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第六章 飛んで飛んで

 魔法使いは、次の日の朝早くにやってきました。

 実を言えば、この魔法使いに、アンゼリカを食べるつもりはまったくないのです。

 ただ、ちょっと、ピスキーのことが知りたいだけ。

 そしてできれば、ちょっと、魔法をかけてみたいだけだったのです。

 とは言っても、その魔法がどういう結果になるかは、魔法使いにだってわかっていないことなのですけれどね。

「失礼」

 と、魔法使いは、ねじれた杖で、思わせぶりに扉をノックしてから入ってきました。

「準備はできたかね?」

 うれしそうに笑う魔法使いの大きな鼻が、ぶるんぶるんとゆれました。

 ところが。

「おやあ?」

 どうしてでしょう。

 アンゼリカをとじこめていた虫かごの中に、タオルがつり下げられていたのです。

 それはまるで、サーカス小屋のテントのようで、中の様子がまったく見えないようになっていました。

「あぁあ」

 魔法使いは思いました。

 部屋の中が明るくて寝られなかったのか、と。

「すまんかったね」

 魔法使いは、下から、虫かごをつつきました。

 ですが、中のピスキーは、うんともすんとも言いません。

 元々、あまり気の長いほうでない魔法使いは、いらいらとして、杖の先をトン、と床に打ちつけました。

 タオルはまたたく間に燃えてしまい、虫かごの中がよく見えるようになりました。

「あれ!」

 なんということでしょう。

 ピスキーがいません。

 カギのあいた小さな扉が、キイ、キイ、と、ひらいたり、とじたりしているだけです。

 アンゼリカは見事、してのけたのでした。

「ええ、なんてことだ!」

 魔法使いは、顔を真っ赤にして怒りました。

 そして部屋の中を見まわして、天井の近くに、あの空気穴があったことを思い出しました。

 魔法使いは部屋にあったいすをふみ台にして、穴の中へ、鼻を突き入れました。



「いまだわ!」

 アンゼリカは、このチャンスを逃しませんでした。

 隠れていた、しょく台のかげから飛び出して、ひらいている扉から、ろうかに出たのです。

 なぜって?

 実は、あの空気穴には、虫よけの金あみが張られていました。

 いくらアンゼリカが小さいからって、虫も通れない穴をくぐれるわけがありません。

 それに、こじあけようにも、ぶどうの枝は、カギをあけるのでいっぱいいっぱいだったのでした。

 アンゼリカは、うしろで、魔法使いがわめいている声を聞きました。

 でも、ふり返ってはだめと自分に言い聞かせて、力いっぱい飛びました。

「ああ、どっちに行ったらいいのかしら!」

 魔法使いの屋敷は、中がいくつにも枝わかれしていて、まるで迷路のようです。

 右?

 左?

 アンゼリカはとにかく、外への扉か、窓を探さなくてはいけません。

 そこらじゅうに窓はあるのですけれど、ぜんぶ、はめこみ窓なのです。

 アンゼリカは、左に行きました。

 そして次は、右に行きました。

 でも不思議なことに、どちらに何回曲がっても、お日さまのすがたは全然見えないのでした。

「えい、もう!」

 アンゼリカは、だんだん、腹が立ってきました。

 どうせなら、あのひとの鼻をひねって、外に出る道を教えてもらおうかしら。

 そんなことも思いました。

 ですが、それもなんだか怖くって、結局、前にむかって飛び続けました。

 そうして、つき当たりの道を右に曲がった、そのときです。

 ゆく手をはさむかべが、もこもこともり上がったかと思うと、そこから、あの土だるまが出てきたではありませんか。

 それも、ひとりではありません。

 何十人も、ろうかをうめてしまうくらい、ぞろぞろと出てきたのです。

「え、えっ!」

 アンゼリカはブレーキをかけて、来た道を戻ろうとしました。

 けれども、そこも、土だるまたちでいっぱいです。

 驚いたことに、天井から半分だけからだを出して、ぶら下がっているものまでいます。

 アンゼリカは、あふれるほどの、たくさんの土だるまたちで、どうにもならなくなってしまいました。

「いやよ、だれがつかまるもんですか!」

 強がりを言ったアンゼリカは、天井のランプにしがみつきました。

 すると土だるまたちは手を伸ばして、アンゼリカをつかまえようとします。

「いやよ、いやいや」

 アンゼリカは、窓のひとつに飛び移って、それをドンドンたたきました。

 土だるまたちは先をあらそって、アンゼリカにおそいかかってきました。

「きゃあ!」


 ……ですが。

 みなさんも気をつけてください。

 せまいところで押し合いへし合いをすると、たいてい、ろくなことにはなりません。

 土だるまたちは、なにも考えずに押し寄せてきたので、いちばん前にいた土だるまが、押されて転んでしまったのです。

 その土だるまは、アンゼリカに手を伸ばしていたので、そのまま、パリン!

