エピソード1-1:強い意思~その2~
~前回までのあらすじ~私は稲田ちよ子、70キロ。痩せたい女子高生。憧れのまさる先輩(本名、江藤まさる)の部屋で二人きり、真実のダイエット法『カオスダイエット』を学んでいた。と、そこに現れたのは、先輩の彼女・天照マリア!「豚小屋にお帰り、メス豚。」私は泣きながら部屋を逃げ出した。後ろで、マリアの高笑いが聞こえた。
エピソード1-1強い意思~その2~
私は夜の公園で、座り込みとんかつを咀嚼しながら、泣いていた。
だが体が重く、ずっとしゃがみ込んでいるのは辛い。いそいそと空いているブランコに座り直す。
そこへ、先輩が私を探しに来た。
「どうして? 彼女、ほっといていいんですか。」
「さすがにありゃあねえよ。どっちがとんかつで、どっちが豚か、なんて、鬼の所業だ。すまなかったな。」
「いえ。ほんとのことですから。」
先輩は私の頭を泣き止むまで撫でてくれた。
「お前さ。本当に痩せたいのかよ。」
「痩せたいです。」
私はブランコの囲いの手すりにもたれかかる先輩を見つめる。
「だったらさ、俺にその心を見せてみろ。」
「心?」
「ああ、心。さっき教えた俺のダイエット方法、覚えてるか。
“なぜダイエットするかの目的を見つける。”
始めにそう俺は言ったはずだ。お前は、なぜダイエットする。
世の中には色んな理由でダイエットをする奴がいる。
自分を捨てた恋人を見返す為、
綺麗になってもてたいから、
子供の授業参観で、パパ一番かっこいい! と言われたいから
役者、アイドル、モデルを目指す為、
スポーツの減量の為、
夏は露出が増えるから、
何でも良い。
お前はなぜ痩せたいんだ。」
私は下を向いて、俯いた。
「お前は、その「目的」の為に、何でもする覚悟があるか。
それは、「食べる喜び」よりも、重要か。
いきなり、厳しいことを言ってすまない。
確かに俺が教えようとしているトゥルースダイエットは、多くのダイエットの中でそこまで辛くなく、やり易く、食べられ、確実に結果は出るだろう。
だが、少し考えて見ろ。人はどうして太ったと思う。」
私は歯につまった豚肉を、舌でゆっくりほじくりだし呑み込む。
「食べすぎたからだ。」
いつしかそこはカオスダイエットの講義の続きのようになっていた。
イケ先輩は続ける。
「良くいるだろう、お前の回りに、こんなやつ。
「全然食べてないのに太っちゃう。私太る体質なんだあ、運動してるのになあ。」
「私偏食だから、全然食べてないのになあ。」
大嘘だ。
痩せている奴らは、デブがそう言っているのを聞きながら、いつもこう思っている。
「いや、あんた食べてるよ。」
良いか。「食べて痩せる」なんてダイエットは無い!」
私は動揺を隠し切れずに、カバンの中のおからクッキーがかさりとなった。
「あるとしたら、栄養の吸収が遅くて満腹感があるとか、その程度だ。
それに運動もあまり意味は無い。元々プロスポーツ選手だったとかなら話は別だが、運動しないで太ったやつはいない。
お前は、「食べて太った」のだから「太らない為に」食べる量を今より減らす必要がある。
残念ながら正しいダイエットにおいて、それはどうやっても避けられない。
どうだ。それでも、お前は痩せたいか。」
私はイケ先輩を見つめる。
「自由にお腹いっぱい食べるという事は、それだけで本当に幸せで、満たされることだ。
それでお前は救われてきた。だから、太ったのだ。
家族みんなでご飯を食べる団欒のひととき、友達と恋話しながらつまむケーキ。テレビを見ながらほおばる煎餅、茶菓子。お前はそれが捨てられるか。
それを捨ててでも、絶対痩せる! 痩せなきゃ人生終わる!
「目的」の為ならどんな努力も惜しまない! 犠牲もいとわない、絶対やりとげる!
お前に、そんな強い意志があるか?
それがなければ、例え俺のトゥルースダイエットでも、成功は無理だ。」
先輩が立ち上がって私を見る。
「どうだ、お前にその心があるか。あるなら、俺にそれを見せてみろ。」
続く