともひどいよ…少しは私の気持ちも考えてよ」
「だってさあ、無理だってえー」
「俺も、もっといい人いると思うんだよねー」
「ほかの人も見て、気が合う人と付き合ったほうがいいよ」
「ほんっと、そうだよ」
ひどい…(涙目)
「でも、私と付き合ってるって思われても、迷惑じゃないって言ってくれたし…」
「うーん」
「とりあえず、今よりももっと、仲良くなりたいの」
「うーん」
素奈子は泣きそうな顔だが、二人はどうしても、素奈子の恋を応援する気持ちにはなれない。
社長に翌朝メールを打ったら、(風邪は良くなりました。食べるものはあります)と返事があって、それだけだった。
素奈子には二人の言うことは、もっともなことのようにも、聞こえる。
だから尚更、泣きたくなるのだ。
素奈子はか細い声で
「私、可愛くなかったのかな? アパートに来てくれたときも、ショーパン履いて頑張ったのに…」
と言ってることが変だと自分でもわかっているが、止まらなくなっていいつづける。
「社長に好かれてないんだ…私」
二人は困惑の表情で、黙って素奈子の話を聞く。
「私って…魅力的じゃないんだ…ブスなんだ…」
二人が否定しないので、素奈子はさらに落ち込む。
両方の手のひらで顔を覆って、素奈子は俯く。
わーん。
涙目の素奈子は心の中では大泣きだ。
「とにかくさ、合コン行こっ!」
「俺、セッティングしてあげるよ」
「元気出して、素奈子」
そんなこんなで、素奈子は人生初の合コンに参加することになった。
******
「社長、私、土曜日合コンに行くんです」
帰ろうとする社長を呼び止めて、素奈子は合コンに行くことを伝える。
「……おめでとうございます。たしか、初めての合コンですね。頑張って下さい」
「私…社長のことが好きなんです!」
モップを持ったままで素奈子が告白したので、亮は可笑しくなった。
「どうも…(笑) 」
亮は微笑みながら「お疲れ様です」と言い、素奈子の前を通り過ぎる。
「好きー…です!」
素奈子は亮の背中に向かって、もう一度、気持ちをぶつける。
「はい」
亮は笑顔で振り向いて、素っ気ない返事を返すと、そのまま立ち去った。
どうも。
はい。
(好きでいても、かまわないよ)ってことかな…。
……………そんなことないか。
麻衣と聡の顔が脳裏をよぎる。
「いい人はほかに、いるよー」
「出会い系サイトを使えよー」
ついでにウシタウマコ(牛田紅葉)も!
「身分相応なのと付き合えー!!」
三人の言葉が重なる。
「常栄亮は、あんたには無理よ(無理だ) ブスだから!」
ブスだから
ブスだから
(ブスだから)が脳内にこだまする。
う〜。
素奈子は葉を食いしばって、泣きそうなのを我慢したが、目尻から涙が溢れてこぼれた。女子トイレに隠れてひとしきり泣いた。
村田は別の階にいるのだろう、姿が見えない。
素奈子は涙を拭って、村田に泣いたことがバレないように、カバンに常備しているマスクを付けて、赤くなった鼻を隠した。