そして少女は自分だけの世界から飛び出した
「この円が私の世界です。だから、入らないでください」
少女は木の枝で大きな丸い円を描いた。そして、少女は一人空を見つめた。青い青い空を。
少年はずっと少女を見つめた。少年はどんな思いで少女を見つめているのだろう。
少年は少女のことが気になった。
一歩、少女に近づく。
「こないで!!」
少女は怒った。
「円の中には入ってないよ?」
「それでもよ!どうせくるんでしょ!?こないで!」
少女はその場にあった小さな石を投げた。少年の顔に当たる。
「なんで来ちゃいけないの?」
「だって、私はあなたのことを知らないもの」
二歩、少女に近づく。
「そんな円の中にいてもつまらないよ」
「そんなことないわ!」
少女は鼻を高くして言った。
「この丸の中にいる限り私は安全なの!何にも襲われない!」
三歩、少女に近づく。
少女と少年の距離は大分短い。
少年は足で線を消し、円の中に入る。
「ああ、やめてよ!!入ってこないで!」
「僕も入れてよ」
「ダメよ!知らない人は入れないの!」
少女は少年をトン、と押して円から出す。そして、また木の枝で消えた部分を直す。
少年は思いついた。
「じゃあ僕のことを知ってよ」
少年の一言を聞いた瞬間、少女の顔が歪んだ。
「嫌よ。知らないものを知るなんて怖いわ」
少女は俯いた。そして、ぽつぽつと、綺麗な涙を流した。
「円の中に出るのも怖いわ。だって、きっと怖いものがたくさんあるから」
少年はもう一回線を消し、円の中に入った。
「確かに、円の外は怖いものはたくさんあるよ」
少年は泣いている少女の涙を拭いてあげる。
「でも、楽しいものや綺麗なものがたくさんあるよ。君が知らない、ずーっといいものが」
「だけど、知らないものを知るなんて怖いわ」
また少女は涙を流し、いやだいやだと首を振る。
そんな少女に少年は にっこり笑った。
「一人で知ろうとするから怖いんだよ!皆で知れば怖くない!」
「皆で知れば、怖くないの・・・?」
少女は泣き顔で少年に問う。
「うーん・・・分からない」
少女は驚き、一歩下がる。
「それも知らなきゃ!」
少年は少女の温かい手を掴んだ。
「僕も一緒に知る!君の知らないことを!君のことも!」
その瞬間地面から水が溢れる。そして、少女の描いた円が綺麗に消えた。
少年と少女は見つめあう。
「行こ!」
少年は少女の手を掴んだまま走った。
少女は微笑んだ。
「知りたい!いろいろなことを!あなたのことも!」
END