↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

おつきさま こんばんは はじめまして 〜わたしのこどもには不思議な力がある〜

作者: 月乃ふくや
掲載日:2026/10/10

読んだことある方もいるでしょうか




 わたしのこどもには不思議な力がある。


 絵本に触れて絵の中のものをスワイプするみたいに動かすことができるのだ。




 その日は、娘はリビングで寝転びながら絵本をいくつもお腹の上に乗せ、開いた絵本の絵に指を当てていた。


 いつもの慣れた光景だった。


 だから、娘が急に金切り声を上げたとき、ベランダにいたわたしは洗濯かごの中の湿った服と服の絡まりを解くために目を離していた。


 声を聞いて慌てて桟を跨いだところに、バタバタと足を鳴らして、絵本の一冊を持って駆けてきた娘は、泣き叫ぶように言った。


「おつきさま、シュッてして、そとにでちゃったあ!」


「はい!?」


 広げられた絵本を慌てて受け取った。


 見ると、本来なら覆っていた雲がどけてにっこり笑っているはずの“おつきさま”がなくなり、ページの真ん中は、ぽっかり空いてしまっていた。


 顔から血の気が引く。


「図書館で借りた本なのに……!」


 返却期限は三日後だった。


「おつきさまがいないぃぃ!!!」と泣き声をあげる娘を宥めるように「大丈夫だよ」と繰り返す。


「大丈夫、ちゃんと探すからね」


 とはいえ、どこにやったのか、見当もつかない。わたしは見ていなかったから。


 ばくばくと鳴る胸を抑えながら、部屋を見渡した。


「……見つかるのかな」


 足の踏み場もない、とまでは言わないがーー




 この『おもちゃばこをひっくり返したような』ごちゃごちゃの家の中から。







 

 “つき”は簡単には出てこなかった。



 絵本の下も含めて、寝転んでいた周りはまず見たけれど、どこに紛れてしまったのか。


 疲れてリビングの真ん中に座り込むと、壁際に、整理しようと思ってそのままにしてしまっていた、もう着られない服の山が目についた。

 

 お尻を引きずるように近づく。


 手を伸ばし、中を探すと、色んな色の服やズボンが大量に出てくること、出てくること……。


 でもおつきさまは、ない。


 それでも諦めずに探しているところで、ふと手が止まった。


 一枚を、引き抜く。


「これ……買ってたのも忘れてた」


 出てきたのは“とれーにんぐぱんつ”。


 必要かなと思って買ったけど、しばらく履かせる余裕がなくて。一度だけ試したら濡れたのが気持ち悪かったのかそれ以降一切履かなくなった。なのに、ある日、実家で言った、わたしの妹の


「娘ちゃんは、ぱんつ履かないの?おねえちゃん、娘ちゃんがお姉さんになったとこ見たいなぁ」


 この一言だけで、翌日の朝、自分でオムツをぬぎすてて、ふつうのパンツを履きだした。


 そうして、こっちはさして使われないうちからお役御免。


「娘ちゃん、ぬらしてないよ!」


 腰に手を当てて自慢げにしていたあの子。


 感心はしたけど


 なんだったんだろ、あの期間……。


 ちなみに、まだ、パンツの前後ろは逆に履きたがる。いちごの絵がおしりにくるのが気にくわないらしい。


「もうすこし探してみよ……」


 そっと畳み、洗濯かごを持ってきて、他の山ごと入れた。


 


 ソファの裏を探した。



 おつきさまは、また無かった。


 でも、横に落ちていた、ぬいぐるみを拾った。


 もともとはわたしが大学生の頃、誕生日に友達からもらったクマだった。お腹にマジックでメッセージが書いてある。


 いつのまにか娘が気に入って、寝る時も、どこにいくにも持っていかないと


「娘ちゃんのくまちゃんー!」


 と泣いていた。


「いいよ、お母さんのだけど、今はあげるよ」 


 そう言ってあずけていたのに


 いつのまにか抱きしめなくても眠れるようになっていたらしい。


「娘ちゃん、くまちゃん、いる?」


 聞いたら


「それ、ちゃあちゃん(お母さん)のでしょ!」 


 とたしなめられた。


「う、うん……そうだけど」


 そうだけどさ。





 さて、おつきさまを探しているのか、片付けをして回っているのかわからなくなってきた。


 牛乳パックと段ボールで作った“家”の残骸へ目をやる。

 