 アンゼリカの横の窓を、こわしてしまいました。

「あら! ありがとう、親切なだるまさん」

 アンゼリカはそこから、外へ飛び出しました。



 さあ、そこはもう、自由な空です。

 たとえ、くもっていたって、アンゼリカの世界です。

「やったわ! やった!」

 アンゼリカは、力いっぱい、喜びの声を上げました。

 お得意のバック転を、何度も何度も、ひろうしました。

 うしろを見ると、まだ土だるまたちは、もたもたとしています。

 アンゼリカはうれしくなって、ついつい、お行儀が悪いことはわかっていましたけれど、おしりをぺんぺんとたたいてしまいました。

「……おぅい、お前さん!」

 そのとき下から聞こえた声に、アンゼリカは、あっと思いました。

 それは、あの、魔王の声だったのです。

 あたりをきょろきょろと見まわすと、魔王ヤギは、岩だなの上でこちらを見上げていました。

「魔王さん!」

 アンゼリカは、大きく手をふりました。

 すると、ヤギの大きな角も、大きくふられます。

 アンゼリカは、もっともっと、大きく手をふりました。

 ヤギは、前足を岩に打ちつけて、怒ったようにさけびました。

「うしろだ!」


 アンゼリカは、このときほど、お后さまの言葉が身にしみたことはありません。

 それは、

「早とちりするのが、あなたの悪いくせですよ」

 というものでした。

 アンゼリカのうしろには、ホウキにまたがった魔法使いが、それもすぐ近くまでせまっていたのです。

「きゃあ!」

 アンゼリカは、びっくりぎょうてんしました。

 そして、おろおろしていたところに、

「おいで!」

 と、ヤギの声がかかりました。

「早く! 早くおいで!」

 さけぶヤギはもう、山のふもとにむかってかけ出しています。

 アンゼリカは一生懸命、羽がちぎれるくらいに飛んで、ヤギの背中の毛をつかみました。

 ヤギは、足をすべらせたら、まっさかさまに落ちてしまうようながけを、はねるようにくだっていきました。

「ええい、待てえ! 待てえ!」

 魔法使いの顔は、アンゼリカが最後に見たのと同じ、真っ赤になっていました。

 そして時々、むらさきになったり、青くなったりしていました。

 魔法使いは、鼻から白いゆげをぽっぽと出して、右手の杖をふりました。

 すると、ねじれた杖の先から、赤々とした火の玉が飛び出して、ジャンプしたヤギの、足の下を抜けていきました。

 それから何回も、同じ火の玉が飛んできましたけれど、ヤギには全然当たりませんでした。

「きいい、なまいきなヤギめ!」

 魔法使いはもう、顔が虹色になるほど怒っています。

 手を握って、そこに息を吹きかけて、あのときアンゼリカに見せたのと同じやり方で、なにもないところから、大きな鳥かごを出しました。

 その中に入っていたのは、そう、あの火トカゲです。

 魔法使いは、むにゃむにゃと呪文を唱えたかと思うと、きょろきょろとする火トカゲをかごからつかみ出して、空に放り投げました。

「あっ!」


 このとき起こったことを、どう説明すればいいでしょう。

 火トカゲのからだが真っ赤な炎に包まれたかと思うと、それがみるみるふくらんで、夕方のお日さまのように大きくなったのです。

 もちろん、普通の火トカゲにはこんなことできませんし、飛べたりもしません。

 ですが、そのお日さまは、どんどん形を変えて、翼を持った、大きなドラゴンになったのです。

 ドラゴンは、火でできた翼で空をおおいかくして、口から燃えさかる舌をベロベロと出しました。

 そして、アンゼリカとヤギをひとのみにしようと、大口をあけて、飛びかかってきました。


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