エピソード1-2:目標を定めよう~その1~
~前回までのあらすじ~私は稲田ちよ子、70キロ、痩せたい女子高生。憧れのまさる先輩に、中学時代に受けたいじめの傷を見せた…額に書かれた“肉”の文字。当時不登校になった私は、ネットゲームでひとりの男の子と出会い、励まされ、高校にも通えるようになった。会いたいと望む彼に応えたいけれど、姿を知られたくない私は戸惑っていた。
「もうこれ以上、断れそうにない。それに私も彼に会いたい!だからお願い! どうか私に痩せ方を教えて!」
エピソード1-2目標を定めよう、その1
先輩はいきなり私を抱きしめた。
「わかった、もう良い。俺に任せておけ。俺がお前を痩せさせてやる、俺のトゥルース・ダイエットで。」
私は目を大きく見開いて、先輩の力強い腕の中に抱かれた。
(これできっと大丈夫、私は痩せられる。)
だけど、そう簡単に運命は私を痩せさせはしなかった。
私は私に降りかかるのり○まふりかけの雨に気がついた。
「味の悪い、食べられないご飯にはのりた○が一番だから、売れ残りのブサイク女には、お似合いかと思ったのだけれど、確かにお似合いね。アハハハハ。」
香ばしい、匂い。
そこにいたのは、天照マリアだった。
私はおののく。
「家畜の分際で、マサルから早く離れなさい。匂いがうつるわ!」
私はマリアをにらみつける。
そして私は見た。その圧倒的なスタイルを。
豊かな胸、彫刻のように削られた腰のくびれ、きゅっと上がった尻。
そうだ、これが人間だ。一方、私は・・・。
「ぶひ、ぶひぶひぶひー!」
私は泣きながらイケ先輩を突き飛ばすと、家へ、いいえ豚舎へ駆け出した。
後ろで先輩の困惑の声と、マリアの高笑いの声が聞こえた。
◆
(いつか、王子様が。)
それでも私は夢を見た。
千葉にあるにもかかわらず東京を名乗っているネズミがメインキャラクターのテーマパークの、おとぎの城の前で、私は心だけはプリンセスのような気持ちで、ふりふりのドレスを着て待ち合わせをしている。
(タケル君。そう、私の王子様が、お姫様である私を迎えに来る。タケル君なら、こんな私でも愛してくれる。)
あれから。
マリアさんは決して私にイケ先輩を近づけさせなかった。
まあそうだろう、彼女にとっては私はイケ先輩の浮気相手に違いないから。
そうして私は痩せられず、そのままネットゲームの恋人とリアルで会う日を迎えてしまった。
私はコンパクトの鏡で自分自身を見る。
どうだ、この豚に真珠なレースのふりふり衣装。まだリアルな子豚に着せた方がましだ!
それに白米に梅干を乗せたようなメイクよ。まるでピエロだ。
ああ、それなのに、それなのに、来てしまった。ここへ、約束の指定された場所へ。
東京○ィズニーランド、おとぎの城!
だって、彼は指定したのだもの。この場所を。
もしかしたら夢見がちな男子高校生タケルの夢を、私は悪夢に変えるかも知れない。
それでも私は切ない乙女心で、かすかな希望を夢見てしまったのだ。奇跡の魔法を。
信じれば夢は叶うとCMで言ってた! そう、この場所ならと。
私はそう願ってやまなかった。
おおらかな心で、許してくれる、友達にはなれるさ、と!
そうして、私の王子様はやって来た。驚くべき、姿で。
「アナタガ、チヨコサン、デスカ?」
私は目を疑った。
そこにいたのは、黒人の少年だったからだ。
黒いくりくりの天然パーマをして、詰襟の学生服のボタンをきっちり一番上まで留めている。そのとなりには白人のメイド姿の女がいて、エプロン姿で電卓を片手に、眼鏡を持ち上げて私を品定めしている。
「お前こそ、誰だ。名を名乗れ。」
「タケールです!」
自分を偽っていたのは、私だけではなった。
___続く。