第11話「戦車」
だいぶ間があいてしまいました。一応、第一部完結までは今年中に更新したいな…と(汗
―ン――ヴヴヴヴゥゥゥ……………
微かな、本当に微かな起動音とともに眼前の多脚戦車のカメラに光が灯った。
「極刑っていっても、逮捕やらなんやら、無駄な過程は踏まない。その場で即死刑だ!」
反論しようとしたエミネに突っ込む。彼女を巻き込み、アルファは床を転がる。一瞬前まで彼のいた空間を戦車のレーザーが射抜いた。
「な…な……」
「死にたくないなら隠れていろ。この部屋から出るのが安全だが……」
アルファが途中まで言いかけたところで、戦車から第二波が放たれる。ただし二人を狙ったものではない。
レーザーがないだ先は入り口の扉の上。ズン、という音がして、入り口はたちまち瓦礫の向こうに埋まる。
「ちっ……」
脱出経路は塞がれた。どうしても自分たちを逃がしたくないらしい。そうプログラミングされているのだろう。
アルファは辺りを見回す。せめて、エミネが隠れられる場所でもあればいいのだが……
――仕方ない。
「危なくなったら逃げろ」
「え?―――ちょ、なにっ?」
エミネの返答を待つまでもなく、アルファは崩れた瓦礫の影にエミネを押し込んだ。
「さぁて……いくぜ、タコ足」
軽く床を蹴ると次の瞬間には戦車から攻撃が放たれていた。これを軽々と回避。
……したかと思うと、そのまま砲身が回転しレーザーが壁をないでいく。アルファが移動するスピードよりも砲身の回転スピードの方が若干速い。ジッと音を上げて外套の裾が焼けた。
――追いつかれるか?
そのことを悟ると、アルファは横っ飛びをしながら銃を構えた。
ダン――!
扉を吹き飛ばしたのと同じ威力のまま弾丸を放つ。着弾と同時に戦車が衝撃で仰け反る。……仰け反るだけだった。さすがに旧大戦中は前線で使用されているものだけに並の装甲ではないのだろう。
もちろん今までその戦車たちを相手にしてきたアルファは冷静に対処する。仰け反った戦車に対し、驚くべき瞬発力で接近し、肉迫。カメラアイに銃口を向ける。
「これなしで狙えるかな?」
引き金が引かれ、銃口からエネルギー弾が溢れるようにして射出される。弾丸は違うことなく戦車のカメラアイを射抜いた。さらに弾丸は戦車内部へと貫通する。本体を貫き、背後までエネルギー弾が貫通した。
「…………」
これはさすがに効いたらしく戦車本体からぶすぶすと煙が上がった。
しかし――
「まだ止まらんか」
ギュラララララララララ―――――――――――
本体の周囲に取りつけられた副砲が狙いもつけずに、でたらめに乱射される。
「ちっ」
アルファに命中することはなかったが、流れ弾が四方の壁をえぐり、辺りに瓦礫の山を築く。弾丸の雨の中をアルファは瓦礫から瓦礫へ移動し逃れた。
「きゃぁ!」
エミネの悲鳴。すぐ近く。
「……大丈夫か?」
気づけば最初に彼女を押し込めた瓦礫の影まで逃げてきていた。すぐ横に彼女がいた。
「大丈夫なわけないでしょ! 倒せるんじゃないの?」
「ああ。できるさ。お荷物がいなけりゃな」
「なにそれ! 私のこと?」
「無駄に見つかるしな」
「ぐ……」
「ま、雑談もここまでだ。そろそろ仕留めないと、後ろを塞がれる」
「後ろ?」
「ああ」
アルファが地を蹴る。横っ飛びのまま両手の銃をかまえると、引き金を引く。弾丸は戦車に命中するものの、逆に位置を悟られ、すべての砲門がこちらを向いた。
殺意を感じる。相手は無機物のはずにもかかわらず、確かに感じる圧倒的な殺意。果たしてそれはアルファの錯覚か、それとも現実なのか。それを感じさせるまでに『神』は進化したというのか。
向けられる銃口。
向けられる砲口。
ドクン――――
一瞬脳裏をよぎる、最悪のイメージ。
全身が弾丸で引き裂かれ、砲弾で粉々に砕け散る。
叩きつけられる身体。
あらゆる未来のイメージがフラッシュバックのように見える。
――――――――うるせぇ。
それらをすべて無視。
一つのイメージ。
先に火を噴いたのはアルファの銃だった。