 喜んでたけど、部屋のすみに置いてたし、どんどんボロになり今は場所をとっているだけのそれ。


 めくって下を見る。……“メロンパン”の形をしたおもちゃがおつきさまに見えた。


 一瞬喜びかけて、気落ちしたそのあとに周りを見る。


 正直、ここ、めちゃくちゃおままごとセット、散らばってるんだよね……いっそ一気に片付けたい。


 傾いた“家”、壁は剥がれて床に落ちている。


 眺めていると、娘が来た。“壁”を立てて、その上にままごとセットを乗せはじめる。


「……とりあえず、床に落ちてる、にんじんときゃべつは拾おうか」


「はぁい」


 それだけ。







 寝室。今度こそ、おつきさまだ!と思ったら、おやすみランプだった。


 まだ赤ちゃんと呼べる頃、夜泣きのたびにお供にした、ほんのり明るくなるやつ。

 

「あー、違った」


 どれくらい使っていなかったんだろう。電池が気になって灯りをつけてみようとする。


 ぱち、ぱち。


 スイッチの音だけ。


 娘が寝室にやってくる。


「ちゃーちゃん、どうしたのー?」


「……ううん」


 ただ、腕を伸ばすと、ぱっと笑って抱きついてくる。おしりから腿の下を両腕で支える。子はせみみたいにくっついてくる。


「ちゃーちゃん、抱っこ!?」


「うん、抱っこ」


 こどもの髪から柔らかい匂い。

 まだ大人とはわけたシャンプーの匂い。


 それでも大きくなった。







 だいぶ家の中を探したけど出てこない。


 これだけ探したのに見つからない。


 今日は諦めて、また明日もう一度さがすことにした。幸い、連休中だ。


 眠る前、娘が、もとの絵本を持ってきて「読んで」とせがんだ。


 あれだけ泣いてたのにもう。


 少し笑ってから、開きかけてーーふと思った。


「もしかして」


 ページを開く。いなくなったおつきさまの手前のページ、雲が覆ってお月さまを隠しているページ。


「娘ちゃん、この雲つまんでくれる?」


「いいよー」


 娘が“雲”をつまんで横へとずらす。

 

 ひょいと、おつきさまが、あった。


 喉がなる。


「この、おつきさま、じゃない?」


「ちーがうよ!これは、もともと!」


「……」


 ああーーそうか。


「……じゃあ、ね、それ、つまんでみてくれる?」


「えぇ〜、うん、いいよ」

 

 シールを剥がすように娘がおつきさまをつまんで、はずす。


 つるり。すると


「あ!」


「あ」


 そこに、もう一枚。剥がした月のその下に、また同じ、まるい、“にっこり笑うおつきさま”があった。


「あー……」


 ずるり、肩の力がぬける。


「ちゃーちゃん、あったね!?」


「うん……あった」


「やったやったー!!」

 

 絵本を持って、跳ね回る娘。


 そうして、おつきさまはもとのページに。


 絵本は無事に、図書館にかえった。





 帰り道、わたしはこどもの手を握った。


「ね、今日はこのまま娘ちゃんの好きなところいこっか」


 娘も「うん!」と笑って握り返す。


「……それにしても」


「あの雲の奥、前からおつきさま、あったんだねぇ」


 しみじみと呟いたら、娘はきょとんと首を傾げた。


「うん、あるよ?」


 当然みたいな顔。


 だから、この子は気づかなかった。


 わたしは、元からそこに“雲に隠された月”がいることを知らなかった。


 だから、“探しているおつきさまもそこに隠れている”と娘が気づいていないことに、気づかなかった。


 娘の顔を見つめ、それから笑ってうなずく。


「うん、あるんだよね」

 

 それだけで良かった。



 


こんな雑多な家ないだろうとお思いでしょうか。

嘘偽りない我が家の姿ですw


(世の中のお母さまはもう少しちゃんとしてると思います)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。