第13話「始まり」
朝日がゆっくりと昇り始めている。先ほどまでは砂漠の先にある地平線に七色の虹が横になっているように見えていたのだが、今は太陽の輪郭がおぼろげに見え始めていた。
塔の頂点付近から微かに煙の上がる『リンレイベル』を背に、エミネは砂埃に汚れたホバーバイクを押していた。
「本当に急いで逃げなくていいわけ?」
彼女は横を歩いている男――アルファに話しかける。彼のペースに合わせてエミネはバイクを押して歩いているわけであるが、彼女の予想では塔で遭遇した部隊が追って来るものばかりだと考えていた。
「大丈夫だ。あいつらの仕事は〈神殺し〉を追いかけるのと同時に、神の間の修復も行わなければならない。あの間に入れるのは神官たちを除けば〈フェンリル〉の部隊員ぐらいなものだからな」
「なんなの、その〈フェンリル〉て?」
「対〈神殺し〉専門の部隊だよ。正確には神の真実を隠す者でもある」
「ふうん……」
エミネは気のない返事をした。が、
「……待って。それじゃ、もしかして私もこれから追われるってこと?」
「そうだな。もしブラックリストが〈フェンリル〉に存在するのならば、間違いなく今回の一件で名前が載っただろう」
しれっとした態度でアルファは返す。彼にとってはどうでもよいことに違いない。エミネは恨めしそうな目で彼を見た。
「……連れて行きなさいよ」
「?」
アルファは立ち止まるとエミネの方を見た。
「どうしてだ?」
「……私は情報屋よ?」
「『もどき』だろ。侵入もろくにできない無計画なガキだろ?」
鼻で笑うアルファにエミネは食い下がる。
「な……歳なんて大して変わらないじゃないの! ってかつれてけ〜」
再び歩み始めたアルファにバイクを押しながらエミネはついて行った。
とりあえず第一部が終わりとなります。しばらく忙しいのでまた「神の殺し方」の連載が途絶えてしまいますが、ご了承ください………ではまた