エピソード1-1:強い意志~その3~
~前回までのあらすじ~私は稲田ちよ子、70キロ。痩せたい女子高生。憧れのまさる先輩(本名、江藤まさる)の彼女に部屋を追い出された私は、夜の公園で泣いていた。すると先輩が私を探しに来て…いつしかそこはカオスダイエットの講義の続きのようになっていた。
「「目的」の為ならどんな努力も惜しまない! 犠牲もいとわない、絶対やりとげる!お前に、そんな強い意志があるか?あるなら、俺にそれを見せてみろ___。」
エピソード1-1強い意志~その3~
「あるわ!」
私はイケ先輩の目を見ると立ち上がる。
そして私は額を隠していた前髪をかきあげた。
イケ先輩の顔が、私の顔に息が届く位置まで近づく。
やばい、妊娠しそう!
「___傷?」
先輩は私の額の傷に、細い白い指先でそっと触れる。
「私、ね。昔は全然太っていなかったの。
でも、中学に入ってすぐの時、クラスの男子からいじめられて。
ブス、汚い、近寄るな、って。
最初は言葉じゃなくて、態度。
でも、最後はクラス中が彼らと一緒になって、公然と私をゴミ扱いした。
それ以来、私は自分が恋愛をする資格などない、醜いあひるだと思い込んだ。」
私は、美しいイケ先輩の顔を羨ましそうに眺める。
「だったら、もう痩せていようが太っていようが関係ない、恋愛以外の喜びの全てを手に入れるわ。
私は食べ物でストレス解消をするようになった。
ケーキにとんかつ、ラーメンに菓子パン。スーパーが半額になる時間を狙っては、山のように惣菜を買い込んで、腹に詰め込んでいく。
可愛い女の子達が男の子達にちやほやされるのを恨めしそうに眺めながら、その決して埋まらない心の隙間を食べ物で埋めた。」
私は前髪を手でかきあげて、傷を指で示しながら言う。
「そうしてさらに家畜のようにどんどん醜く太っていく私を、いじめっ子達はブタと呼んで笑いながら、ぶひぶひとベルトで鞭打ったわ。
そしてある日のことよ。彼らは私を羽交い絞めにすると、ボールペンで、泣き叫び抵抗する私の額に、血を滲ませながら、こう書いたの。
“肉”と。
これがその時の傷跡。」
イケ先輩が目を丸くして私を見る。
「それ以来、私は不登校となって、家に引きこもった。
もう誰にも会いたくない・・・、死にたい・・・。
そんな時、暇つぶしに始めたのが、ネットゲームだった。
ネットゲームって面白くて。
ゲームだから、外見は自由。
こんな私でも可愛い女の子を演じることが出来る。
仮想の恋人を作ることだって出来る。
そうして、出会った一人の男の子がいたわ。
私と彼は仲良くなって、ゲーム内でパートナーになった。
お互いの話をよくするようになって、私はいじめられていたこと。家に引きこもっていることを話した。
彼は私を励まして、私に高校からもう一度、学校へ行く勇気をくれた。
そうして友達も出来て、先輩にも会えました。」
私は泣いているような顔で笑う。
「でもね、彼私に会いたいって言うの。
高校生になったんだから、私とリアルで会いたいって。
私、何度も何度も断ったわ。
だって彼は私がこんなにデブだって知らないもの。
でも、男の子だもん。女の子といちゃいちゃしたい年頃なの。
もうこれ以上、断れそうにない。
それに私も彼に会いたい!
あの時狂ってしまった私の人生を、もう一度やり直したい!
女の喜びが知りたい!」
私はイケ先輩にすがりついた。
「だからお願い! どうか私に痩せ方を教えて!」
深夜の公園に、私の渇望の叫びが響き渡る。
___続く。