プロローグ
~プロローグ~
「あの、ジムを解約したいんですけど……。」
私の名前は、稲田ちよ子、70キロ。痩せたい女子高生。
おまえはいつも何か食ってんな、と、あだ名もチョコって呼ばれてる。
だけど……、本当は痩せたい。変わりたい。
そう思って、なけなしのバイト代でジムに通おうとしてみたのだけれど……、見学して契約に行っただけで終わってしまった。
通販で買ったおからクッキーもその日に全部食べてしまった。
だけど、面倒くさい腰を上げて、ジムを解約に来たその日に、私に奇跡が起きた。
(あれは……超高校級イケメン、まさる先輩……!)
まさる先輩、本名、江藤大。私の高校の一つ上の先輩で、雑誌の読者モデルもこなす超高校級イケメン。校内には無数にファンクラブが存在し、体育祭では彼を見るためだけに他校からも生徒が集まる。運動も出来て、その上頭も良くて学年でもトップクラスって言うのだから、なんだか天は二物を与えずという言葉が、完全に嘘に思えてくる。
(先輩がルームランナーを走ってる……。汗も良い香りがするんだろうな……。)
私が鼻の下を伸ばしていると、その時私に、私の人生を変える最大の奇跡が起きた。
「まさる君も偉いわよねぇ。50キロもダイエットに成功するなんて。」
受付のお姉さんが、私にそう、話しかけた。
「え? えーーーーー!!!!!」
○
ジムの裏手、まさる先輩が私に壁ドンしている。これは……夢?
「良いか、忘れろ。」
「……無理です。」
「じゃあ殺す。」
「やっぱり、ほんとなんですか。」
「ああ……見ただろ。」
「……見ました。」
そう、あの後受け付けの世話好きそうなお姉さんは私に、入会時のまさる先輩の写真を見せてくれた。そこには丸々太ったまさる先輩の姿。
「みんなには黙ってろ。」
「どうしてですか、凄いじゃないですか。」
「イメージがあるだろ、俺の!」
「わかった、彼女さんにばれたくないんですね!」
「く・・・っ。」
「図星ですか。」
「ああ、そうだよ! だから、黙ってろ、良いな。でないと……。」
私はにやりと笑った。
「良いですよ。しかたないですねぇー……、だけど」
「なんだよ。」
「そのかわりに、私のお願いを一つ聞いて貰えませんか。」
先輩は戸惑いを浮かべて、瞳で私を射抜く。
「なんだよ、なんでもするよ。」
先輩の横顔は、西日に照らされて、まるで映画の1シーンのみたいだ。私は鼻息荒く、アンパンマンのように顔を真っ赤に興奮させて、唾を飛ばしながら先輩に言った。
「私に、痩せる方法を教えて下さい!」
そうして、私と先輩の二人きりのダイエット講座が始まった___。
~プロローグ~、終。
次回のメルマガに続く。