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お坊っちゃまは末っ子次男  作者: みやきみつる
10/11

風邪

素奈子は腕時計を見た。


あと20分で仕事が終わる。


デスクが並ぶフロアは、照明を消してあるので、暗く奥の方は、まったく見えない。


社長は今日も会社に残って、社長室にこもっている。


ドライブした日のことを思い出す。


(そうでもないよ)


きゃー。


思い出すと顔が火照る。


素奈子は掃除道具を、いつもの場所に片付けようと振り返ると、


「わっ! 池山さん…」


素奈子の後ろに池山が立っていた。


池山さんは…まだ謹慎のはずだけど…?


「池山さん、まだ謹慎中じゃ…」


「忘れ物をとりに来たんだ…」


「そう…ですか」


「そう…僕の忘れ物は、君だよ…」


素奈子は茫然として声をなくす。


「苦しまないで死なせてあげる」


池山は取り出した、ロープを左右に引っ張り、ニヤリと笑った。


瞬間、素奈子は身体を旋回させながら、池山のみぞおちを、右足の踵で蹴る。


みぞおちに後ろ回し蹴りをくらった、池山は勢いよく吹っ飛んで、壁にぶつかり、床に積んであったゴミの山の上に落ちた。


大きな音で気がついたのか

、社長室から亮が飛び出してくる。


変な姿勢でゴミ袋の山に埋れている池山と、その前に悠然と佇んでいる素奈子を見て、


「こらっ! 会社でケンカはやめなさい!!」


と怒鳴った。


「ゴミと一緒に燃やされろ〜」


いつの間に、そこにいたのか村田が革靴の爪先で、池山をつついている。


亮はため息をついて、素奈子を見た。


「平気ですか?」


「はい…」


素奈子は照れたように、微笑んだ。



******


木曜日。


素奈子はビルを出て村田と別れたしあと、会社近くのコンビニに向かった。


コンビニで通販の代金を払うためだ。


支払いを済ませて店から出たところで亮にばったり会った。


「社長もコンビニ来るんですね」


「うん」


「お家、この近くですか?」


「うん」


「……」


どうしたんだろう?


「社長? 大丈夫ですか? 顔色、悪いですよ…」


「ちょっと風邪ひいちゃってね…」


あっ、そっか…。


「コンビニ弁当ですか?」


「そう…」


亮は喘ぐように返事をして、うなだれている。


社長、苦しそうだ…。


「社長! 私にご飯を作らせて下さい!」


素奈子は亮に詰め寄り、その腕をがっちり掴む。


もーう、勘弁してくれよー。


亮はさらに、ぐったりとして、うなだれる。


弁当を買いに来ただけの亮は、結局、買い物をして素奈子を家に連れて帰ることになった。



******


わ! 思ったよりも、こじんまりしてる…。


素奈子は亮のマンションの部屋に、入れてもらい視線をキョロキョロと動かす。


「社長、寝ていて下さい。すぐに準備しますから」


「うん、あと水ちょうだい…」


「はい」


素奈子はコンビニで買った、ミネラルウォーターを渡す。


亮はキッチンからベッドのある部屋まで、移動すると服を脱ぎ捨てた。


キッチンは綺麗でやかんも見あたらない。洗った食器がカゴに置いてあった。


素奈子はコンビニで買ったキムチで味噌煮込みうどんを作る。


どんぶりはキッチン下の収納スペースから見つけた。


「うどん出来ました」


「ありがとう」


素奈子がうどんを持っていくと、亮はTシャツと派手な柄の膝まである短パンに着替えていた。


亮は暖かいうどんを、低いテーブルの上に置いて食べる。


「その格好、寒くないですか?」


「いや」


「風邪を引いてる時は、体を暖めたほうがいいです」


わかってるよ…。


「エアコンつけてないから、大丈夫だよ」


夏だし。


うどんを食べる亮の額に汗がにじむ。


素奈子は用意していた、自分の分の味噌煮込みうどんを持ってきて食べる。


一緒に、食べるんだ…。


亮はうどんを食べ終わると、錠剤の風邪薬を水で胃に流し込む。


「電車大丈夫?」


「はい、大丈夫です」


「ふーん」


「社長、横になってて下さい」


えー…。


「早く食べなさいよ、あなたが帰らなきゃ、おちおち寝てもいられないでしょ」


素奈子は一瞬、動きを止めて亮をみると、何かに取り憑かれたかのように、一心不乱にうどんを食べはじめた。


素奈子が完食すると、亮は「お疲れ様です」と言って玄関で素奈子を見送り、ドアを閉めるとすぐに鍵をかけた。



******


マンションを約30分で追い出された素奈子は、トボトボ駅に向かって歩いた。


現実はマンガのようにはいかないんだ…。


途中ヤンキーのお兄さんに声をかけられた素奈子は、それを無視して歩いた。


私、社長に好かれてないのかも…。


そう思うと、胸がチクっとした。

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